2022.01.21
【コラム】ユーザーの感覚とクリエイティブ 今号のお題 [ネット広告]
さまざまな方々に、それぞれの立場から綴ってもらうこのコラム。ひとつの「お題」をもとに書き下ろされた文章からは、日々の仕事だけでなく、その人柄までもが垣間見えてきます。
閲覧傾向のせいなのか、最近怪しいWebデザインスクールの動画広告が目に入ることが多くなりました。その動画広告自体かなり煽ってるスタイルなので、業界人なら高確率で閉口するタイプのものですが、駆け出しのデザイナーさんはこの広告と同じく煽るようなバナー広告をつくるのだろうかと思うと、なんとも言えない悲しい気持ちになりました。
もちろん、自分もバナー広告をつくっていたので懐かしい気もしますが、もう15年近く前の話です。世の中の広告に対する感覚や環境はだいぶ変わってきているのに対して、広告のクリエイティブアプローチってほとんど変わっていないんだなぁとも考えさせられました。
昔から、広告というものは疎まれがちです。むしろ、普段の生活から「広告が多すぎる」「広告が邪魔」と思われる風潮も強く、テレビの録画機器ではCMを飛ばす機能が付いたり、最近ではブラウザにアドブロッカーが入っていたりと、こういった機能が実装されてしまうレベルです。現に世界ですでに40%以上の人がアドブロッカーを使用しているそうで、最近では多くのメディアサイトがアドブロッカーを消すように懇願するポップアップやモーダルを表示させることも多くなってきました。
そもそも広告がそんな印象になってしまったのは、マーケティングを行う側がユーザーの注意や関心を消費するような広告出稿をしてきたからです。空き枠という空き枠からユーザー体験を無視したメッセージングを続けた結果、ユーザーに嫌われてその空き枠すら見られなくなりつつあるという、なんとも皮肉な話です。
でも、本来広告というのはクリエイティブな表現が行われてきた場所でもあります。広告のない世の中は、それはそれでつまらない世界なんじゃないかとも思うんです。
2年くらい前にアイドルグループTEAM SHACHIが「Rocket Queen feat. MCU」という人気アクションゲームの『ロックマン』とのコラボ曲を出すということで、そのミュージックビデオ制作に僕も少し携わったことがあります。内容はTEAM SHACHIのメンバーがロックマンのようなドット絵で冒険していくのですが、ロックマン2のキャラがおじいちゃんとして登場したり、特設サイトでは昔のロックマンと同じ操作感で実際にブラウザ上でゲームができたりと、とにかく元の作品愛にも溢れたプロジェクトで、アイドルとゲーム双方のファンに広く受け入れられた、素晴らしいプロジェクトでした。
YouTubeを見ればわかるのですが「広告を飛ばさないで見た」というコメントがとても多かったのが印象的です。広告だから問答無用に見ない! というわけではなく、ユーザーは見極めているんだな、と思わされました。そもそもロックマン自体がキラーコンテンツということもありますが、ただただキャッチーな広告をつくった、というわけではなく、ここからファン増加につながっているという印象でした。アイドルのファンを増やしたいというところから、潜在層が好むであろうコンテンツ・座組を取り付けて、かつ期待値に応えるクリエイティブにまで落とし込む。そこでようやく書いてもらえるコメントだったんだと思います(ちなみに曲も超かっこいい)。
ややエクストリームな事例を出してしまいましたが、これも広告というフィールドがなければ実現しなかったプロジェクトなんです。広告というとどうしてもユーザーの心理を操る悪い方向に捉えがちですが、広告を通してユーザーにもっと愛されるコンテンツや表現が増えていけば、もっと業界全体が良い方向に向かえるのではないかと思います。