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いま、Web制作者に求められるものとは?(1) コロナショックとオンライン化する社会

私たちの生活に大きな影響を与えたコロナショック。ビジネスや働き方の変化に伴い、Webサイトに求められるものも変わってきています。Web制作会社の代表4人に、現状と今後をお聞きしました。

中川直樹さん(写真:左上)
株式会社アンティー·ファクトリー 代表取締役。ADとしても活躍中。Web制作をメインに、映像、インタラクティブ、マーケティングまでワンストップで対応。 https://www.un-t.com/

志水哲也さん(写真:右上)
株式会社タービン·インタラクティブ 代表取締役。BtoBマーケティングを強力に支援する戦略型Web制作会社。名古屋·東京·宮古島に拠点があり、リモートワークも実績あり。 https://www.turbine.co.jp/

枌谷力さん(写真:左下)
株式会社ベイジ 代表。デザイナー。BtoBに特化したWeb制作会社として、直接クライアントと取引し戦略工程から参加することが多い。積極的な情報発信も注目されている。 https://baigie.me/

山口裕介さん(写真:右下)
株式会社リクト 代表取締役。福岡市にオフィスを構え、BtoCのスモールビジネスを中心に、プランニングからサイト制作、運用·改善までサポートする、地域密着型制作会社。https://www.lct.jp/

もう一度話を聞きたい

緊急事態宣言が全国に拡大された直後の4月23日、アンティー・ファクトリー 中川直樹さん、タービン・インタラクティブ 志水哲也さん、ベイジ 枌谷力さん、リクト 山口裕介さんら4名は、有志による無料のウェビナー「コロナショックはウェブ制作をどう変えるか?」を開催しました。

いまWeb制作業界の状況はどうなのか、今後どんな取り組みをすればいいのか…先行きへの不安がもっとも高まっていたタイミングで、現状を肌で知る人たちの語る言葉は、聞く人を勇気づけるものになりました。結論はないとわかっている話でも、誰かの言葉が次の打ち手にヒントを与えてくれることがあります。

それから1カ月。社会的に次のフェーズが見え始めたところで、改めてこの方々に、現状と今後についてお話をうかがいたいと考えました。Zoomでインタビューを行ったのは、ちょうど首都圏を含む全国で緊急事態宣言が解除された5月26日でした。

 

①リモートとオフィス、強みの「ハイブリッド」

「やればできる」と証明されたリモートワーク。もうオフィスはいらない? 企業·オフィスのあり方とこれからの働き方の行方を聞きました。

 

WD:緊急事態宣言が全国で解除されましたが、今後の勤務形態をどのように予定していらっしゃいますか?

中川:うちは、しばらくは出社とリモートワークのハイブリッドです。出社に不安があれば例外なくリモートを認めるものの、基本出社日は平日3日以上と多めになるよう要請しています。理由は2つあります。

1つは、今回、会社全体でリモートワークの実験&実践ができ、一部仕事に集中できる、移動時間の排除による効率化のメリットもありました。しかし「コミュニケーションロス」によりクオリティが担保できない可能性、「マネージメントロス」によるスタッフのワークライフバランスの崩れ、評価基準の確立の難しさなどのデメリットも感じました。会社の発展として重要なことは、メリットの享受は受けても、デメリットを出さないことです。

リモートワークは米国IT系を中心に企業戦略として導入されるケースがありましたが、2010年以降AppleにしてもGoogleにしても縮小傾向でした。理由になったのがいま挙げた2つの「ロス」です。これを補うのが以前お話しした社員の「自律性」なのですが。

WD:リモート環境では目的意識を持ってアジャイル的にチームを良くしていく行動が大切、というお話しですね。

中川:はい。そういう自律性を持って動ける人がどれくらいいるかが会社全体をリモート化していく上で重要なのですが、様々な人がいる中で自律性を持つ人の占める割合を上げていく努力も必要です。社会的にリモートワークが推奨されても、現実はまだ準備が足りていないし、やはり簡単ではないなぁと思います。

WD:なるほど、必要なのは制度や環境だけではないんですね。もう1点はなんですか?

中川:これも前回お話ししましたが、会社組織として「場」を大切にしています。単に定量評価で報酬を払う関係ではなく、帰属意識や人を育てる役割も含めて、会社の意味を追求していきたい。移民の国アメリカでは、星条旗に象徴される思想の下に人が集まったわけですが、日本には城があり領主がいて、領地を守ることで領民の安寧を保っていた関係性がありました。会社という組織内でお互いを肌で感じるリアルな「場」を易々捨てるのではなく、これを守ろうと皆で一丸になれることが会社の発展とお互いの生活を守ることに繋がっていくと信じてます。そういう「場」の重要性から、出勤とリモートのハイブリッドで企業文化を作って行きたいと思います。

WD:志水さんはどうですか?

