ビジネスマンの分析能力 数字に踊らされないための効果測定|WD ONLINE

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一億総編集者計画 Web Designing 2019年8月号

ビジネスマンの分析能力 数字に踊らされないための効果測定

【今回のお悩み】「アクセス数が大事なことはわかるのですが、すべて数字の評価で減点主義なので、プレッシャーが強くて仕事が楽しくないです…」

Illustration: 浦野周平

数字だけでは測りにくいブランディング施策の効果

計画(1)施策の目的・役割を 理解しよう

今回は、KPI設定に「編集力」がどのように貢献できるかを取り上げたいと思います。まず、なぜKPI設定はみなさんの頭を悩ませるのでしょうか。

その答えを導き出すには、セールス施策(広告)とブランディング施策(広報)の違いを理解する必要があります。簡単にいえば、前者は「直接的な売上貢献」、後者は「間接的な売上貢献」が目的です。

KPI設定する際に悩むのは、どちらかというとブランディング施策の方ではないでしょうか。理由としては、売上といった成果が数字ではっきりと出るセールス施策とは違い、ブランド認知の獲得を目指すブランディング施策では数的根拠が明確ではないからです。定量化しにくいため、単一的な数字だけではなく、その結果から、さまざまな課題をあぶり出すことが必要となってきます。

まずは、自分の担当する施策がどちらに当たるのか、目的や役割を踏まえて明確にしつつ、定量・定性データの正しい使い分けを見据えることが、KPI設定の肝となります。

 

計画(2)定性的な観点も取り入れよう

今回のお悩みは、特にブランディング施策の要素が強い、コンテンツマーケティングにおいて顕著な問題です。

よりイメージしやすくするために、「オウンドメディア運営」に絞って話をします。オウンドメディアでは、どのようなKPI設定がベストなのでしょうか。

結論から申し上げると、決まったKPIはありません。それぞれのメディアごとに特性の見極めやターゲット属性の設定、ブランドの方向性など、多角的な側面から適切なKPIを設定しなければならないからです。そのため、まったく同じKPIのメディアは存在しないというのが私の考えです。

解決策がないように思えてしまいますが、逆説的に考えると、KPIを管理者自らが設定しやすいということです。「なぜ、その数字が必要なのだろうか?」「KGIを達成するには数字だけでは追えない効果があるのでは?」といった発想で、定性的なKPIを設定できます。

こうして設定されたKPIが、メディアの存在意義を明確にし、より本質的な効果測定を実現してくれます。数字は状況の可視化には優れていますが、お悩みのように「数字をつくる」ことだけに執着してしまっては、本質を見失ってしまいます。

ブランディングという無形資産を築くことをゴールとすれば、定量的なデータだけでなく、ターゲットの心を掴むことができているかどうかの定性的な効果も考える必要があるのです。

「意識されるメディアになっているだろうか」「感動を生み出せているだろうか」など、数字に現れないような感情に着目することが、本質的なKPI設定のヒントになるでしょう。

具体的でわかりやすい数字はもちろん重要ですが、ブランド醸成の度合いを、より正確に測るためには、定性的な観点も必要になってきます。

 

 

正しくKPIを設定するために編集力を活用する

計画(3)フェーズにあわせてKPIを設定しよう

定量、定性の両輪によるKPI設定が重要なことはご理解いただけたと思います。では、実際どのようにKPIを設定していくかを、弊社の女子クリエイター向けオウンドメディア「箱庭」を例に説明したいと思います。

箱庭では、まず「なぜオウンドメディアを立ち上げるのか?」という存在意義の構築から始めました。セールス施策かブランディング施策かを見極めた結果、ブランディング構築という目的に決まりました。

次は、曖昧なストロングポイントでは、オウンドメディアとしての存在感を示せないため、自社の強みを探しました。箱庭の場合、「弊社の社員が発信する有力な情報」が強みです。そのため、当初は、担当社員のキャラクターを全面に出したメディア展開を行っていました。

ここから、ようやく本題のKPI設定に入ります。ポイントは、フェーズに沿ったKPI設定を行うことです。

箱庭では、「兼任で運営」「集客の徹底」「企画の横展開」「事業化の模索」「収益と貢献の可視化」の順に成長過程を描きました。初期は、社員の表現の場としての役割、中盤以降は、ファンを集めマネタイズ、そして自立した事業化といった具合に、その都度、役割と目的にあわせてKPIを設定しています。

KPIを段階的に変化させていくことで、その時々の状況にあわせた正確な効果測定が可能です。また、今回のお悩みとなっている「数字によるプレッシャーが強い」という点に対しても、正しい段階を踏まえた、無理のない目標設計により、回避することができます。

先に述べたように、まったく同じKPIを持つメディアは存在しないと私は考えていますが、段階的にKPI設定する発想は、あらゆるメディア、施策の運用で役立つはずです。

 

計画(4)編集力で効果的にKPIを導き出そう

雑誌などの編集者は、販売部数などの定量的データ、読者アンケートなどで得られる定性的データを活用し、特集や記事の企画に役立てています。あらゆるデータに意味を見出し、仮説を立てた後、アウトプットしているわけです。

Webメディアの場合、PV、UUといったアクセス数などが定量的データ、人気記事の傾向などが定性的データとなります。数字の大小に一喜一憂するのではなく、アクセスの多い記事の内容に着目することも大事ですし、そのうえで人気になっている要因を探ることも必要です。探り出した要因から、仮説を設計して、新たな記事を作成することになります。場合によっては、新たなKPIを設定する必要も出てくるでしょう。

このような、定量データと定性データを相互に分析できる能力こそが「編集力」です。今回のお悩みは、定量的データだけを追いかけているので、背景を追うことができず、数字の呪縛に取り憑かれ、数字がつくられている要因を分析する視点が欠けています。そのため、編集力によって、定性的な着眼点も取り入れることが、お悩みの解決策となります。

例えば、「オウンドメディアのアクセス数低下」という定量的な情報から、その他の情報も参考にしつつ、要因を探ります。そして、「リピーターが減っている」という仮説を導き、仮説を検証するためのKPIとして、「ファン限定のイベントやキャンペーンの本数」といった顧客満足度を上げるための指標を設定してみるといった具合です。

数字はもちろん、数字では測れないアプローチも大事にするのが編集力のポイント。「100万PV」という具体的な数値目標は測定しやすいですが、「日本一のWebサイトになる!」のような熱意ある抽象的な目標にも意味はあります。両者をうまく活用する姿勢が重要です。

教えてくれたのは…酒井新悟
RIDE MEDIA&DESIGN株式会社 代表取締役社長 https://www.rmd.co.jp/ Facebook ID Shingo Sakai 大学卒業後、祥伝社へ入社。編集者としてファッション誌「Boon」に携わった後、BoonのWeb版「boon.web」でWebディレクターとして活躍。2006年にWeb、メディア、デザインを総合的に制作及びディレクションをするRIDE MEDIA&DESIGN株式会社を設立。現在は、従来の職域にとらわれない新しい時代の「編集力」を活かして、様々なソリューションビジネスに携わっている。

掲載号

Web Designing 2019年8月号

Web Designing 2019年8月号

2019年6月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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