特集

21世紀型スキルを育むためのApple[ プログラミング教育編 ]

親にとっても最適な学びのツール

文●神谷加代

Appleは、プログラミングのみが21世紀型のスキルだとは捉えていない

新学習指導要領の中で文部科学省は小学校での「プログラミング必修化」を2020年から開始するとしている。唐突に思われるこの新しいカリキュラムは、実は20年にわたる日本の情報教育の取り組みの苦難が背景にある。

1998年、文部科学省は高校で情報科を導入し、また数学Bの数値計算でプログラミングをカリキュラムに盛り込んだ。また2008年には中学校で10時間ほどのプログラミングの授業が取り入れられている。しかし履修率の低さや時間の短さから、本格的なプログラミング教育とは程遠いものだった。

2020年に小学校で、2021年に中学校で導入されるプログラミング教育は、時間数、そして取り扱う年次も大幅に拡大されることになる。問題を発見し、自分で解決に導く能力を「プログラミング的思考」と位置づけ、これを養っていこうという取り組みだ。

 

私がよく聞かれるのは、「プログラミング教育について、日本は世界から遅れているのではないか」という点だ。その点でいえば、すでに20年かけて取り組んでいるため必ずしも遅れているとはいえない。ただ、習熟度の点からすれば、他の教科より遅れている。

中学生に上がった日本人が誰でも和朝食がつくれて、裁縫ができ、ミシンが使えて、掃除ができると聞くと、海外の人なら誰でも目を丸くして驚く。そうした日本の教育水準と照らし合わせて、料理の味噌汁を誰でもつくれるレベルで、プログラミングを習熟できているかといわれれば「遅れている」と答えるべきだ。

プログラミングの能力への要請は、コンピュータやロボット、インターネットが存在する現代において、衣食住と同じとの考えを基にしてつくられているものだ。これは世界共通の課題だ。しかし、各国でその目的やアプローチは異なる。

韓国では、2015年から中学で、2017年から初等教育でのプログラミングの授業が必修化された。半導体などハードウェア製造に強いイメージだが、中国やインドにその地位を奪われることを危惧し、「ソフトウェア」に注目した教育に舵を切った。インドは優秀なエンジニアを輩出する国としてシリコンバレーでも知られており、小学3年生からプログラミングによる図形描画を学び、中学ではVisual Basic、C++、Javaといった、実際に企業で用いられるプログラミング言語が授業に取り入れられている。英国は2014年をYear of Codeとして、5~16歳の義務教育に対して同年9月から導入するプログラミング教育の必修化と合わせた一大キャンペーンを打った。プログラミング教育に限らず、多岐にわたるコンピュータ教育を構築したが、結果としてプログラミングに偏りすぎ、また準備期間が短すぎたとの反省も伝わってくる。

 

Appleは、常に「教育は(Appleの)DNAの一部」と語るように、教育市場、そして学校でのカリキュラムとの呼応を重視するブランドだった。しかし、教育市場にとって重要なデバイスコストを抑え、クラウドを無料で提供するGoogleのChromebookに押され、米教育市場の販売シェアは2割にまで押し込まれた。

しかし、Appleの実のある教育市場へのアプローチにはその取り組みの勢いを緩めてはいない。ただ安いデバイスを導入するのではなく、なにをするかが重要だと訴え続けているのだ。その1つが、「Everyone Can Code」による、プログラミングのデバイス・ソフトウェア・カリキュラムの一体提供だ。同社のプラットホームでのアプリ開発に用いられる独自の開発言語「Swift」を発表した際、ソフトウェアエンジニアリングを指揮するシニアバイスプレジデント、クレイグ・フェデリギ氏にインタビューしたことがある。その際、Swiftの開発の過程で「学びやすさとプロが用いる高度な処理を、高い次元で融合させる」ことが意識された。つまり、プログラミング教育に用いられることを開発思想に含めたというのだ。

iPhoneアプリ開発にはMacでXcodeを用いる必要があるが、iPad向けにはSwiftを学ぶことができる無料のアプリとカリキュラム「Swift Playgrounds」をリリースした。最新版では、iOSの進化に合わせ、機械学習や拡張現実を用いたプログラムをiPadだけでつくれるようになった。

Swift Playgroundsの最大の特徴は、教育向けでありながら、教育用の言語やブロックでのプログラミングではなく、iPadのタッチを生かしながらも実際のSwiftのコードを組み上げる体験を提供することだ。もちろん、プログラミング教育の必修化で、全員がプログラマーになるわけではない。しかし、日常的にスマートフォンを手に取る子どもたちがもしコードに興味を持ったとき、Swift Playgroundsから学び始めれば、学び直しなしですぐにiPhoneアプリ開発につながっていく。AppleはEveryone Can Codeを通じて、教え方、学び方、そして最大の特徴である世界最大のアプリストアでの開発へとつながる発展性をアピールし、廉価版のiPadで教育市場に訴求しているのだ。

 

Appleは必ずしもプログラミングのみが21世紀型のスキルだとは捉えていない。2018年3月にシカゴで開催した教育イベントでは、プログラミングに続き、クリエイティブを学校の教育に取り入れる「Everyone Can Create」を発表した。米国の新学期にあたる秋以降、写真、スケッチ、ビデオ、音楽の制作を、一般教科の授業に取り入れる方法を提供する。

iPadには世の中の大半のPCより処理能力が高いプロセッサが備わり、単に安くクラウド前提のChromebookではできない学習体験を生んでいる。最新の廉価版iPadをペン対応させたのも、創造性を高め、レポート作成を通じたコミュニケーションを促進させるためだ。

ここで明確になったのは、AppleはiPadをコンピュータサイエンスとして学校に持ち込もうとしているのではないことだ。問題解決、創造性といった、現代の教育目標を叶える教授法として提供しようとしている。いわば、現代の筆記用具としての位置づけをねらっているのだ。パワフルなiPadとプログラミング、クリエイティブのアプリ、カリキュラムの一体提供は、特に教育関係者にも喜ばれる。米国の教員採用面接では、すでに「デジタル活用戦略」を当然のように問われるからだ。価格に押され気味だったAppleの教育市場戦略は、2018年秋以降、緻密に設計された児童生徒・教員の双方とのコミュニケーションによって、再び息を吹き返していくことになるだろう。

そうした学校向けのカリキュラムは、家庭でも参照することができる。iPadを手にした子どもがプログラミングや、動画作成といったクリエイティブにのめり込むことは、SNSとゲームに偏重しがちな子どものタブレット利用とはまったく異なる風景だ。学校の先生だけでなく、子どもの身近にいる親自身も、テクノロジーの可能性、身につけさせたい現代のスキルを見据えて、学びを深めていかなければならない。Appleのプラットホームは、親にとっても最適な学びのツールと、なり得るのだ。

 

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米国イリノイ州シカゴのLane Tech College Prep High Schoolで行われたApple Special Event  2018年3月

 

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松村太郎

1980年東京生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了後、フリーランスジャーナリストとして活動。モバイル学習システムを開発するキャスタリア株式会社取締役。プログラミング必修の通信制コードアカデミー高等学校のスーパーバイザーとして設立に携わる。tarosite.net



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