2020.12.25
ECサイト業界研究 Web Designing 2021年2月号
ECのリアル2021 コロナ禍以降の重要ポイント
2020年の経済は新型コロナの影響を受け、さまざまなことが起きました。その中でECは非常に好調でほぼ全業種で大きく成長していると言ってよいでしょう。さて、2021年のECはどうなるのでしょうか?
新常態のEC状況
ECが2020年の新型コロナウイルス感染拡大の影響をもっとも大きく受けているジャンルの1つだということは、皆さんの生活を振り返ってみても実感できるところではないでしょうか。
数字を見ても、ECのフロントにあたるECモールの状況、それら各モールのそれぞれの業種の状態、各店舗のデータ、さらsが非常に好調だったことが伺えます。5月25日に緊急事態解除が宣言された後、巣ごもり消費の一服感が出てきたものの、消費者の商品を購入する手段としてECはもはや一般的なものとして認識されていると言えます。
さらに面白いのは、消費者の購買行動です。2020年によく売れている商品を見てみると、安くても品質の悪そうな商品には手を出さず、少し高いけど安心安全、高級志向だけどポイントやクーポンで割安感がある買い方、そしてテレワークや自宅でのちょっとした困り事の解決や楽しみにつながる商品が伸びている印象があります。
外出自粛の影響でテレワークや自宅で使う商品が伸びるのは当然と言えば当然ですが、2020年以前からECでの購入に対する敷居が徐々に低くなっていました。ネットリテラシーの向上が2020年をきっかけにさらに習熟度を増し、人々がネットショッピングに関する知識や情報を得て「賢い買い方」をし始めたとも言えると思います。
海外はさらに拡大
ECの伸長はもちろん日本だけでなく、海外でも起こっています。米国の2020年の状況を見ると、食品関連は前年より約1兆5,000億円増え、エレクトロニクス関連は前年より約3兆2,000億円増、インテリア関連は前年より約1兆8,000億円増、商品受け取り関連は前年より約1兆9,000億円増と予測されています。特にネットで購入して店頭で受け取る「BOPIS(Buy Online Pick-up Instore)」は流行りましたし、2021年はさらに普及するだろうと言われています。
米国で約4割のシェアを持っているAmazonも10月13~14日にホリデーショッピングシーズンのキャンペーンを開始したところ、売上高が35億ドルを超え、前年比でほぼ60%増加したとのことです。
さらに、中国もとてつもない状況になっています。2020年のW11(ダブルイレブン、独身の日)は、過去最大となる25万以上(2019年は20万)のブランドが参加して、前年が5億人と言われていましたが、2020年は8億人以上のユーザーがアリババのサービスを利用しました。最終的には流通総額4,982億元、日本円にして約7兆8,000億円を記録しています。
2019年と比べて26%増となっていますが、1日の売上が5兆円から7兆8,000億円ですからとんでもない数字です。楽天市場の年間流通額が3兆円と言われていますので、2倍以上の流通をたった1日で達成したことになります。日本の人口を考えてもいかにすごい数字かがわかります。
ちなみに、中国で人気のライブコマースですが、アリババのライブコマース・サービス「タオバオライブ」で、販売された流通総額は1億元、日本円で約16億円を達成したと発表されました。
D2Cの浸透、マイクロブランドの台頭
そんな状況下、ECの施策面でも特筆すべきことがあります。2019年から徐々に注目されてきたD2C(Direct to Consumerの略。メーカーやブランドが流通業者を介することなく自社ECサイトで直接消費者に販売するビジネスモデル)がますます浸透してきたことです。それにより、顧客一人ひとりのニーズに応えるため、高品質の商品を少数ロットで提供する「マイクロブランド」が急激に拡大してきています。
日本では例えば「もりのがっこう」(https://www.morigaku.jp/)。商品はCtoCのハンドメイドマーケット「mine(ミンネ)に出品し、自社サイトをつくって販売していますが、運営する後藤麻美さんは20代前半にしてこのブランドを立ち上げ、同じ年代の困ったところを商品化した点と、アパレルのゴミを0にしたいという気持ちにユーザーが共感し、売上はすでに億を超えています。
このような例は確実に増えており、そういった文脈から例えば花屋のサブスクリプション(サブスク)モデルや家具のサブスクモデルなど急速に広がっています。家具のサブスクサービスは昨年比で450%を達成していて絶好調のようです。人が欲しいと思っているサービスや商品、テレワークや新しい生活様式で困っていたことを解決してくれる商品を手軽に購入できるところ、時代の流れに沿って、今までのサービスや商品を諦めてすぐに新しいサービスや商品を考えて実践するところは、企業のEC運営においても見習うべき部分があるのではないでしょうか。
