2021.09.03
知的財産権にまつわるエトセトラ Web Designing 2021年10月号
ファスト映画と著作権 ~青山ではたらく弁護士に聞く「法律」のこと~
身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。
2時間程度の映画を10分程度に短く編集した「ファスト映画」と呼ばれる動画の投稿者が摘発されるという事件がありました。
ファスト映画が侵害する著作権は右の図のとおりです。まず編集するための素材となる映画をPC等に記録することは複製権の侵害です。そして、取り込んだ映画を編集して短い動画(一部が静止画の連続になっている場合もあります)にしたり、ストーリーを紹介する字幕を挿入したりしていることが翻案権、そして同一性保持権を侵害します。そして、出来上がったファスト映画をネット上に投稿することは公衆送信権を侵害します。
ただ、YouTubeでは権利者が投稿動画の利用を管理するコンテンツIDという仕組みが導入されています。権利者はコンテンツIDを利用して、複製した動画の投稿をブロックすることもできますが、広告を表示してその収益の一部の分配を受けること(マネタイズ)もできます。
投稿されたファスト映画が視聴できるということは権利者が投稿をブロックせず、広告による収益の分配を受けることを選択したということになります。実際にファスト映画による広告収益の一部が権利者に分配されている例もあるようです。そこで、投稿者の中には、ファスト映画の投稿は権利者が許可をして収益の分配も受けているのだから著作権を侵害しないと考えている人もいるようです。
ただ、予告編のような、映画の視聴を促す動画とは異なり、ファスト動画は映画のネタバレにより、視聴をする人を減らしてしまいます。権利者がコンテンツIDでマネタイズを選択しているからといって、映画を編集してこのようなファスト動画をつくり、投稿することまで容認したと考えることはできないでしょう。特にコンテンツIDを利用しているのは映画の著作権者(映画製作者)ですが、同一性保持権のような著作者人格権は監督・プロデューサーが持っており、いずれもコンテンツIDの仕組みには関係していません。ですから、コンテンツIDがあっても編集をしたり字幕を入れたりすることは許されません。このように、ファスト映画が著作権・著作者人格権を侵害することは明らかです。
ファスト映画は一度投稿された段階で権利侵害となってしまいます。投稿を削除してもこのことは変わりません。現在投稿されているコンテンツはもちろん、既に削除されたコンテンツについても投稿者を特定することは可能です。今年の4月に、投稿者を特定するための手続きを定めたプロバイダ責任制限法が改正され、手続きが迅速化されました(法律の施行は2022年になる見込みです)。ファスト映画に限らず、違法な動画を投稿した人はより早く、確実に責任を問われるようになると予想されます。