藤井聡太四段インタビュー  『強くなることが僕の使命』|将棋情報局

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藤井聡太四段インタビュー  『強くなることが僕の使命』

 将棋の史上最年少棋士・藤井聡太四段(14)の快進撃が止まらない。
 昨年12月、現役最年長棋士・加藤一二三九段(77)に勝利して以降、半年間にわたって白星を積み重ね、公式戦18連勝中(18日現在)。過去10連勝が最長だったデビュー後の連勝記録を大幅に更新している。非公式戦でも第一人者の羽生善治三冠を破って世間を驚かせ、ワイドショーまで採り上げる時代の寵児となっている。
 連勝中、5月1日の対局(竜王戦ランキング戦6組準決勝=対金井恒太五段)を終えた翌日の藤井四段に聞いた。

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プロでやっていける自信が付いた

――対局の夜は、すぐに眠れるものですか?

「……そうですね、やっぱり興奮してしばらく眠れない感覚はありました。対局の日は、終わってしばらくは(当日の)将棋のことを考えてしまいます」


――昨日は対局後に「プロでやっていける自信が付いた」と。あのような言葉は初めて聞きました。

「プロになったらどうなるか(勝てるかどうか)と考えていましたので。(奨励会=棋士養成機関)三段に上がった頃も、最初は降段点を取ってしまわないか(成績が悪いと二段に降段する)と思っていたんです。(連勝中は)苦しくしてしまった将棋もありますけど、乗り越えてこられたのは自信になりました」


――当然、勝てば自信になる。

「結果もですけど、対局に慣れてきたこともあります。でも、5時間の持ち時間って長いですよね……。自分は使い切って秒読みになる形にはなかなかならなくて、残り10分を切ったことがないんです。早見表(記録係が盤側で示す残り時間の表)が出るのが怖いので……」


――デビュー戦と現在で自分は変化したと思いますか? 棋士間からは「強くなっている」という声も聞こえてきます。

「実力としてどのくらい伸びているのか、どのくらい強くなったのか、どのくらい(の位置)にいるかは、なかなか数局では分からないです。逆に序盤で形勢を損ねてしまう将棋が多いので、序盤の組み立てが課題だと思うようになりました」


――11連勝の新記録を樹立した際の「望外」という言葉が話題になりました。やはりいまも望外という気持ち?

「……そうですね。当然、自分の実力以上の結果が出ているというのが実感です」


――印象に残る一局、あるいは一手は。

「やっぱり苦しくしてしまった将棋の方を覚えています。大橋(貴洸四段)さんとの新人王戦、小林(裕士七段)先生との王将戦……。相当悪くしてしまいましたから。あと、やはり加藤(一二三九段)先生との初戦です。1秒も読んでいない手を強い手つきで指されて相当ビックリしました」

(羽生さんへの)憧れから抜け出さないと

――非公式戦の「炎の七番勝負」での羽生善治三冠戦の勝利は世間的にも大きな話題になりました。局後に羽生三冠は「すごい人が現れた」と。「自分の若い頃より完成している」とも。目の前で聞いてどう思いましたか。

「……もちろん羽生先生にそう言っていただいたのはものすごく嬉しかったですけど、これからどれだけ強くなれるかだと思いますので。将棋って……ハイ、深いゲ―ムなので、ものすごく強くなれる余地はあると思っています」


――その後、同じく非公式戦の獅子王戦では敗れた。

「早い段階で悪くしてしまいまして、途中からは粘っていただけです。中盤で全く勝負になっていなくて、羽生先生の力を感じました」


――藤井さんにとって、羽生三冠はどんな存在なのでしょうか。

「僕が将棋を始めた頃から……いや、生まれるずっと前からトップだったわけですから。奨励会時代はただ遠い存在として憧れていただけですけど、公式戦では自分の頑張り次第で当たるところまで行けるので、羽生先生と当たるところまで登りつめないと、と思いますし、憧れからは抜け出さないといけないと思います」


――世間の注目度は、羽生三冠の七冠達成時以来かもしれません。

「自分は……ただ将棋を指してきただけなので、大きく採り上げていただけることはうれしい反面、照れくさいというか気恥ずかしい気持ちもあります」


――ご家族やクラスメイトも驚いているでしょうね。

「家族は将棋のル―ルを知っている程度なので、あまりよく分かっていないと思います。学校では新聞とかテレビを見た友達から『すげーじゃん』と言われたりはしますけど。女子からの視線? いえ……そういうのは全くないです」

