ここでは不定期連載「伊藤果先生の詰将棋の作り方入門」をお送りします。
今回は第4回です。
これまでのところを読んでいない方は以下をどうぞ。
第1回 「詰将棋の基本は”逆算式”」
第2回 「上司の詰将棋」
第3回 「宿題提出とすごすぎる手直し」
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第3回までで詰んでいる形からスタートする逆算式の詰将棋の作り方について学んだ私。今回は逆算式とは異なる「任意式」という作り方について、伊藤果先生にご説明いただきました。
詰将棋創作の新しいページが、今、開かれる!?
島田「先生、それでは私めに秘伝のニンイシキを伝授してください」
伊藤「別に秘伝ではありません(笑)。任意式とは読んで字のごとく『思いのままに任せる式』ということです」
島田「まるで私の人生のようですね。無計画な感じで好きです。で、具体的なところが全く見えていないんですが、どういうことですか?」
伊藤「逆算式のときは詰んでいる形からスタートしましたね。この任意式では思いのままに適当に駒を配置します」
島田「えっ、そんなんでいいんですか?」
伊藤「はい。逆算式に比べて自由度は格段に高くなります。その分難易度も上がるんですが。例えばこんな配置にしてみましょう」
島田「ふむふむ。なるほど。とりあえず今のところ詰みませんね」
伊藤「そうです。そこでまず攻め方の持ち駒に何か足して詰むようにすることを考えてみましょう。例えば歩を持ち駒にするとどうですか?詰むようになったでしょうか?」
島田「歩ですか。歩、歩、歩・・・。(といって数秒悩む私)」
伊藤「歩一枚ではどう考えても詰みませんよね」
島田「え、ええ!そうです。詰むわけがありません!(さも読み切っていたように返答する私)」
伊藤「では香ならどうでしょうか?」
島田「これは私にも分かります。詰みです」
伊藤「その通りです。では銀ではどうでしょうか?」
島田「銀ですか。・・・う~ん。とりあえず▲2二銀と打ってみたいです。△3二玉に▲4二龍△2三玉・・・。う~ん・・・。そこで▲1三銀成!(下図)という手がありそうなんですが
※「全」は成銀です。
伊藤「それなら攻め方2七歩を足してみたらどうですか?」
島田「に、2七歩ですか?そんな明後日の方に歩を置いてどうなるんですか?私の人生どうなるんですか?」
伊藤「島田さんの人生はいかんともしがたいですが、玉は詰むようになります」
島田「ええっ!?ホントですか??」
プラスチック盤に手順を並べ始める先生。
するとなんとびっくり、上図の△2五玉の局面から▲1五角成!△同玉▲1四龍!までで詰んでいるじゃありませんか!
島田「おおっ!詰みました!」
伊藤「はい。これが任意式の作り方です。詰む形と詰まない形の攻防で作っていくところは逆算式のときと同じです。詰んでいる最終形からスタートするか、適当な配置からスタートするかが違う、ということです。いずれの場合も、2七歩のような手にたどり着くには少しセンスが必要です」
島田「なるほど。よく分かりました。が、現状まったくそこにたどり着ける気がいたしません」
伊藤「ハハハ。そう言わずにチャレンジしてみてください。ちなみに、持ち駒銀の場合、2七歩を置かなくても▲2二銀△3二玉に▲3一銀成(下図)という手があって詰んでいるんですけどね」
島田「なんと!そんな手があるんですか!早く言ってくださいよ~」
伊藤「まぁあくまで例題として考え方を述べたということで理解してください」
島田「完全に手の平の上で踊らされました。孫悟空状態です」
伊藤「ちなみにこの攻め方4四竜・3三角、玉方2一玉という配置ですが、高度バージョンもお見せしましょう」
島田「むっ、駒が増えました。馬が強力で初手▲2二銀は詰まなそうです」
伊藤「初手は▲4一龍です。△3一歩合は▲3二銀△1二玉▲1一角成(下図)と進んで
△1一同玉は▲3一龍以下、△1三玉は▲4三龍以下駒余りの詰みです。そこで初手▲4一龍には△3一桂合が最善となります。今度は同じように進んだときに▲4三龍に△同桂と取れます」
島田「おおっ!なるほど!その通りです」
伊藤「△3一桂合に、今度は▲1二銀捨てが妙手です。香で取らせておいて、▲1一角成(下図)がうまい運用の技で、決まります」
島田「なななんと!!▲1二銀と捨ててから空いたところに▲1一角成とは、先生!かっこ良すぎます!あちょー!って感じです」
伊藤「以下、△1一同玉の一手に▲3一龍△2一歩合▲2三桂までの詰みとなります」
島田「はぁ~。ため息が出るのほどの高度バージョンでした。桂合を出現させて最後はその桂で仕留める辺り、オシャレです」
伊藤「これも攻め方4四竜・3三角、玉方2一玉という配置からスタートした任意式の詰将棋の一つです。ちなみに、逆算式に対する言葉として正算式という表現が使われることがありますが、これは私のイメージでは下図のような形からスタートするものです」
島田「いわゆる実戦型ですね」
伊藤「はい、実戦型のようにある狙いを持った形から始めるのが正算式で、今回説明したように適当に駒を置いてみた、という場合は任意式と言った方が適切かと思っています」
島田「なるほどです。よく分かりました」
伊藤「と、いうわけで島田さんに任意式の宿題を差しあげましょう」
島田「ぐぇええ!何を急に言い出すんですか!と、いうわけで、ってどういうわけですか!」
伊藤「まぁ、そう言わずに挑戦してみてください。下図の形から詰将棋を作ってみてください」
島田「むむっ。これはシンプルな形ですね」
伊藤「はい。ちなみに持ち駒に金2枚を加えれば詰みますが、それは詰将棋とは言えませんからね」
島田「やっぱりダメですか、そんなんじゃ。許してくれませんか」
伊藤「逆算式に続く、いい作品を期待していますよ」
島田「いやぁ~。勘弁してくださいよー」
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・・・重過ぎる荷物を背負って六本木を後にした私。
逆算式すらおぼつかないのに、任意式なんて、できるわけない・・・。
パトラッシュ・・・。なんだかとっても眠いんだ・・・。
と、いうわけでこの記事を御覧の皆さん、私と一緒に頑張りましょう!(急にやる気)
こんなのができた!という方は例のごとくsoft@mynavi.jpまでお送りください。
安心してください。パクリませんから。
今日のまとめは「適当に駒を配置して考えるのが任意式」ということでした。
それでは、次回の「詰将棋の作り方」も期待しないでお待ちください。