2020.01.14
一億総編集者計画 Web Designing 2020年2月号
ビジネスマンの解決力 代案のあるプロジェクト進行への応用
【今回のお悩み】「予定通りにサイトローンチができないことがありました。もうあの経験はしたくないです。対処法はありますでしょうか?」
Illustration: 浦野周平・児玉潤一
「予定通り進まない」という前提を立てる重要性
計画(1)スキームを見直す前に目的を再確認しよう
予定通りにプロジェクトを進めるには、進行中にどれだけ多くの「小さな判断」を下せるかが重要となってきます。これは予定変更ということではなく「部分最適」という考え方です。そのためには、最初に決定したスキーム(方法)だけにとらわれず、そもそもの目的を明確にしたうえで、その目的を達成するための、あらゆる方法を検討して考えていく必要があるのです。
お悩みである「サイトのローンチ」は、言わずもがな、サイトをオープンすること自体が目的ではないはずです。例えば、ECサイトであれば売上をつくることが目的となりますし、また、コーポレートサイトであれば、会社や事業の存在意義を補完することが目的として考えられます。
「ユーザーに喜ばれる新製品」「今までにはない事業」といった前例の少ない内容を伝えるサイトであれば、なおさら仕組み化された作業とスケジュール対応では厳しいです。なぜなら、新しい製品や事業の場合、サイトがローンチされ、実際に動き出してから反応や効果がわかるからです。
計画(2)リスクヘッジにつながるプランBを用意しよう
出版物の編集作業では、入稿や校了と言われる締切がとても重要となります。印刷、配本、陳列といった工程のスケジュールが発売日に向けて決まっており、リソースの確保もされているからです。そのため、編集作業の遅延というだけで、これらを覆すことはできません。現場では、あらゆる手段を駆使しながら制作を進めていきます。
例えば、突然、取材先の事情で掲載がNGになってしまう、または原稿やデザインが間に合わないという場合、企画の差し替えやスタッフの交代といった荒治療で対応することになります。また、取材対象者の変更や撮影現場でのトラブルなど、制作途中での細かな不具合も生じますが、この場合、冒頭で述べた「小さな判断」を瞬時に行い、ゴールはそのままスケジュールや企画内容を修正することが多いです。
お悩みであるサイト制作では、システムやネットワークのバグなど上記とは異なる問題があり得ます。ここで重要なのは、「当初の予定はうまくいかない前提」というマインドセットを持っておくことです。その心持ちがないと、うまくいかない時、当初の予定に固執してしまい、結果、犯人探しといった原因究明ばかりに目が行って、思考停止に陥ってしまう可能性があります。
ただ、問題が起こった際、毎回新しい予定を考えて修正していては、心身ともに疲れます。そのため、常に「プランB」となる別の計画を用意しておくことをおすすめします。本来、実現したい目的にあわせて、予め別案を考えておくのです。今回のお悩みであれば、「正式なサイトが間に合わないのであれば、ユーザーへの期待感を煽るティザーサイトへ切り替える」「情報をシュリンクさせて更新内容を小出しにする」といったプランBを用意しておくのが有効だったかもしれません。
仮説思考を用いた柔軟なスケジュール設計
計画(3)仮説思考に基づき全体像を可視化しよう
ここまでは、より多くの小さな判断を下す重要性と、「予定通り進まない」というマインドを持つことの重要性を説いてきました。では、円滑にプロジェクトを進めるためには、具体的にどのような対処法があるのでしょうか。
その答えは、徹底した「仮説思考」です。ここでいう仮説思考とは、結論から物事を考え、実現性を考慮し、制作工程を計画すること。プロジェクトの全体像を俯瞰で把握する力とも言えます。
いわゆる「虫の目」と「鳥の目」を使い分けるということです。鳥の目は、仮説思考の軸。全体を見渡す力がないと、進行している現状の把握はできません。現状を理解しておかないと、小さな判断を下すための虫の目も活かせません。どちらが欠けていても成立しないのです。
より具体的に言うと、目的地と現在地の双方を把握した、複数のルート(工程)の設計です。一般的に、スケジュール表がそれらを可視化するツールであり、まずは、工数や工程が明確となるスケジュール表の精度を上げることが、円滑にプロジェクトを進めていくには必要不可欠です。
また、仮説思考では、「実現性を見極める力」を伴わないといけません。可視化だけを目的とすれば、思い描く理想のスケジュールをつくればいいのですが、要件整理の難易度、UIやUXの完成度などを考慮し、そこにページ数といったボリュームも加味しながら考える必要があります。そこで、仮説通りの再現が可能かを見極める知見も必要なのです。
実現性を見極める力は、技術と経験に左右される部分でもありますが、作業時間だけにフォーカスせず、チェックや検証の期間などを考慮するだけでもスケジュールの精度が上がります。そのうえで、仮説と検証を繰り返し、経験を積んでいくことも大事です。
計画(4)定量かつ定性的な進行管理をしよう
あらゆる想定をしてプロジェクトを進行させることが大事だとお伝えしてきました。しかし、「いつまでに何をする」や「他にはどんな方法があるか」といった「定量的」な発想に着眼した対処法だけでは限界があります。
要するに、目標数値があることで、達成しやすくなることは明白ですが、それ以上の成果を出しにくいとも言えます。皆さんも経験があるように、目標数値(売り上げ、期日など)をクリアした場合、それ以上を求めるアクションを起こすのは困難ではないでしょうか。
そこで、定量と定性のハイブリッドな判断が必要なのです。Web媒体の編集部では進行管理の担当者がいることがあります。文字通り、予定通りに進んでいるかを確認し、遅れそうであればアラートを出すといった仕事です。基本的に定量的な判断でプロジェクトを進めますが、判断材料となる数字がわからない場合、対応が後手になってしまう可能性があります。何日遅れるかわからないので、対処法を見出せないといった具合です。
しかし、曖昧な事柄にも目を向ける定性的な見解を同時に持っているとタイムロスは起こりません。例えば、「何日遅れるかわからないけど、遅れる可能性が高く、間に合ったとしてもクオリティ担保の保証がない」といった数的根拠がない状況でも、直ちに軌道修正すべく解決策を考えるのです。すると、「時間があれば解決なのか?」「人がいれば解決なのか?」「解決方法を探すことが必要か?」と、YESかNOで効率的な対処法を見つけることができます。
最後に、予定通り進まなくても、制作上の葛藤がより完成された成果物につながることもあります。予定通りにいかなかったら失敗という考え方ではなく、予定が変わることも頭に入れながら仕事に取り組むようにしたいですね。