2019.03.11
具体例で学ぶCMSの選び方 「運用」や「保守」を意識した選択を
ここからは、具体的なシチュエーションを提示しながら、CMSの選び方や予算の目安について解説します。引き続き、CMSの導入案件を多数手がけている(株)アリウープの田島邦彦さんに話を聞きました。
具体例を手がかかりにCMS選びのコツをつかむ
私たちアリウープはマルチベンダーですので、CMSの導入が決まった案件には、クライアントの状況にあったCMSを、各種の要件や予算、品質を念頭に置きながら精査します。クライアントが抱える課題を最善な形で解消できるCMSを選定していくわけです。
選定の岐路の1つには、無償か商用かの選択があります。WordPress(以下WP)などオープンソースはライセンスが無償なので、コスト面の導入障壁が低い一方で、運用やセキュリティ、サポートなどの保守も含めると、トータルのハードルは低くはないことが見えてきます。導入や運用、保守と、それらに関わる人件費もCMS選びには欠かせません。社内でCMSに精通する人材がいるのか、社外パートナーを求めるならその分の予算確保が可能なのか。これらもCMS選びの判断基準です(01)。
実際は課題ごとに多種多様ですので、“こういう時にはこのCMS”といった断定的な言い方はできませんが、選定時の目安の1つとなるように、具体例を通じてCMS選定の判断方法を紹介します。厳密には社内だけでの判断か、外部に相談相手を求めるかでも変わりますが、大枠の考え方の参考になるでしょう。「今抱えている課題」を克服できるCMS選び、という視点で読んでください。
さまざまな人が触れる場合商用CMSが選択肢になりやすい
最初のケースとして、「規模が大きい企業/組織で、複数の部署が運用しながら、複数のWebサイトのページ作成をする場合」を考えます(02)。
この場合、1つのCMSで複数サイトを効率的に管理できることが条件になります。さらに、生産性が高い状態に保てるように、ワークフローを細かく設定できることも求められるので、もともと備わっている機能が豊富な商用CMSのどれかが、最有力候補となります。
関わる部署が複数という点もネックです。関わる部署が増えるほど、部署ごとでの管理が問われます。各部署でCMSに関わる人数が複数いればいるほど、Webリテラシーのばらつきが出ることを勘案すれば、あまりリテラシーが高くない人たちでも迷わないUXを担保するべきでしょう。“いかにも”という複雑な管理画面だと、運用が滞る人たちが出ることがあるからです。細かな設計内容は、各部署へのヒアリングや希望機能の内容を参照するほかに、汲み上げてきた内容が本当に必要な内容なのかも判断しながら、取りまとめていくこととなります。
部署内の管理も細かく対応できるように、権限設定もきちんとしたいですし、もしレギュレーションとしてリモートワークにもGoサインを出すとなると、規模感と複雑な構成の管理に耐えられるCMSが望ましくなります。そうなると、オープンソースよりも管理機能が優れた商用CMSで、豊富な機能を搭載したパッケージを選ぶのが現実的です。さまざまな人が操作する可能性があるのなら、利便性を追求している機能がいかにデフォルトで搭載されているか、もCMS選びの基準になります。
このケースはさまざまな属性の人たちが触れる可能性が高いだけに、WPだと、管理画面のUIをカスタマイズしてもある程度の限界があり、そもそもフルカスタマイズを前提にした開発となるため、費用が膨らみそうです。かなり大量のページボリュームになることも予想され、あまりオススメはできません。
データベースのフル活用なら動的CMSの選択が可能
次に、「ユーザーごとでコンテンツを出し分けたい場合」を考えます。この課題に応えるには、アクセス履歴などユーザー情報を扱えるCMSが求められます(03)。03のような要望に対応するには、動的CMSが適しています。
動的CMSとは、ユーザーのアクセスごとに各ユーザーにあわせたコンテンツの表示(=コンテンツの出し分け)ができるCMSのことです。さらに数多くのデータを扱うならば、セキュリティなど保守をきちんと組み込んでいる商用CMSの中から、必要とする機能が搭載されている(or 必要な機能をカスタマイズで搭載しやすい)、より適したCMSを見つけていきましょう。
動的CMSといえばWPもそうなります。WPの場合は、社内体制が整っていたり、社外パートナーと一緒に運用体制が組めるならば、選択肢の1つとなるでしょう。ただし、一定以上のアクセス数が見込まれるなら、もともとカスタマイズの必要があるケースですし、サーバ負荷への対応も含めて保守のコストも考えると、無理して選ぶべきではないでしょう。
そのほか、膨大な製品の検索に対応できるWebサイトをつくりたいという場合も、このケースと同様の判断で動的CMSを優先、となります。
静的CMSを選ぶと、どうなるでしょうか? 静的CMSは、静的ページ(HTMLファイル)を生成するCMSで、サーバ負荷が少ないという利点がありますが、データベースを背景にしたい今回の課題には向いていません。静的CMSで03に対応したいなら、導入したCMSとは別に、コンテンツを出し分けるための動的対応が求められるので、そのための開発費が生じてきます。実装中のCMSが静的で、同一CMSでの対応を求められるような事情でもなければ、このケースでは動的CMSの採用が無難です。
コストをかけず即公開希望なら、オープンソース系CMSが◎
身近に感じられる例として、「あまりコストをかけずに、スピーディにWebサイト公開したい場合」についても考えておきます。この場合は、WPをはじめとしたオープンソース系CMSが最有力となります。
WPを選択する強みは、ライセンスが無償で初期コストを抑制しやすいことや、国内だけでも非常に数多く普及しているCMSですので、制作できるデジタルプロダクションが数多く存在することです。
例えば、全体を統括するメーカーのWebサイトとは別に、メーカーの最新商品を単独でWebサイト展開したい場合、WPならコストやスケジュールが読みやすいです。初期段階で100ページ以下のボリューム、かつサテライトページの位置づけであれば、開発スピードが計算しやすいWPがもっとも無難ですし、足りない機能は状況にあわせてその都度カスタマイズするといいでしょう。対応できる制作会社も多いでしょう。
オープンソースだと、商用CMSと違ってセキュリティやサポートの心配が尽きませんが、WPだと社外パートナーを探しやすいですし、社内に精通したエキスパートがいて、大きな規模感でなければ、自前運用を前提にした構築も現実的です。むしろ、CMS選びに迷って公開タイミングが遅れてしまえば、機会損失にもなりかねません(04)。
別提案の可能性としては、同じオープンソースでDrupal(ドルーパル)を勧める場合があります。WPより初期実装の時点で使いやすく、カスタマイズしやすいメリットがあるからです。ただし、開発できるWebプロダクションが限られるため、開発費がかさみやすくなります。また、WPよりスペックが豊富な分、シンプルな構造のWebサイトとなるほど、オーバースペックになります。その場合はDrupalは不向きでしょう。