「羽生ゾーン」ならぬ「藤井ゾーン」とは?  羽生善治らが語った藤井将棋の先進性|将棋情報局

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「羽生ゾーン」ならぬ「藤井ゾーン」とは?  羽生善治らが語った藤井将棋の先進性

藤井聡太四段の活躍を、本人の自戦記とトップ棋士たちの証言で振り返る『天才棋士降臨・藤井聡太 炎の七番勝負と連勝記録の衝撃』は8月28日に発売されます。

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中 「羽生ゾーン」という言葉があります。
将棋世界で行われた鈴木大介八段と勝又清和六段の対談「進化する羽生将棋」(将棋世界2008年3月号)で初めて言及されました。

鈴木 そういえば、2三(8七)や2七(8三)の地点を「羽生ゾーン」と呼んで、そこに金銀がくると勝率が高いという話があるんですよ。大概の棋士はそこに駒を打つと勝てないんですよね。羽生さんだけが、そこに駒を打って勝てるという場所なんです。

(略)

勝又 なるほど、羽生ゾーンですか。言われてみると心当たりありますね。渡辺さんとの王座戦最終局(第1図)がそうでしたね。

【第1図は△2七銀まで】
「羽生ゾーン」で特によく知られているのが、2006年のA級順位戦 羽生-藤井猛戦(第2図)。完封負け濃厚の局面から、この無筋の金打ちを境に大逆転に至った本局は、今も語り草になっていますね。
【第2図は▲2三金まで】

勝又 一見マジック調の指し手も、実はそこには羽生さんなりのルールがあって、そのルールに基づいてやっているということですね。(略)ルールの設け方が普通の棋士とは違うわけですよね。


どうやら超一流の棋士には、普通の棋士とは違う独自のルールがあるようです。それが、俊英揃いの将棋界で頭一つ抜け出すための大事な要素になっているのでしょう。

それでは藤井聡太四段には、独自のルールがあるのでしょうか?
 
8月28日に発売する「天才棋士降臨・藤井聡太 炎の七番勝負と連勝記録の衝撃」には、藤井四段の自戦記のほか、複数のトップ棋士が藤井将棋の強さについて証言をしています。
その証言から、他の棋士の感覚にはない、藤井四段の特徴的な着手が浮かび上がりました。

2つの局面をお見せします。
【第3図は▲3六飛まで】


【第4図は△7三飛まで】
AbemaTV七番勝負の第5局の深浦康市九段戦、そして最終局、羽生善治三冠戦で現れた局面です。
ここで藤井四段が共通して指した手、おわかりでしょうか?



正解は、▲7七歩(△3三歩)です。
藤井四段の自戦記(深浦九段戦)を引用しましょう。

△3三歩と打って手応えを感じた。
△3三歩と打つことによって、先手から▲3三歩と打つ手がなくなったのが大きい。4五の桂が負担になり、先手の攻めがつんのめった印象だ。


羽生三冠のコメントも引用しましょう。

7七や3三の地点に歩を埋めて自玉を固めるのは深浦戦でも見られた手で、藤井さんの好みだと思います。


鈴木大介九段も、この手の感覚について評しています。

(第5局、深浦九段戦のコメント)

△3三歩は羽生戦にもよく似た手があって印象に残る手でしたね。駒の働きを求める昔の棋士なら、この歩は打たない。後手は瞬間的な固さを求めているんですよね。現代的です。

(第7局、羽生三冠戦のコメント)

(▲7七歩は)確かにいい手なんだけど、技術的には技が少ない。藤井くんの一つのクセを見ているような気がしました。▲7七歩は短期的に見れば玉を固くしている。だけど、長期的に見ると駒が伸びない。だから、私なら指さない。



たしかに一見して、このような形で自陣に手を入れるのはあまり見かけないし、感触がいい手でもありません。しかし藤井四段はこの手の感触を高く評価しているようです。
 
【第7図は△4九角まで】
第7図は中村太地六段との第4局。本譜はここで▲3五歩と指しました。この局面について藤井四段は自戦記でこのように述べています。

 ところが調子に乗って▲3五歩と攻めたのが悪手。ここは▲7七歩と歩を埋めて受けに回るところだった。▲7七歩は玉が狭くなるのでためらったが、このあと後手の攻めも意外に難しい。

ここでも▲7七歩と手を入れればよかったと振り返っていました。

AbemaTVの7局中2局(水面下も含めると3局)でこのようなちょっと珍しい手筋が出現するというのは、確かに藤井将棋の特徴のひとつの表れと言って良さそうです。

考えてみれば▲7七歩(△3三歩)という着手自体、あまり見かけるものではありません。平成29年版将棋年鑑で▲7七歩(△3三歩)を検索してみたところ、プロ対局では▲7七歩は11局、△3三歩は13局見つかりました。
が、そのほとんどは7六の飛や銀を追い返す手だったり、飛や角の利きを防ぐ手だったりです。藤井四段の▲7七歩と同じような趣旨で指されたと思われる手はわずか1局(第8図)。竜王戦ランキング戦1組で佐藤康光九段が指した手です。
 
【第8図は▲7七歩まで】

▲7七歩は、他の棋士と違う藤井聡太の強さの秘密を解くひとつのカギになるかもしれません。
羽生ゾーンならぬ「藤井ゾーン」と言われる日が来るかもしれませんね。
 

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