2021.03.29
Bay Area Startup News Web Designing 2021年4月号
ハイブリッド診療を実現する「Carbon Health」 医療サービスを一括予約、遠隔診療を手軽に。
海外で起こっている、あるいは起こりつつある新しいビジネスの潮流、近い将来に日本にやってくるであろうビジネストレンドなどを紹介・考察します。米国サンフランシスコ在住の筆者が、サンフランシスコおよびシリコンバレーの「ベイエリア」を中心に、イケてるスタートアップを中心とした会社、サービスを毎月1つ取り上げながら、その背景や目的、今後日本で起こりうるトレンドについて追究します。
リアルとバーチャルの診療を組み合わせたハイブリッド診療
昨今の世界中を巻き込んだパンデミックの影響で、スタートアップ界隈でもっとも注目されているジャンルの一つが、医療系のサービスです。アメリカでは診察などをきっかけにした感染を防ぐためにできるだけ遠隔での診断が勧められており、その仕組みを提供するスタートアップがさまざま登場しています。その一つが、今回紹介する「Carbon Health」です。
Carbon Healthは、「すべての人にとって健康であることは基本的な人権」という理念、「プライマリーヘルスケア(PHC)」の精神に則る企業で、「オムニチャネルケア」と呼ばれる、デジタル技術を駆使したバーチャル診療とリアルな対面診療を組み合わせた「ハイブリッド診療」の実現、普及に取り組んでいます。
同社は診察予約から処方箋の配達、過去のカルテデータ管理までをアプリ上で一括で行えるサービスを提供しています。診察を受けたり施術や薬の提供を受けるユーザーは、あらゆる医療サービスをまとめて一つのプラットフォームで予約・管理でき、医療サービスの提供者は診察後のフォローアップを適切に行うためのカルテデータを得ることができる環境を生み出しました。そして、各地域に散在する医療サービスをデジタル上で統括し、ユーザーと医療従事者、どちらも利便性を高めることに成功したのです。
2015年に設立された同社は、2019年までにアメリカを中心に拠点を6州27拠点まで拡大し、2020年の5月には2,800万ドルの資金提供を、11月には1億ドルの追加出資を獲得しました。その一番の目的は、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染を検査するポップアップステーションの設置です。簡単に言えば、空き地などを利用し一定期間出店する「ポップアップストア」の検査機関版です。
現在アメリカでは、誰でも無料で新型コロナ感染の検査を受けることが可能で、保険未加入者でも政府によってフォローされます。希望する人は誰でも検査が受けられるので、Carbon Healthは空いている駐車場などのスペースにプレハブ型のテストステーションを設置、オンラインで予約するだけで検査を受けられる場を提供するのです。
筆者も実際にそのテストを受けてきたので、次ページではそのユーザー体験を中心にレポートします。
手軽に予約&検査できるポップアップステーション体験
まず同社のWebサイトにアクセスし、自宅もしくは勤務先から一番近い検査ステーションと希望日時を選択します。今回は、弊社btraxのサンフランシスコオフィスから徒歩数分で行ける距離の検査ステーションを選び、翌日に予約することができました。ちなみに、アカウント作成に必要なのは、名前、メールアドレスと電話番号のみ。その後のデータ管理は、すべてWebもしくはアプリで行うことができます。 実際に予約をすると、その旨がショートメールとアプリから通知されます。検査当日の朝にもリマインド通知が来たのは助かりました。
次の日、実際に検査ステーションに行ってみました。現地には小さな施設がつくられており、入り口で名前とIDを提示してチェックインします。待ち時間はほとんどなく、スムーズに検査が始まりました。ここで驚いたのが、ドクターがリアルで対面することなく、すべてiPad経由で診察を行うスタイルだったことです。感染を最小限に抑えるためなのはもちろんのこと、限られた人数のドクターが全米に広がる各拠点を効率良く診察するための方法というわけです。
症状があるかないか、感染者と接触した記憶があるかなどのiPad経由の問診が終わった後、現地滞在の担当者によって実際の検査が行われます(さすがにここはリモートとはいきませんでした)。すべてに費やした時間は2分以内。結果は2~3日後にアプリの通知によって知らされるとのこと。実際に2日後に通知が届けられました。
「新常態」で失われた貴重な体験を提供
このAmong Usは、モバイル版は基本無料、PC版は4ドル。英語だけではなく、スペイン語、ポルトガル語、韓国語にもローカライズされており、チャットでの言語もユーザーが選ぶことが可能。開発元はInnerSlothという会社で、オレゴン州立大学の2人の同級生がスタートし、現在は4人のゲームデベロッパーが中心となっています。チームの本拠地はワシントン州ですが、基本的にリモートで開発を行なっているため、メンバー同士が会うことも滅多にないとのこと。
InnerSlothによると、2020年9月の時点でモバイルアプリだけでもダウンロード数は1億以上。全体で平均で6,000万人のユーザーが毎日いるというから驚きです。App Store、Google Playともに2020年第3期におけるもっともダウンロードされたゲームとなっており、モバイルアプリからの売り上げだけでも月収1,500万ドルを超えています。
実はこのゲーム、約2年前に初めて配信されたものです。その当初は正直、鳴かず飛ばずだったものが、2020年半ばになって話題になり始め、口コミやYouTubeでの紹介をきっかけに突然ブレイクしたのです。2020年半ばといえば、前述したとおり世界中がウイルスの脅威に晒され、従来の生活や行動が強制的に制限されたタイミングと重なります。
誰にでもわかりやすいUXを持ち、10分程度でプレイ終了できるカジュアルさがある前提で、チャットによって年齢や身分など関係なく1つの目的(犯人を探す)に向かってコミュニケーションを交わせる。2019年以前から進んでいるデジタルコミュニケーションの動向や需要と、現在人々が欲している体験を提供していると考えると、ブレイクしたのも納得できることだと思います。
医療のデジタル化は必須求められるユーザー体験とは
アプリ内には正式な診断書も記載されるほか、それまでのプロセスの記録が明記されているため、ユーザー体験の側面から見てもかなりストレスが少ないと感じました。おそらく日本では本格的な医療のデジタル化にはまだまだ課題が多そうですが、その流れは必ず来ると思われます。そこで求められるのは、よりスムーズで間違いを最小限に抑えるユーザー体験。今回のCarbon Healthが提供する、オンライン+オフラインでの体験はかなり参考になると思います。
ちなみに、Carbon Healthは今後ワクチンの準備が整い次第、ワクチンの普及に役立つインフラを提供することも視野に入れています。