藤井聡太四段インタビュー 夏、十四歳の声|将棋情報局

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藤井聡太四段インタビュー 夏、十四歳の声

前人未到の29連勝を達成した藤井聡太四段。次なる目標は何か。志はどこに向いているのか――。15歳を目前にして、静かに口を開いた。
【構成】北野新太(報知新聞社)
【写真】北野新太、田名後健吾
(将棋世界2017年9月号より)

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七夕の日、夕暮れ時。
日中、最高気温34℃に達した愛知県瀬戸市に吹く風も、ようやく優しくなった。
生まれ育ち、将棋と出会い、今も生活を送る町に佇む藤井聡太の表情は柔らかに解放されている。
撮影のため、小さな頃に通ったという公園への同行を願う途中、近所の主婦に発見された。小学校時代の同級生のお母さんらしい。
「聡太くーん! 応援してるよー!」
藤井は深々と頭を下げる。
「あ、ハイ! ありがとうございます」
丁寧に応対する様子を見ながら「最近はずいぶんと声を掛けられるんじゃないですか」と尋ねてみると、彼は「そうですね……」と言った後で続けた。
「でも……負けた後は誰にも話し掛けられないんだな、ということを知りました。連勝中はよく声を掛けていただきましたし、昨日勝った後も話し掛けていただきました。ただ、負けた後は……」
いつの間にか日常的になったシーンが失われることで、彼は初めての敗北を実感しただろうか。
太陽が刻々と地平線に近づいていく。群青色の仄光が万物を包む「マジックアワー」が始まろうとしている。
もしかしたら、藤井が駆け抜けた29連勝も流れゆく棋史の一瞬を輝かせた魔法の時間だったのかもしれない。
前夜、順位戦C級2組での中田功七段との一局を激闘の末に制し、新たな一歩を踏み出した14歳に聞いた。


——昨夜(7月6日)は大阪で深夜の終局でした。あれからどのように過ごされたのでしょう。

「(関西将棋会館の)宿泊室に泊まったんですけど、眠れなくて……指した将棋を振り返っていました」

——中田七段のコーヤン流三間飛車が威力を発揮した一局でした。

「まともに食らってしまった将棋でした。途中で誤算もあり、苦しくしてしまいました。あんなに綺麗に捌かれてしまうものなんだなと思いまして……。(順位戦前局の)瀬川(晶司五段)先生戦で良さそうな局面から方針を決めず、なんとなくのまま指してしまったので、そのようなことがないようにと長考しましたが、こっちは何を長く考えていたんだろう……と思うような将棋でした(笑)」

——打ち歩詰めの順に誘導して耐えるのは稀有な展開だと思いますが……。

「端攻めが刺さってしまっていて受けが利かない形になっているので、仕方なかったと思いました。△4九角から△3三桂と跳ねて来られた局面でようやく本格的に形勢が芳しくないと気付いたんですけれども、まずいという気持ちと、こんなに綺麗に捌かれるんだなという気持ちで。桂を持っての△7六角成が綺麗な組み立てだなあと思いました」

【第1図は▲7四桂まで】
——局後に「勝負手が結果的に奏功しました」と語られました。

「怖いというか、危ないとは思ったんですけど▲7四桂(第1図)を指しました。相当危なくなりますけど、そのくらいやらないといけないと思いました。その後、▲8五歩と桂を取った瞬間に、何かが来なければ後手の攻め駒がはっきり少ないはずだと」

——「前の対局に負け、以前より勝敗にこだわりました」とも。

「一局に臨む気持ちは今までと変わりませんでしたが、途中苦しくなってからは、勝ちたい、という思いが生まれてきました。連勝中はいずれどこかで負けると思っていましたけど、連敗は避けたいと。だから、勝敗という面ではホッとしたところはあります」

——中田七段の言葉も印象的でした。「三間飛車は今はもうプロでも私しか指す人がいません。ソフトの振り飛車への評価が厳しいのは分かっていますが、自分しかできない戦法だからこそ評価されるとうれしいし、こだわっています。今日も藤井さんに三間飛車を指せるのが楽しみでした」と。目の前で聞いて、何を思いましたか。

「私自身は戦法に対してこだわりのあるタイプではないので、中田先生の三間飛車と対戦できるのが純粋に楽しみでしたし、ひとつの戦法を貫く先生の姿勢には棋士としての矜持を感じる部分がありました」

——連勝中、メディアは「AI将棋の申し子」的な論調で藤井将棋を語り続けました。でも、昨夜の終盤などを見ていると最短距離で勝つことや美しい順を描くことを目指す、人間的な、あえて言えば棋士としての美学のようなものを感じます。

