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久保九段&戸辺七段のゴキゲン対談「ゴキゲン中飛車愛を語る」

2017.01.26 | 

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みなさま、こんにちは。将棋世界編集部の下村です。

将棋世界2月号はお読みいただきましたでしょうか。ご好評いただいている戦術特集は今回はゴキゲン中飛車がテーマです。


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王将戦七番勝負第1局では、挑戦者の久保利明九段がゴキゲン中飛車を駆使して、鮮やかすぎる寄せで先勝しましたよね。編集部内でネット中継を観戦していましたが、薄い玉形から反撃に転じて、最後は鋭い寄せを決めました。鳥肌が立つような鋭い手に思わず興奮してしまいました。今日現在で久保九段が連勝。今年は振り飛車がまたブームになりそうな予感です。そんな久保九段ですが、本誌では戸辺誠七段と対談が実現。ゴキゲン中飛車の魅力を存分に語っています。題して「ゴキゲン中飛車愛を語る」。みなさまは読んでいただけましたでしょうか。当ブログではホンの一部をご紹介します。

迷ったら久保ファイル
──ゴキゲン中飛車を指し始めたキッカケを教えてください。
久保 棋士になって最初の頃は、四間飛車から藤井システムで戦う形を中心に指していましたが、幅を広げようとゴキゲン中飛車を指し始めました。ただ、当時はサンプルも少なく、棋譜データベースもない頃だったので、将棋連盟で棋譜を100局位コピーを取って、ひたすら並べて研究した記憶があります。
戸辺 私のゴキゲン中飛車との出合いは奨励会有段者の時代でしたが、記録係をよく務めていて、久保先生や鈴木先生(大介八段)や近藤先生(正和六段)の将棋をよく採りました。盤側で観ていて、楽しそうだなと感じました。奨励会の修業は苦しくても、せめて盤上は楽しい将棋を指したいと思ったのがキッカケです。奨励会では香落ちも指すので、それまでは振り飛車穴熊ばかり指していました。
久保 ゴキゲン中飛車は四間飛車と違って角筋を止めないので、超急戦をはじめ激しい将棋になりやすいのが特徴ですが、指し始めた頃は緩急の付け方も戸惑いました。まだ定跡も整備されていなかったので、指しながら感触をつかんでいきました。でも根底には、ゴキゲン中飛車は指してみて楽しいというのがありますね。相手よりも自玉が固くなるので、ストレスがたまらず気が楽でした(笑)。
戸辺 ボクは棋士になってからはなんの違和感もなく、ゴキゲン中飛車が振り飛車のスタートでした。なので中飛車なくしてはプロになれなかったといっても、過言ではありません。
──戸辺七段は修業時代から久保将棋に傾倒していたそうですね。
戸辺 久保先生の序盤の工夫、華麗なサバキ、終盤の粘りなど、すべてにおいて見習いたい部分です。ボクは奨励会時代から久保先生の棋譜だけを保管している「久保ファイル」というものがあって、迷ったらいまでもファイルの棋譜を何度も何度も並べ直して勉強しています。そのことを菅井君(竜也六段)に言ったら「当然ですよ」って返されて(笑)。それで意気投合しました。
景色が違う相穴熊
──振り飛車の天敵といわれる居飛車穴熊も、ゴキゲン中飛車では見解が変わってくるそうですね。
久保 他の振り飛車だと、穴熊に組まれたら、駒がさばけたとしてもそこから勝つまでは大変です。四間飛車からの相穴熊(第1図)と違って、ゴキゲン中飛車からの相穴熊(第2図)は、景色が劇的によく見えます。それは5筋の歩が伸びているし、角道を止めていないので主導権を握れるからです。
               
戸辺 居飛穴側に6七金と上がらせているのもポイントですよね。組み上がっても堅さ負けしません。ボクの奨励会時代は、相手に穴熊に組まれると勝率はかなり落ちました。棋士になるためには死活問題ですし、存分に組ませないためにはと考えて、ゴキゲン中飛車を指すことに行きつきました。穴熊は指すのは好きですけど、組まれるのは嫌いです(笑)。