志水:当社は完全にリモートワークでしたが、6月1日からも出社3割を目安に、できるだけリモートを続ける予定です。南の島にサテライトオフィスを運営している会社としては、この機会にリモートワークのレベルをさらに上げたいという意識が強いですね。これには、私たちのお客様が苦しんでいらっしゃる点だからという理由もあります。

私たちの事業はWebを使ってビジネスを変えていくことですが、私たちが上手にできていない施策をお客様に勧めたり、支援することはなかなかできません。リモートワークについても小さいなりにサンプルになる形を体現することが重要だと考えています。

WD:実践経験が価値になるわけですね。実際に、それに関連した問い合わせはあるのでしょうか?

志水:ありますね。直接のご質問もそうですし、弊社のWebサイトへのトラフィックにも現れています。2月、3月、4月とグッと増えていて、多く読まれているのはオンライン会議や業務のデジタル化についての記事なんです。お問い合わせも、単にWebをリニューアルするというより、Webを中心にマーケティングや営業活動を再構築するような内容のご相談が増えている状況です。

枌谷:うちも同じ理由で、6月いっぱいまでリモートで、7月からハイブリッドにする予定です。せっかく完全リモートに慣れてきたところなのでもう少し続けたいということと、7月以降のハイブリッド環境のためにどんな体制が良いのか、もう少し模索したい部分もあります。中川さんと同じく、オフィスの良さ、リモートの良さはそれぞれあると考えていて、最高の環境とは両方の選択肢があることじゃないかなと思います。

実はマネージメントの面では今のところ全く問題はなく、リモートの方が好きという人も増えているんですよね。でも、家族の状況や机・椅子の問題など、環境として仕事がしにくい人は一定数いるので、やはりオフィスは必要だと思っています。

WD:事情に合わせて個人が選べることが必要なんですね。山口さんはいかがですか?

山口:はい、弊社としてのリモート推奨期間はいったん5月末で解除なのですが、完全に感染の流行が終息したわけではないので、まだ出社は控えたいという声も社員から出ています。なので、今後は出社を推奨しながらもリモート環境は残し、選べる状態を保つ必要があると思っています。

社内のアンケートでも週3~4日はリモートを希望する意見が一番多かったので、家の事情や案件の進捗状況などに応じて使い分けてもらう考えです。リモート期間中もクライアントと接点のある業務では出社することがあり、今後は訪問を希望されるケースも出てくると思うので、完全にリモートを続けるのは難しい面があると思っています。

WD:やはり併用型なんですね。

山口:はい。もともとフレックスではあるのですが、今後のルールをどうするか社労士さんと相談を始めたところです。

WD:一部ではこの流れでオフィスを減床したり、解約する企業もあるようですが。

枌谷:うちは、減らしてはいないのですが、増やす予定をやめました。4月以降で社員が4人増えて、本来なら席が足りないのですが、リモートワークを上手に使えば増床の必要はないかな、と。私やディレクター陣のようにお客さんとの折衝が多く、デスクを使う頻度が少ないメンバーはフリーアドレスにする、などを考えています。

志水:うちも東京オフィスが同じような状況ですが、それでいいんじゃないかと。逆に、今後は最初からリモートワークを前提にした採用も、可能性があるかもしれませんね。

WD:リモート環境では研修やトレーニングが難しいと聞きますが、いかがですか?

志水:4月に入社した社員は頑張ってやっていますね。もちろん対面ではないので、短くてもこまめにコミュニケーションを取るようにしています。あとは、エンジニアなので上司と画面共有してコードを書くことはかなりやっていますね。

枌谷:うちも、新卒未経験者が入ってきていますが、今のところ問題はないです。基本スキルについては1カ月分くらい研修プログラムがあるのと、あとは「Discord※1」でバーチャルオフィスをつくって常時接続し、お互いいつでも話しかけられるようにするなど、新入社員でもできるだけ戸惑わず会社に馴染めるような環境をつくろうとしています。

WD:バーチャルオフィスですか?

枌谷:そうです。グループトークができる部屋をDiscord上にいくつかつくり、仮想の「オフィス」に見立てています。どのメンバーがどの部屋にいるかわかるようになってて、例えば同じ「オフィスルーム」にいる人に「今打ち合わせいいですか?」と声をかけて、「小会議室」に二人で移動し、画面共有しながら話す、という使い方ができます。ちょうど今、「1on1ルーム」で新人が上司と話していますね。

リモートではコミュニケーションの全体像が見えにくく、一人で仕事をしているように感じやすいと思うのですが、こうして常に話しかけられる状態、誰が何をしているかわかる状態をつくることで、孤立感をかなり解消できる感じがあります。一緒にいるかのような錯覚を覚えて、心理的距離が縮まるんだと思います。

この方法は、白潟総合研究所※2さんの「バーチャルオフィス見学」で知って、すぐ真似しようと始めたものですが、新人教育の面でも画期的だったと思っています。

※1) ボイスチャット用のフリーウェア。共同プレイをするゲーマーの間で普及し、リモートワークの流れでビジネスでも利用が拡大中
※2) https://www.ssoken.co.jp/

「Discord」を使ったバーチャルオフィス。勤務中は常時オンラインで「オフィス」に。打ち合わせ中は「会議室」、声をかけられたくないときは「集中部屋」に移動するといったルールで運用

 

②リモート環境を障害にしない仕事の工夫

リモートではやりにくいことをカバーしながら、リモートだからできることを活かす、仕事の工夫を聞きました。

 

WD:全員がリモート環境になったことで、ワークフローや作業のやり方に影響はありましたか?

