2019.03.14
中長期的に考えるCMSの運用と体制づくり Webの持ち腐れにならない、積極的な活用を!
せっかくCMSを開発/導入しても、運用体制が整備されていないと十分な成果に結びつけることができません。円滑に運用を進めるためにはどんな課題があり、どんな対策を講じればいいのでしょうか。企業・団体・自治体など、CMSサイト構築で多数の実績を持つ株式会社インフォネットの岸本誠さんにうかがいました。
導入したCMSが数年で使えなくなってしまう理由とは
いま、企業・団体などが持つWebサイトには何らかの形でCMSが導入されていることがほとんどです。しかし、(株)インフォネットに依頼を寄せるクライアントから多く聞かれるのは、それが「使えない・使いづらい」という声だといいます。その理由として同社代表の岸本誠さんが指摘するのは、導入時点からWebを取り巻く環境が大きく変化しているということです。
「当初はお知らせの部分だけ社内で更新する形で導入したものの、コンテンツの量が増え更新するページが多岐に渡るようになった。あるいはスマートフォンへの対応が必須になった。そうした変化によって当初の想定が崩れ、改修を余儀なくされているケースが多く見られます」(岸本さん、以下同)
導入当時はこれでいいと納得していたものでも、ビジネス環境に合わせて事業の規模や内容が変われば顧客から求められる情報も変わり、導入時の設計が実情に合わなくなってきます。制作・更新業務などの社内体制も再編する必要が出てくるでしょう。
また、導入が4~5年前にさかのぼるCMSではスマートフォンへの対応が十分でないまま使われ続けているケースもあるかもしれません。現在、スマートフォン対応は「お作法」のレベルで必須であるだけでなく、検索順位に大きな影響を与える要素にもなっています。
さらに、導入した当時の担当者は問題なく使えたものの、それが適切に後任へ引き継がれず運用に支障が出てしまうことも少なくないといいます。
もうひとつ、改修を検討する理由として最近増えているのは業界的にオープンソースを避ける流れがあることです。
「省庁や自治体がWebサイトを持つ際にはオープンソースのCMSを使わないよう総務省から案内が出て久しい中、一般企業においてもセキュリティ意識が高まってきています。ある程度高機能、高セキュア、そしてきちんとサポートのあるものが必要とされるようになっています」
変化し続ける環境の中で円滑な運用を継続するために何が必要なのか、そのポイントを見ていきましょう。
OPERATION #1 円滑に継続するために運用視点で設計する
現状の基準では長持ちしない長期運用を見据えた設計を
CMSを開発/導入したら、できるだけ長期間、円滑に活用を続けたいもの。しかし、設計段階ではどうしてもその時の環境を基準に考えがちになってしまうと岸本さんは指摘します。
「例えば、その時の担当者のスキルを基準に(機能の使用が)できる・できないを判断したり、いま作業で困っていることを持ち出してこの点をこうしてほしいと細かい要望が挙がることもあるでしょう。しかし、“長持ち”するCMSをつくるためにはこれはお勧めできません」
Webサイトは基本的に何年も運用を継続していくことが前提です。3年後、5年後にどうなっているべきなのかを見据える必要があります。そのとき土台となるのは、そもそもWebサイトの目的が何なのかということです。CMSは、その目的を実現するための環境として設計される必要があります。そして重要なのが、その環境を機能させる運用体制を並行して考えていくことです。
例えば、製品紹介・IR・採用などさまざまな情報を複数の部署から更新する場合、各部のコンテンツ制作体制や掲載権限を社内的に整理しなくてはなりません。一方、人事異動に備えてスムーズに業務を継続するためのマニュアルやガイドライン整備も求められます。
「私たちが担うプロジェクトでは運用を見据えた制度設計やマニュアル整備などもタスクに組み込むことがあります」
同社が手がけた学習塾「スクールIE」などを運営する(株)やる気スイッチGHDの事例では、全国約1,300の教室がそれぞれにお知らせや時間割などの情報を更新できるシステムを構築。すべての教室で講師が随時更新できる使いやすさに配慮し、全国共通で更新される情報との兼ね合いなど、効率よい運用のための制度設計も行いました。
設計段階から中長期的な運用方法も織り込んでいくことが“長持ち”するシステム開発のポイントです。
明文化しないと陥りがちマニュアル化すべきポイントは
実際の運用に際しては、マニュアルやガイドラインの策定、またサポート体制も考えておく必要があります。具体的な内容は個別に大きく異なるため、設計段階から開発元と検討を進めるのがよいでしょう。しかしミニマムな部分では共通して注意したいポイントがあると岸本さんはいいます。
「ひとつは文体です。ページによって『です・ます調』と『だ・である調』が混じったり、砕けた文体が使われてしまうことを避けるため、ルールを設けたが良いでしょう。また商品・サービス等の名称の表記も統一したい部分です」
ロゴ・カラー関係のレギュレーションを策定している企業は多いと思われますが、テキストは意外に見落としがちです。特に複数人体制や部署をまたいだ体制の場合は注意したいポイントです。
また、ある程度作業に慣れてくると、情報を強調しようと太字や背景色を使うなどの“工夫”をしたがる人が出てくるものです。作業手順についても、慣れによる自己流はミスの元になりかねません。作業パートごとに最低限守るべき作法や手順を明文化しておくことが望ましいでしょう。
「私たちはそれらのドキュメント化もプロジェクトに含めて行なっています。予算との兼ね合いになりますが、場合によってはCMSの管理画面にヘルプページの形で用意することも可能です」
さらに、インフォネットでは自社開発の「infoCMS」導入企業に対して電話・メールでの問い合わせ対応やチャットボットなどの形でサポートを提供しています。先のやる気スイッチGHDの事例では、各教室に更新の手順をまとめたマニュアルを配布。オンラインのサポートもよく利用されているといいます。
多数の拠点のサポートを企業が自前でカバーするのは大きな負担です。運用体制に含めて検討し、利用できるサービスがあれば適切に活用しましょう。