 

 

ずっと将棋が好きでやってきた

――しかし、活躍を見て将棋を始めるお子さんだったり、子どもに将棋を勧める親御さんは確実にいるはずです。

「……僕のことをきっかけに将棋を始めてくださる方がいたとするならば、棋士として嬉しいことだと思います」


――藤井さんが将棋を始めたときは、なぜ将棋を選んだのでしょうか。

「始めたのは5歳のときで、囲碁も少し打ってみたんですけど、初心者の祖母に勝てなかったんです。将棋は祖母や祖父にすぐに勝てるようになったので、どんどんのめり込んでいったんだと思います。将棋に対する思いはずっと変わらないです。ずっと好きで自然にやってきた感じです。将棋を指したくないとか、駒に触れたくないとか思ったことはないです」


――強さを育んだ詰将棋はいつ頃から?

「5歳の夏に将棋を始めて、冬には地元の子供教室で1手詰、3手詰を普通に解く感じになって……。意識的に取り組んできたことではないんです。好きだから自然に続けてきました」


――詰将棋は手順の美しさを追求したものですが、勝負の盤上でも美しさを追いたいと思うものでしょうか。

「詰将棋の美しさは芸術的なものですが、将棋には勝敗があって一手に優劣が付きます。詰将棋のようなカッコイイ手が最善だったらいいですけど、実は悪手だったということもあるので、まずは最善手を……。派手な手と『地味だけど最善手』の兼ね合いはとても難しいと思います」

 AIコンピュータ将棋への興味

――美しさの概念も含め、コンピュータの進化は既存の常識や価値観を変化させたように思います。

「電王戦は注目して見てきました。棋譜を見れば当然コンピュ―タの強さを感じますし、いろいろな発見があります。コンピュータが台頭したいまは過渡期で、世間の方からすると『コンピュータに勝てないの?』と思われるかも知れませんけど、いずれは他の分野においてもそのような時代は来ると思います。コンピュータの方が強くなったとき、棋士の存在意義が問われてくると感じます」


――中学校でAI(人工知能)の研究をされたと聞きました。

「大学の教育学部付属中学なので、大学の先生に話を伺う機会がありまして。将棋でも囲碁でも、強いコンピュータが現れて人間が負けたとなるとAIへの脅威論が出てきたりしますけど、空間の限られたボードゲームはAIが得意とする分野ですので。今は自動運転の開発が進められていますけど、AIが人間と同じ知能を持つかといったら別の話で、汎用人工知能は自動運転の延長にはない、という話を伺いました」


――コンピュ―タは、藤井さんの将棋観にも変化を与えたのでしょうか。

「自分も1年ほど前から研究に使っていますけど、いまのソフトは強化学習によって人間とは違う価値観があり、感覚が進歩してきたというか高まってきたように感じます。序中盤は人間からすると茫洋としていてなかなか捉えづらいですけど、コンピュータは評価値という具体的な数値が出るので、活用して参考にすることでより正確な形勢判断を行えるようになると思います。居玉はよくないとか、人間はパターンで考える感覚がありますが、コンピュータは居玉でもいい形というのを捻り出してきたり、局面を点で捉えますので」


――電王戦は終わりますが、自分も勝負したい、という思いは。

「……う―ん、そうですね……。勝負として対局する時代ではなくなっていくとは感じます」

私生活「テレビはニュースとNHK杯を観るくらい」

――お話を聞いていると14歳の方と話している感覚ではなくなってきますが、素顔の部分も伺えたらと思います。驚いたのは、50メ―トル走6・8秒。かなりの俊足ですよね。

「実は今年、記録が落ちたんです。去年が運動能力としては全盛期だったようで、短い全盛期でした(笑)。普段、ラジオ体操くらいはしますけど、運動時間ゼロ分なので……。球技? そこまですごく得意というのはなくて、でもほどほどには。放課後? まっすぐ家に帰ります。いちばん最初にすることですか? ……おやつを食べます。けっこう食べる方です。こだわりはないですけど、グミとかけっこう食べます」


――ラーメン好きと報道されています。

「……ラーメン通というわけじゃないです。東京でラーメン屋さんに行ったことはないですし、(関西将棋会館のある大阪市の)福島がラーメン激戦区とは聞いていますけど、(行っても)けっこう混んでいて……」