久保 いまではメジャーの戦法になりましたが、早くから中飛車に眼をつけていた近藤さんは、すごいと思います。
戸辺 居飛車側にも超速3七銀をはじめ、超急戦などいい対策や研究が出てきて、一時は苦しい時期もありましたが、中飛車側も頑張りました。それが長期にわたって支持されている理由だと思います。
久保 居飛車党はたくさんいるので、研究の情報量などを比較すると多勢に無勢ですが、居飛車党は相居飛車の研究もしないといけないので、ゴキゲン対策ばかり手が回らないでしょう(笑)。そういう意味では振り飛車党は振り飛車の研究だけすればいいし、経験値の差も生かせるので、埋められる部分だと思います。
戸辺 居飛車党が複数人集まると、定跡の指し手について意見を交換したりする光景をよく見かけましたが、振り飛車党はあまりヨコのつながりはないですね。ひとりひとりが頑固職人です。
久保 将棋の話もしないよね(笑)。
ゴキゲン中飛車の定義
──ゴキゲン中飛車の序盤について聞きます。一般的に▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△5二飛の出だしがゴキゲン中飛車の基本形といわれていますが、そのほかの出だしならゴキゲン中飛車とは呼ばないのでしょうか。
久保 私もそう思っていました。ただ先手の初手▲5六歩は何?といわれると、力戦中飛車?でしょうか。考えたことはありませんがわからないですね。
戸辺 たしかにいまの手順が正確な出だしだと思いますが、先手が3手目に▲1六歩と突いて、同様な順で中飛車を目指す指し方もあるので、厳密なことはわかりません。ただ個人的には近藤先生が気分よく中飛車を指せば、それは全部ゴキゲン中飛車でもいいと思います。近藤先生もきっとそう答えるでしょう(笑)。
久保 戦法の定義までは考えたことはありませんが、確かに家元の近藤さんが、カギを握っていますね(笑)。
──いまは居飛車党も後手番対策でゴキゲン中飛車を指す時代です。
久保 ネット中継などを観戦しても、角換わりや横歩取りばかりで、少し寂しいですね。もっとゴキゲン中飛車が観たいですよね。なので居飛車党の棋士もどんどん指してほしいです。「そういう感覚もあるんだ」と新しい発見もありますし、人が指しているのを気軽に観戦するのが、私の趣味のようなものです(笑)。
戸辺 ボクが奨励会員の頃は、A級順位戦に振り飛車党が3人いて(藤井猛九段、久保九段、鈴木八段)戦型もいろいろあったので、いち振り飛車ファンとして、観戦するほうも楽しかったですね。
久保 あとゴキゲン対策で感じることですが、超速に対して居飛車党の棋士は▲4六銀に△4四銀と対抗形にする傾向が多い印象です。これなら角頭への仕掛けはないので、玉を無難に囲い合えますが、角筋に銀を上がるのでサバキを目指すというよりも、押さえ込まれないようにする構想です。私は妥協している感じがあり好みません。
戸辺 そうですね。久保先生は△4四銀よりも△5四銀から軽くサバキを狙うイメージです。棋譜を並べていても、▲4六銀に△4四銀としないという、強いこだわりを感じます。
久保 うまくさばければキレイに勝つことはありますが、負けるときは大体押さえ込まれて、形にならない負け方をすることもあります。なのでこれからゴキゲン中飛車を指すアマチュアの方には、まずは△4四銀と対抗して玉をしっかり囲う形がおススメですね。
戸辺 自身の将棋教室では△4四銀を教えています。居飛車側に右銀の進出を許すと、角頭を押さえ込まれて手も足も出ない心配もあります。生徒に教えている手前、手堅く銀対抗を指しています(笑)。本当は久保先生のように軽いサバキを目指したいのですが、つい手堅さを優先させてしまいますね。
久保 どうしてもギリギリまで引き付けてサバキを目指すと、押さえ込まれる可能性もあります。悔しい負け方もしますがそれも宿命ですね。
トップ棋士もそれぞれの味
──居飛車党でゴキゲン中飛車がうまいと感じる棋士は誰ですか。
久保 当然ですが、将棋が強い棋士がうまいですね。羽生さん(善治三冠)や渡辺さん(明竜王)は普通にうまいなと思います。ただ振り飛車党の視点で見ると、両者ともサバキの将棋ではないですね。居飛車側に押さえ込まれないようにする将棋のつくりです。
戸辺 トップ棋士のゴキゲン中飛車はそれぞれ味が違いますよね。渡辺竜王なら戦っているうちに自然と玉が堅くなっていくし、羽生先生は激しい戦いの中での独特の手渡しの呼吸が絶妙であったり、佐藤先生(康光九段)はより攻撃的になったりと、振り飛車党のボクから見ると、手の選び方や発想が新鮮に映ります。
──先日の王将リーグでは久保九段が王将挑戦を決めました。(取材日は挑戦決定の翌日)郷田王将との七番勝負はゴキゲン中飛車が見られそうですね。
久保 いま言えるのは、どこかに飛車を振るということだけでしょうか(笑)。自分が指すので気楽にというわけにはいきませんが、楽しみにしていてください。
超急戦はイヤです
──ゴキゲン中飛車に対して、指されたらイヤな戦法はありますか。
久保 これを指されるとありがたいとか、厳しいという形はないですね。例えば居飛車側に平凡に舟囲いに組まれたとしても、現代の眼で見たら指しやすいかもしれませんが、実際には大変です。基本的には後手番の戦法ですし、終盤まで互角ならいいという感覚で指しています。
戸辺 ボクは技術的というよりも精神的に超急戦はイヤです(笑)。「今日は超急戦はやってこなさそうなので、ガッチリ組もう」と思っているところに、対戦相手に指されてみると、すごい手があるのかと疑心暗鬼になりますね。でも久保先生はいつも受けてたっていますよね。
久保 盤の前でドキドキするのはイヤなので、指す前から超急戦に応じるか応じないかは決めています。

と、掲載はここまでです。王将戦の戦型予想を聞いたときに、「いま言えるのはどこかに振るということだけでしょうか(笑)」と久保九段。実にカッコいい言葉です。自分も将棋大会で聞かれたときに(聞かれるわけない?)ぜひ口に出して言ってみたいものです。この続きは将棋世界2月号をぜひお読みください。講座、次の一手、自戦記と充実の内容です。




将棋世界はまもなく3月号が発売されます。こちらも戦術特集は久保九段の得意戦法である石田流です。ご期待ください。