中川:チェックの回数が増えましたね。今はSlackとZoomを併用してまして、通常であれば、社内でプロジェクトの空気感や雰囲気を感じ、流れを見守り必要なときだけ確認するといった流れなのですが、それができるはずもなく、その分、細かく見る必要が出てきました。なので、枌谷さんのDiscordの話はいいこと聞いたな、と思いました。

あとは、先ほどの新人教育にも関係する話で、新人デザイナーは、最初のステップとしてラフや企画などの考えを紙と鉛筆で整理する力をまず身につけることが大切だったのですが、オンラインになって、上司が指導・指示する上で、その場で短時間に的確に対応できるよう、何よりIllustrator やPhotoshopの操作に慣れることを第一優先にしたい、という声が、マネージャーから聞かれました。

WD:それは意外なポイントでしたね。志水さんはいかがですか?

志水:私たちは、制作だけでなくコンサルティングからマーケティングまで幅広くやっているので、職種的に意識の分断されがちな部分をどうつなぐかが以前から課題としてありました。例えば、ビジネスやマーケティングの段階の会議に、デザイナーやエンジニアを参加させたりしていましたが、工数の問題などで限界もあったんです。

今回、一つ解決策になると思ったのが、「耳だけ参加」してもらう方法です。ビジネスやマーケティングの会議に参加して、大事なことは持ち帰って制作に反映する。でも、オンラインならその間に手元で別の作業ができるから、100%時間の圧迫にはならない、というやり方ですね。

集中しろ、と怒られるかもしれませんが、お互いに効率的ですし、現実問題として悪くない選択かなとは思っています。

WD:確かに、オンラインで打ち合わせをしながら別件のチャットを返すようなことは、普通にありますね。

山口:うちも、リモートになってからの方が、クライアントとディレクターの打ち合わせにデザイナーが同席するような環境はつくりやすくなり、Web会議での打ち合わせに対する理解も得やすくなったと思います。ディレクターが後で内容をまとめて伝達するよりも、ダイレクトに共有できることはメリットだと思いますね。

WD:そうなんですね。他には何か変化はありましたか?

山口:基本的にオフィスでやっていたことをリモートに持ち込んだ形で、ワークフローが大きく変わったわけではないのですが、少人数なのでZoomで全員常時接続する形にしています。だから、表情を見る機会は確実に以前よりも増えましたね。

もともと気心の知れたメンバーで声をかけやすいし、全員にブレイクアウトルーム※3を割り当てているのでちょっとした打ち合わせがやりやすかったり、チャットもログとして残すことを意識して使っているので、直接的にコミュニケーションする時間は短くても連絡の密度は増した実感があります。

WD:なるほど、全員常時接続は一つポイントなのかもしれませんね。枌谷さんはいかがでしょうか?

枌谷:先ほど志水さんから、エンジニアが画面共有で仕事をしているという話がありましたが、うちも同じような形でコラボレーションが加速しました。例えば、Adobe XDには共同編集機能というのがあって、1つのファイルを共有し、デザイナー同士が自分のPCから共同作業できるんですね。これまで使っていなかったんですけど、使い始めたら楽しいんですよ。こんなつくり方ができるんだという驚きで、すごく刺激を受けています。みんなで何かをつくるという、スポーツのような感覚もあるんですよね。

他には、コピーライターとボイスチャットしながら、Googleドキュメントを使ってブログ記事を一緒に書いていく、ということもしました。

こうした、思考プロセスを共有しながら創作する体験は、今までありそうでなかったと思います。

これをやると、5時間かけてつくったものを先輩がチェックし、2時間かけて修正して先輩に戻す、みたいな行ったり来たりがなくなります。作業と確認と同時並行に行われるのは、合理的でもあるし、教育の面でも有効性が高い気がしています。理由をうまく言語化できないけどこうした方がいい、みたいな感覚的なニュアンスを教えやすいんですね。

志水:むしろフィジカルな感じですね。同じ画面を同じ目線で見る体験は、オフィスにいたらできなかったことかもしれない。

枌谷:そうですそうです。体で覚えるようなことが、むしろやりやすいですね。

ただ、このやり方はまったくのゼロから一緒に始めるのは結構難しくて、誰かが主導して5割くらい出来上がったベースをつくり、それをブラッシュアップしていく時に向いている気がします。

WD:なるほど、面白そうですね。一方で、案件の進捗については何か変化はありましたでしょうか? 4月の時点では撮影などの面で影響があったそうですが。

中川:ゴールデンウィーク明け頃から急に変わってきましたね。例えば、撮影ができなくて止まっていた案件が、今月(5月)、著名人のトーク・ライブを配信する形のイベントに変更して実施されました。Zoomやライブ配信が浸透してきたからできたことだと思いますが、この1カ月でクライアントの意識も変わってきたと思います。

志水:私達の方は、撮影ではない方法でコンテンツをつくる形になりました。セミナーができなくなったお客様向けにウェビナーの企画を提案するケースも増えています。施策を止めないこと、機能することが大事です。