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将棋世界インタビュー特集

特別対談 トップ棋士が分析する藤井聡太四段の天才性

5月26日時点で無傷の19連勝中。もはや藤井聡太四段がただの新人ではないことは明白だが、トップ棋士はどう見ているのだろうか。深浦康市九段と広瀬章人八段が、藤井将棋の非凡さと強さの秘密を分析した(構成:相崎修司)。

対談の全文は、将棋世界7月号に掲載されます。

計り知れない成長力

――最近、将棋メディアのみならず、各方面で藤井聡太四段の活躍が大きく取り上げられています。今回、お2人には藤井四段の将棋について話していただきたいのですが、まず最近の世間的なフィーバーをどのように感じますか。

深浦「加藤先生(一二三九段)とのデビュー戦でも多くのマスコミが集まりましたが、それから半年ほどたって、新人の連勝記録を更新した辺りでテレビのワイドショーなどでも再び取り上げられるようになりました。藤井君の連勝が続くことで、ますます大きくなっています。20年以上前、羽生さん(善治三冠)の七冠フィーバーを思い出させますね」

広瀬「私は当時まだ奨励会にも入っていなかったので、1人の棋士にこれほど注目を集まる現象は初めて見ました。15連勝を達成した日は、私も対局でしたが、集まったマスコミがタイトル戦以上です。藤井君も慣れてきたようで、コメントも大人びたものを感じます」

――ある中堅棋士が「15歳からの10年を奨励会ではなく、プロ棋士として送れるのはうらやましい」と言ったのを聞きました。奨励会員との違いはどこにあるのでしょうか。

深浦「いろいろあるでしょうが、まずはトップ棋士と当たれる機会があるというのが段違いに大きいと思います」

広瀬「加えて、奨励会員はどうしても目の前の勝ち負けにこだわります。棋士になると、持ち時間も増えるので、将棋の内容に気を遣います。それを10代で経験できるにこしたことはないでしょう」

 

新人離れした藤井将棋

――ここからは具体的な将棋の内容について伺います。まず、デビュー戦の対加藤九段に関して、すでに多方面で取り上げられた一局ですが、本局に関するお2人の印象を教えてください。
【第1図は△6四歩まで】

 

深浦「局面を挙げると第1図の△6四歩です。代わる順として△6五桂▲6六銀に△6四歩はありますが、▲3七桂から玉頭を攻められる可能性があります。本譜は以下、▲5五歩△同歩▲同銀に△6五桂ですが、きめの細かい手順だと思いました。銀を進出されるのは怖いですが、それを逆用しようとする構想です。この△6四歩に44分考えていますが、奨励会の将棋に慣れていると、中盤の大事な局面でここまでまとまった長考はできません。加藤先生も大変な相手だと思われたのではないでしょうか」

広瀬「本局に関しては具体的な1手というより、先手に攻めさせるだけ攻めさせてカウンターで仕留めた、後手番居飛車の理想をあっさりやってのけたという印象です。藤井君に絶妙手というものはありません。終盤は後手玉も危なそうに見えるのですが、カウンターに出たら一気に先手玉を寄せきりました。彼の詰将棋能力が最大限に発揮された1局でしょう。感想戦を聞いていても、ギリギリの順を見切っています。『この新人はすごいんだな』と、その時初めて思いましたね」

――ギリギリの見切りというのは、いわゆる「若さゆえの怖いものなし」のような要素があるのでしょうか。

広瀬「デビュー戦の時はそう思いましたが、他の将棋からすると間違いで、本来はもっと手堅いタイプとみます」

――具体的な1局をお願いします。

広瀬「いろいろありますが、まずは平藤さん(眞吾七段)との将棋です。

【第2図は△9一金まで】
 

第2図の△9一金が角を詰ます冷たい一着でした。

【第3図は△8六桂まで】

また、所司(和晴七段)戦は第3図から、▲6八金△8七歩▲8八歩という進行です。いずれも攻めてもよさそうなところをしっかりと受け、相手が無理攻めしてきた局面でカウンターから仕留める。谷川さん(浩司九段)や羽生さんのようで、両者の将棋をよく並べているのだろうなと思います」

深浦「平藤戦は僕も印象に残りましたね。それまで、圧倒的な終盤力で勝ってきた藤井君ですから、平藤さんも攻めることで藤井君の受けを試してみようと思ったのではないでしょうか。

【第4図は▲6一桂成まで】

平藤戦では第4図からの△7三角など、決め手を与えない受けが多かったので、並の新人ではないと思いました。

【第5図は▲8六香まで】

あと、新人王戦での大橋(貴洸四段)戦。これは藤井君がかなり悪かったと思いますが、第5図からの△8三桂は四段時代の羽生さんを思わせる粘りです。あと、十数手進んだ第6図からの△8四角も印象に残ります」

 
【第6図は▲9四歩まで】

広瀬「△8四角は派手な手ですね」

深浦「▲8四同香に△8五桂を作る意味のただ捨てでしょうが、ここはかなり大橋君がいいはずです。決め手を与えない粘り方は四段の頃の羽生さんと似ていて、一手勝ちを見切る攻めは谷川さんのようです。普通の新人は一つ特長があれば十分で、プロ生活を送るうちに多くの要素を持ち、バランスを取っていくのが自然ですが、藤井君はすでに多くの特長を持ち合わせています」

 
【第7図は▲7九飛まで】

広瀬「大橋戦では第7図から△9五歩と突き捨て、▲同歩に△2八成銀と手を渡す順に驚きました。△2八成銀は▲2七馬~▲6二歩成を阻止し、最悪は1九の香車と交換もという意味でしょうが、ここで暴発せず、端の綾だけをつけて、手を渡す感覚は新人離れしています」

――大橋戦はモバイル中継されていましたが、ファンの反応には「なんで勝ったかわからない」という声もありました。

広瀬「いつの間にか体勢が入れ替わりましたね。局面がごちゃごちゃしているうちに形勢を入れ替えるのは、トップに絶対必要な技術です。最近の将棋は先行逃げ切りが多いですが、失敗した時のリカバリー力も必要で、大橋戦ではそれが出ました。ただ藤井君のように、悪くなることが珍しい新人は、滅多にいません」

真価が問われる時は?

――ズバリお聞きします。藤井四段はどのくらい強いのでしょうか。

深浦「公式戦で上位陣と当たっていないので何とも言えませんが、普通はそこで壁に当たり、真価を問われますよね。ただ彼の成長力と性格的なものからすると、壁に当たってもすぐ立て直しそうです。公式戦での連勝が続くと、普通はどこかで満足しそうですが、彼にはそういう部分がありません。常に貪欲で強い相手と指して勝ちたいと思っています。そういう雰囲気も新人離れしていますね」

広瀬「常に先を見据えてやっている観があります。勝ち将棋でも途中に雑になったりせず、丹念に読んでいる。相手が投了するまで油断するようには見えません。今後も相当、伸びる素質があるように見えます」

(取材・5月8日)
対談の全文は、将棋世界7月号に掲載されます。  

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