「こだわりというほどではないんですけど、読んでいるときは最短の順から掘り下げていくことはあるかもしれません。読み切っていてはっきり勝ちという順があるなら、なるべくそのような将棋を見たいな、とは思います。もちろん、おそらく勝ちだろうけど、本当に勝ちかどうかは分からないという状況であれば、長引いても確実に勝つ順の方がいいと思います。将棋の局面評価は究極的には1か0かマイナス1の3つしかないので、いくら形勢が縮まったように見えても、ずっと1(の局面)を保っていれば問題ない、ということはあると思います」


——棋風について伺います。角換わりを得意とされ、角の使い方に特長があるといわれます。また、最近は受けの技術に才を発揮しているとも。

「将棋はどんな戦型も途轍もなく深いので、本当ならどの戦型も指しこなすことが理想だと思うんですけど、角換わりは……得意というわけではなくて最近よく指しているので感覚的に慣れていることはあります。仕掛けるまでがいろいろ難しいので、角をどういうふうに使うかという組み立てに面白みを感じています。単純に最善に近づきたいというのが理想で、うまく感覚をつかめる局面とそうでない局面はあります。できるだけ自分の感覚が通用しやすい局面に持っていこうとするのは誰しもある感覚だと思いますけど、棋風に囚われすぎないようにしたいとは思います」

——連勝中、あらゆるメディアが「詰将棋に培われた終盤力にコンピュータ研究による序中盤力が加わった」という視点で語りました。一方で、例えば羽生善治三冠は藤井将棋におけるソフトの影響について「大きな要因ではないと思います。他の棋士も使っていますから。全く使わなくても藤井さんが強くなったのは間違いないです」と明言しています。

「序中盤の形勢判断などで力になった部分は大きいとは思います。考える候補手、拾う手が若干増えたかなという印象はあります。ただ、はっきりと違いを感じるものでもないです。例えば増田先生戦でも序盤で分からなくなってしまいましたし、経験の少ない形になると力戦になります。ソフトを採り入れている代表的な棋士は千田(翔太六段)先生だと思いますけど、使っていなかったはずのデビュー当時からすごく強くて、力戦派でもあられます。私も使い始めたのは一年ほど前の三段の頃からなので…。ソフトとしか指したことのないソフトネイティブ世代が台頭して来たら違うかも知れないですけど。コンピュータの影響で良くなった部分はありますけど、それだけではないとも思います」

——羽生三冠は「檜舞台で顔を合わせる日を楽しみにしています」とも。

「恐縮というか畏れ多いです……。当然目指すべき場所ですけど、そのためには僕がもっともっと強くならないといけないので、僕の努力次第だと思います。実力をつけて、(タイトル戦の舞台に)立つべくして立てる力をつけたいです」

——憧れを公言する谷川浩司九段は、史上最年少タイトルの可能性も高いと評しています。

「うーん……そうですね…屋敷(伸之九段)先生の獲得が18歳6ヵ月ですか……あと3年半あれば強くなれると思いますし、強くなっていないといけないと思いますけど……」

——例えば「十年後の自分」といったイメージも描いているのでしょうか。

「十年後は24歳ですから、実力としてはピークにいるときだと思います。羽生先生も25歳で七冠を達成されていらっしゃいます。どれくらい強くなっているのか、どのような景色が見えているのか……強くならなきゃいけないと思います」

——藤井さんの影響で将棋を始めて、いま初めて将棋世界のページをめくっている子どももいると思います。

「とにかく楽しんで将棋を指してほしいと思います。強くなるための方法論は確立されていないと思いますので、まずは楽しんでほしいです。将棋は圧倒的に自由なので、将棋の可能性を感じてほしいです」

——親御さんには。

「お子さんに自由に将棋を指させてあげてほしいです。自分も小学生の頃、大会に行きたいと言えば両親が連れていってくれたことが本当に嬉しかったですし、今になるととても大きいことだったと思います」

——14歳にして棋士として戦っている自分は、もう子どもではなく大人だと考えていらっしゃるのでしょうか。

「まだ14歳なので未熟なところはありますが、棋士として将棋を指すことや、終局後のインタビューにしても棋士としての責任があると思うので、しっかりしていきたいと思います」

——進学については。

「高校は15歳から18歳の3年間になりますけど、18歳から25歳が流動性知能(注:思考力・計算力などを指す知能で、対する概念として経験を基とする結晶性知能がある)のピークのようで大事な時期なので、難しい選択になるかなと思います」

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