【コラム】ユーザーの感覚とクリエイティブ|WD ONLINE

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将棋世界ワイド版 2022年1月号

【コラム】ユーザーの感覚とクリエイティブ 今号のお題 [ネット広告]

さまざまな方々に、それぞれの立場から綴ってもらうこのコラム。ひとつの「お題」をもとに書き下ろされた文章からは、日々の仕事だけでなく、その人柄までもが垣間見えてきます。

閲覧傾向のせいなのか、最近怪しいWebデザインスクールの動画広告が目に入ることが多くなりました。その動画広告自体かなり煽ってるスタイルなので、業界人なら高確率で閉口するタイプのものですが、駆け出しのデザイナーさんはこの広告と同じく煽るようなバナー広告をつくるのだろうかと思うと、なんとも言えない悲しい気持ちになりました。

もちろん、自分もバナー広告をつくっていたので懐かしい気もしますが、もう15年近く前の話です。世の中の広告に対する感覚や環境はだいぶ変わってきているのに対して、広告のクリエイティブアプローチってほとんど変わっていないんだなぁとも考えさせられました。

昔から、広告というものは疎まれがちです。むしろ、普段の生活から「広告が多すぎる」「広告が邪魔」と思われる風潮も強く、テレビの録画機器ではCMを飛ばす機能が付いたり、最近ではブラウザにアドブロッカーが入っていたりと、こういった機能が実装されてしまうレベルです。現に世界ですでに40%以上の人がアドブロッカーを使用しているそうで、最近では多くのメディアサイトがアドブロッカーを消すように懇願するポップアップやモーダルを表示させることも多くなってきました。

そもそも広告がそんな印象になってしまったのは、マーケティングを行う側がユーザーの注意や関心を消費するような広告出稿をしてきたからです。空き枠という空き枠からユーザー体験を無視したメッセージングを続けた結果、ユーザーに嫌われてその空き枠すら見られなくなりつつあるという、なんとも皮肉な話です。

でも、本来広告というのはクリエイティブな表現が行われてきた場所でもあります。広告のない世の中は、それはそれでつまらない世界なんじゃないかとも思うんです。

2年くらい前にアイドルグループTEAM SHACHIが「Rocket Queen feat. MCU」という人気アクションゲームの『ロックマン』とのコラボ曲を出すということで、そのミュージックビデオ制作に僕も少し携わったことがあります。内容はTEAM SHACHIのメンバーがロックマンのようなドット絵で冒険していくのですが、ロックマン2のキャラがおじいちゃんとして登場したり、特設サイトでは昔のロックマンと同じ操作感で実際にブラウザ上でゲームができたりと、とにかく元の作品愛にも溢れたプロジェクトで、アイドルとゲーム双方のファンに広く受け入れられた、素晴らしいプロジェクトでした。

YouTubeを見ればわかるのですが「広告を飛ばさないで見た」というコメントがとても多かったのが印象的です。広告だから問答無用に見ない! というわけではなく、ユーザーは見極めているんだな、と思わされました。そもそもロックマン自体がキラーコンテンツということもありますが、ただただキャッチーな広告をつくった、というわけではなく、ここからファン増加につながっているという印象でした。アイドルのファンを増やしたいというところから、潜在層が好むであろうコンテンツ・座組を取り付けて、かつ期待値に応えるクリエイティブにまで落とし込む。そこでようやく書いてもらえるコメントだったんだと思います(ちなみに曲も超かっこいい)。

ややエクストリームな事例を出してしまいましたが、これも広告というフィールドがなければ実現しなかったプロジェクトなんです。広告というとどうしてもユーザーの心理を操る悪い方向に捉えがちですが、広告を通してユーザーにもっと愛されるコンテンツや表現が増えていけば、もっと業界全体が良い方向に向かえるのではないかと思います。