――読書家とも聞きます。小学4年生で司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を読破したとか。

「いや……母が歴史ものを好きなので、家にあったものを手に取ってみただけです。旅行記とかは好きで村上春樹さんの『遠い太鼓』とか……。村上さんの小説は読んだことがないのですが……。漫画は家にあるものを少し。『ピンポン』(著・松本大洋)とか……。『3月のライオン』(著・羽海野チカ)は映画も観させていただきましたが、対局中の細かい仕草もリアルで迫力が伝わってきました。でも、映画館にはほとんど行ったことないんです。映画自体もそんなに観たことがなくて、ジブリくらいです。『天空の城ラピュタ』とか『魔女の宅急便』とか……。音楽もあんまり……兄がかけているスピッツとかは聴きますけど」


――『聖の青春』(著・大崎善生)も読んだとか。

「母が買ってきたものを読んで、映画も観ました。村山先生はいつまで生きられるか分からないような状態で、あの(雑然とした)部屋でひたすら将棋を指す、というのは本当にすごいな……と思います。村山先生の将棋は、序中盤が力強くて迫力がある印象です」


――気象庁のホームページで各地の積雪量を調べるのも趣味だと。

「積雪量なので、いまの季節は見られません。でも、数字を見るのは好きです」


――新聞も愛読しているとか。

「ざっと目は通しますが……。いまはけっこう北朝鮮問題に関心があります。人類を絶滅させるだけの核兵器を持っているとしたら……と。テレビはニュースとNHK杯を観るくらいです」


――スポーツ観戦は? 最近、卓球で少し年上の17歳の平野美宇選手が世界王者の中国選手に勝って話題になりました。

「卓球は最近10年くらい中国勢が圧倒的だったので、破ったことはすごく価値があることだと思います。野球もルールくらいはわかるんですけど、特定の選手がどう、という感じではないです」


――アスリートは挫折を乗り越えて強くなりますが、藤井さんは将棋を指してきて挫折を感じたことはあるのでしょうか。

「挫折というのはおこがましいんですけど……小学2年の時の子供将棋大会の決勝の舞台で、タダで角を取られたのは衝撃でした……。でも、いま思えばいい経験です」

将棋に巡り合えたのは運命

――経験を生かし、強くなり、中学生棋士になった。現在の目標は。

「中学生棋士の先生方は皆さんすごい実績を残されているので、傷をつけないように負けないように頑張りたいと思います。20歳までに結果を残したいという思いはあります。タイトルということ? ハイ……。名人もプロになったからには目指すべきものですし、強くならないと見えない景色があると思いますので、そこに立てるように頑張りたいです」


――コンピュータが台頭する中、人間として新手、新戦法、新構想を創出したいという思いは。

「いまはコンピュータがかなり強くなっていて、盤上において人間が勝る領域はどこにあるのか、あるいは全くなくなるのかは分からないですけど、コンピュータに関係なく面白い将棋を指すことは棋士の使命なので。そういう将棋を指せるように頑張りたいと思います」


――さらに強くなるための課題は。

「たくさんあると思いますけど、まずは序中盤の形勢判断でしょうか……。将棋にはものすごく強くなる余地があると思っていますので、自分の頑張り次第かと思います」


――盤上に闘志は必要でしょうか。

「闘志が必要かどうかは難しいと思いますが、もちろん勝ちたい気持ちはあります。でも、勝つためにはいかに最善に近づくことしかないので、局面局面で最終的な勝ち負けを意識した方がいいかどうかは……」


――羽生戦のニラミは闘志の表れかと。

「そ、そんなに見てましたか……。気がつきませんでした。終盤になってくると勝ちたい気持ちは強まってくるので、どんどん前傾姿勢になってしまうことはありますけど」


――生まれてきたのは将棋を指すためだと思いますか?

「……将棋を指すために生まれてきたかは分からないですけど、将棋に巡り合えたのは運命だったのかなと思いますし、将棋を突きつめていくこと、強くなることが使命……使命までいくかわからないですけど、自分のすべきことだと思います」


 25日、19連勝を懸けて竜王戦6組ランキング戦決勝・近藤誠也五段との大一番が控える。6組優勝を果たすと、約160人の現役棋士のうち11人しか参戦できない決勝トーナメントに進出する。さらに、その大舞台でも勝ち続け、渡辺明竜王への挑戦権を懸けた「挑戦者決定三番勝負」で羽生善治三冠(1組準優勝者)と激突――。そんな夢物語も可能性ゼロとは言い切れないのが今の藤井四段である。
(5月2日・東京「将棋会館」にて)

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