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伊藤果先生の「詰将棋の作り方入門」 ~ド素人がもし詰将棋を創作したら①~

2016.02.24 島田修二

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こんにちは。
エベレストよりチョモランマ派の編集部島田です。

この場をお借りして何回かに分けて、ちょっとした連載を始めようかと思います。

連載の内容は「詰将棋の作り方入門」です。「連立方程式の解き方入門」ではありません。ましてや、「おいしいハンバーグの作り方入門」でもありません。

詰将棋作家として名高い伊藤果先生に私が「詰将棋の作り方」を教わり、実践してみようという試みです。

詰将棋ファンの皆さまからすると、「なんと贅沢な!」というお話なんでしょうが、その価値すらわからない私が書くところに敷居の低さを感じていただければ幸いです。

詰将棋に関しては、7手詰は長手数だと思っている私。解くことさえままならないのに、創るってどういうことやねん!と、思いながら降り立った六本木駅。
そこに待っていた伊藤先生。近くのカフェでアイスコーヒーを頼むと、早速詰将棋の作り方講座が始まったのでございます。

それでは、記念すべき第1回のはじまりはじまり。

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島田「よろしくお願いします。現状何も分からないまっさらな状態です」

伊藤「こちらこそよろしくお願いします。これからすべてを伝授しますよ(笑)。詰将棋にはいくつかの作り方があるんですが、今日はその原点というか、一番の基本をお教えします」
 

島田「お願いします!」

伊藤「まず、詰将棋ですから、王様が詰まなきゃいけません。と、いうことで王様が詰む形を最初に考えます。例えばこんな図です。



 

これは島田さんでもわかりますよね?」

島田「いやいや、バカにしないでくださいよ(笑)! さすがにこれはわかります」

伊藤「そうですか(笑)。これは▲1二金までの1手詰ですね。ただ、これは詰将棋というか、詰む将棋です。ではこれを元に詰将棋を作りたかったらどうすればいいでしょうか?詰将棋というからには解く人に『考えてもらう』必要があります。そこで大事になってくるのが『詰まない形を考える』ということです。
『詰む形』と『詰まない形』の攻防。これによって詰将棋ができあがっていきます」

島田「はぁ。『詰む形』と『詰まない形』の攻防ですか…。恥ずかしながら今のところ意味分かってません」

伊藤「では具体的に見ていきましょう。スタートはこの図です。
 


 

現状は▲1二金の一手で詰んでしまいますが、これを詰まないようにします。例えば2二に金を置いてみるとどうでしょう?」
 


 

島田「なるほど。詰まなくなりました!」

伊藤「そうです。持ち駒金一枚だけでは『詰まない形』になりました。次に、今度はこれを『詰む形』にしていくんです。持ち駒に桂を足しましょう。



 

これで初手▲2三桂と打てば、△同金には▲1二金、△2一玉には▲3一金で詰むようになりました。これで3手詰ができたわけです」

島田「なるほどぉー。できましたねー」

伊藤「でもこれではまだ詰将棋として褒められたものではありませんね。ここで、詰将棋作りの一つのテクニックを紹介しましょう。それが『平行移動』です」

島田「まさか、駒の配置を平行に移動させることですか?」

伊藤「そうです。よくわかりましたね。この配置を左に一路移動させてみましょう。するとこうなります」
 


 

島田「おお!移動させただけでまた詰まなくなりました!」

伊藤「同じ配置でも平行移動させることで、詰む・詰まないが変わりました。金・桂の持ち駒では詰まないので、また詰む形にしないといけません。今度は攻め方の駒を増やすのではなく、玉方の駒を増やすことでそれを実現してみましょう。そっと玉方1二香を置いてみます



島田「また詰むようになりました!私、さっきからこのリアクションしかしてません(笑)」

伊藤「平行移動したことによって変化の幅が広がりました。例えば、ここからさらに手数を延ばそうと考えると、玉を1一にして、金の持ち駒を加えれば5手詰になることが分かります」
 


 

島田「確かに。初手▲2一金と打てばさっきの形になります。5手詰ができました!」

伊藤「はい。この5手詰の詰将棋は①玉が1一にいる→②2一に来させる→③桂打ちからの詰みという構造をしています。これも立派な5手詰といえますが、初手の金打ちは少し味気ないような気がしませんか?詰将棋を作り慣れてくると、こういうことができるようになります」
 


 

伊藤「構造はさっきまでと全く同じですが、これで初手龍切りの5手詰になりました。こっちの方が持ち駒金金桂より、なんとなくいいじゃないですか」

島田「いやぁ、先生すごいです。目からウロコです。こっちのほうがかっこいいですね」

伊藤「このように、最初に詰む形からスタートするのを『逆算式』といいます。詰む形と詰まない形の攻防で作り上げていくんですが、どこかで今のような発想の転換ができるかが、大事です。それができる人が詰将棋づくりに向いているといえます」

島田「理屈は分かりました。が、できる自信はまるでないです(笑)」

伊藤「まぁそう言わずチャレンジしてください。島田さんに宿題を出しましょう」

島田「うええっ!?まじですか?」

伊藤「はい。この形が最終形になるような詰将棋を作ってみてください」
 


 

島田「ふーむ。シンプルですねー。いやー、どうなるんでしょう。全然自信ないです。怖いです」

伊藤「気鋭の詰将棋作家誕生を祈っていますよ(笑)」

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数少ない武器と重すぎる課題を受け取って、六本木を後にした私。

とりあえず、逆算式の詰将棋は『詰む形』と『詰まない形』の攻防で作られるということだけは分かりました。攻防と工房が同じ音でいい感じです(どうでもいい)。

さて、第1回の講座は以上ですが、みなさんいかがでしたでしょうか?

私のように詰将棋を作るということを人生で考えたこともなかった方が少しでも「へー」と思っていただけたらうれしいです。

そして、そんな皆さんはぜひ私と一緒に伊藤先生から出された宿題をやりましょう!大丈夫です。パクりませんから(笑)。

下図の形が最終局面(の一部)になるような詰将棋を考えてみてください。


 

私も目下悪戦苦闘中です。こんなのができた!という方はsoft@mynavi.jpまでお送りください。

詰将棋作家への道のりは長く険しいです。

それでは、いつあるか分からない第2回をお楽しみに!!