ちなみに私はゲームマスターという謎の役割で、実際のミュージックビデオの中のプレイを担当しました。楽々クリアできるまで頑張ったところ、「もう少し苦労している感じだしてください」とゲームプレイでディレクションされるという貴重な体験をしました(笑) 「ROCKMAN 20XX~戦え! TEAM SHACHI~」企画・制作:Whatever Inc. 
©CAPCOM CO., LTD.
©WARNER MUSIC JAPAN
https://rocketqueen.games/
ナビゲーター:三瓶亮
株式会社フライング・ペンギンズにて新規事業開発とブランド/コンテンツ戦略を担当。
また、北欧のデザインカンファレンス「Design Matters Tokyo」も主宰。前職の株式会社メンバーズでは
「UX MILK」を立ち上げ、国内最大のUXデザインコミュニティへと育てる。ゲームとパンクロックが好き。
個人サイト: https://brainmosh.com Twitter @3mp

掲載号

将棋世界ワイド版 2022年1月号

将棋世界ワイド版 2022年1月号

2021年12月15日発売 本誌:1,840円(税込)

本誌の2倍サイズで読みやすい

サンプルデータはこちらから

●特別企画
・第71期 ALSOK杯王将戦 挑戦者決定リーグ全局ファイル〈前半戦〉記/押沢玲
・藤井聡太竜王誕生に寄せて 天才棋士たちのエピソード―少年期編― 記/鈴木宏彦
・上田初美女流四段×伊藤沙恵女流三段×塚田恵梨花女流初段 女流棋士新春座談会 構成/相崎修司

●プロ公式戦
・第34期竜王戦七番勝負【豊島将之竜王VS藤井聡太三冠】
【第3局】先入観先入観なんてぶっ壊せ 記/大川慎太郎
【第4局】史上最年少四冠の誕生なる! 記/鈴木宏彦
・第1期ヒューリック杯白玲戦七番勝負【西山朋佳女流三冠VS渡部愛女流三段】
【第4局】今後の大きな自信に 記/藤本裕行
・第3期大成建設杯清麗戦五番勝負【里見香奈清麗VS加藤桃子女流三段】
【第3、4局】里見、負けない指し回し 記/編集部
・第11期リコー杯女流王座戦五番勝負【西山朋佳女流王座VS里見香奈女流四冠】
【第1局】頂上決戦は紙一重 記/相崎修司
・霧島酒造杯第43期女流王将戦三番勝負【西山朋佳女流王将VS里見香奈女流四冠】
【第3局】里見、女流五冠復帰 記/荒井勝
・第29期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負【里見香奈倉敷藤花VS加藤桃子女流三段】
【第1局】玉頭にイナズマの一撃! 記/編集部

●講座等
・徹底解析 藤井聡太 コンピュータソフト「やねうら王」と行く藤井将棋観戦ツアー
 【第13回】第80期順位戦B級1組 VS久保利明九段 ガイド/西田拓也五段
・石川優太の三間飛車を指してみよう 第4回 先手三間vs 急戦① 講師/石川優太四段
・詰将棋を作っちゃおう 第13回 講師/上田初美女流四段

●戦術特集
軽サバなんて怖くない!―金銀の圧力でサバキを押さえ込もう!― 総合監修/石田直裕五段
Chapter1 講座 「振り飛車によく効く押さえ込み術」
Chapter2 好局鑑賞 「プロの指し回しから学ぼう」
Chapter3 次の一手 「局面の急所を解いて覚えよう」

●エッセイ/インタビュー
・リレーエッセイvol.13 記/室田伊緒女流二段
・なんでも聞いちゃうぞ! ゲスト/佐藤天彦九段
・戦国順位戦「C級1組」 記/泉正樹八段

●その他
・AI将棋入門―人工知能はいかに人間を超えたか― 第10回「アルファ碁とその後の展開」 記/松原仁
・昭和名棋士次の一手 第13回「花村元司九段」 記/田丸昇九段

●付録
・初段のしのぎ 武市三郎七段