コロナ禍の不透明な消費
ここまで、2020年の大まかな状況を見てきました。では「withコロナ」を前提とした2021年のECはどう捉えればいいでしょうか? まずは大きな目線で見てみることにしましょう。
三菱総合研究所の予測(07)によると、もし新型コロナ感染が終息したとしても、その消費は感染拡大前の水準まで回復しない可能性が高いとしています。その根拠として、同社が2020年10月に調査した消費意向は3カ月前の7月調査と同じような傾向にあり、外食や室外娯楽は増える傾向になっているものの、他の項目では消費を減らす方向になっています。
例えば衛生・医療用品は、7月には高い消費意向だったのが少し落ち着いてきているようです。衣類・靴、住宅・自動車、室内娯楽、家具・家電なども7月に比べると大きく減らす傾向が強くなっています。これは、緊急事態宣言明けの6月、7月で「久しぶりにお買い物したい」という気持ちが強まったことで財布の紐がいったん緩んだ人が多いこと、逆に先行き不透明な状況や今後のリモート生活による危機感などから、再度同じような状況になるかもしれないと考えて需要の先食いもあったと考えられます。
しかし、2020年11月中旬に来てまた新型コロナウイルスの感染が急速に拡大してきています。2020年12月の段階では再び緊急事態宣言が出されるかどうかわからない状態ですが、先のGoToキャンペーンの一部一時休止の影響は軽くないと思われ、外食や室外娯楽も厳しくなると予想できます。
また、消費の持ち直しがあったとしても、将来の不安が消費の抑制要因になることは間違いないと思われます。政府からの発表やマスコミの報道では楽観的なシナリオを見ることがありますが、2021年の物価はマイナス傾向にあると言わざるを得ません。消費税率の引き上げの影響や一部商品の値上げもあるのですが、消費者が同じ商品ならより安く販売しているお店で購入しようとか、ポイントやクーポンでお得感があるお店で購入しようとする傾向は拭えません。この傾向はしばらく続くと考えたほうがよいでしょう。
2021年は「負けない」商売
消費者の動向に目を向けてみると、ネット主体の生活やビジネスを余儀なくされ、リアルでの対面の重要さ、お店を見渡した時の一覧性の良さを再確認された方が多かったのではないかと思います。
しかし、ワクチンが開発されたとしても全世界に行き渡るには時間が掛かり、新たな感染症が出てくる可能性も考えると、ここ2、3年は以前のようにリアルで気軽にお買い物というわけにはいかないでしょう。ECがその補完をして、ますます重要な流通チャネルになっていくのは間違いありません。リモート生活や新しい生活様式はもっと加速すると予想できますので、ネットで購入する割合はさらに増えます。
商品提供側から見ると、今までリアルだけの店舗や今までメーカーとしてECをやってこなかった企業もどんどん参入してきます。その投資額はECをすでにやってきた店舗からすると考えられないほど大きな金額になります。さらに、行政も助成金、補助金などで支援体制を整えてきます。こういった行政の支援で共同開催すると、大きな爆発力になることは間違いありません。小さなお店が生き残っていく方法として、このような支援をうまく使っていくことは大切なことです。
リアル店舗だけで生き残るというのは厳しいですが、ネットショップを開設してデジタルの窓口を持つこと、店舗がある周辺だけで商売するのではなく、少し大きめな商圏をネットの力でカバーするという考えはこれからの時代は必要になります。
そして、消費者へのアプローチ方法も従来の考えではついていけなくなるかもしれません。最近の若い方は、映画でも小説でも先にネタバレを見てワクワク感がない状態で映画や本を読む方が増えているそうです。彼らにとっては、もうサプライズは不要で、シナリオどおりに運んでもらいたいという、今までいろんなことがあった生活環境からの意向が滲み出ています。
そう考えれば、ネットやSNSでの口コミ・評価、ECサイトでのページのづくりや情報量などはとても大切になってきます。
また、リアルのお店を持つのは非常にお金がかかりますが、ECはサーバが落ちなければほぼ半永久的に安い窓口を持つことになります。最近では無料のカートでもHTMLやCSSを使えるようになってきました。制作会社やデザイナーと組めば自分のお店らしいデザインで表現できるようになります。
2021年は不安も多いですが、ECは伸びます。リアル店舗とのハイブリッドはさらに加速するでしょう。あとはいかに取り組むかです。勝つというよりも「負けない」商売をするというのは大事な戦略です。