2019.08.14
知的財産権にまつわるエトセトラ Web Designing 2019年8月号
私的違法DLの拡張 ~青山ではたらく弁護士に聞く「法律」のこと~
身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。
最近、著作権を侵害する海賊版対策に関する法改正案が浮上しては、ネット等での猛烈な批判を受けて国会への提出が見送られるという事態が相次ぎました。本誌2018年8月号で紹介したサイトブロッキングも、通信の秘密を侵害するといった批判を受けて提出には至りませんでしたが、その後、議論されたのが私的違法ダウンロード(DL)の拡張とリーチサイトに対する規制です。今回は私的違法DLの拡張について紹介します。
Webサイトに掲載されているコンテンツをDLすることは、著作権法の「複製」に該当し、複製権の侵害となります。しかし、配信されているコンテンツを自分で楽しむ目的でDLすることは、複製権の侵害にはなりません。これを「私的使用目的の複製」といいます。 ところが、私的使用目的でも、違法に配信されているコンテンツを録音・録画することは違法とされています。つまり、例外の例外で、これが「私的違法DL」です。「録音・録画」とされているので、対象となるコンテンツは映像や音楽などに限定されています。そして、そのコンテンツが有償で頒布されている場合には、刑事罰も科されることになっています。
今回見送られた案は、私的違法DLの対象となる行為を「録音・録画」以外の複製行為全般に拡張しようというものでした。実現した場合には、マンガ、絵画、文章、写真など、あらゆる著作物が私的違法DLの対象となります。海賊版対策として、マンガや文学作品などに関する対策は急務とされていました。しかし、改正案では、それ以外のコンテンツも私的違法DLの対象とされてしまうわけです。また、対象が有償で頒布されている場合には、刑事罰も科されることになっていました。
違法に配信されている映像や音楽の数は膨大で、それ以外の著作物にまで拡張すると、おそらく違法配信されているコンテンツの数、そして、私的使用目的でDLされている数は天文学的な数字になるのではないでしょうか。今回の改正案は、それだけの数の著作権侵害者、犯罪者を生み出すものである、反対論はそういう観点から展開されました。
もっとも、現在の著作権法では違法配信されている映像・音楽を私的使用目的でDLした場合、違法となり刑事罰も科されるのに、映像・音楽以外の場合には違法ではなく、犯罪にもなりません。コンテンツによってそのような区別がなされることに合理的な理由はあるのでしょうか。賛成論はこの点を疑問としていました。
今回は見送られたとはいえ、海賊版対策は急務であること自体を否定する人はいませんから、再び同様の改正案が浮上してくるかもしれません。読者のみなさんも、今後の動向に注目してみてください。