2018.09.10
授業づくりの先駆者となる「授業デザイナー」育成
ねらい・方針
●県全体で教育情報化を推進
●校種問わないICT環境整備
●ICT授業デザインの共有
iPad選択理由
●教師・生徒が容易に扱える
●純正アプリの汎用性の高さ
●デバイスとしての安定性
ICT化へのステップ 校種を問わず、ICT環境整備と授業デザインを共有化
大分県では、2019年度までの教育情報化アクションプラン「大分県教育情報化推進プラン2016」に基づき、県立学校だけでなく、小・中学校も含めた県全体の教育情報化を進めている。本プランは、「子どもたちの情報活用能力の向上」「教育の情報基盤の構築」「教育情報化に向けた環境整備」という3つの基本方針で推進されており、そのすべてに関わっているのが、大分県教育庁の指導主事である土井敏裕氏だ。
「単にICT環境の整備・活用していくのではなく、授業の改善も含めた形で環境整備と研修を一体化して教育情報化を進めています」と土井氏。県の取り組みとしては、県立高校の環境整備が中心となり、小・中学校は各自治体の枠組みで整備が進められることになるが、環境整備と研修の仕組みを別々に構築するのは効率的とはいえない。そのため、土井氏が中心となり「ICTスマートデザイナー育成事業」を2015年度より開始した。
本事業は、小・中・高校、特別支援の校種を問わずタブレットなどのICTデバイスを使った授業づくりの先駆者となる「授業デザイナー」を育成するためのもので、県や市町村から幅広く教員を募集。採用された教員にはiPadやApple TV、プロジェクタなどのICT機器が貸与され、教育のためのICT活用研究を自由に行うことができる。小・中・高校までの教員が混在するスマートデザイナーたちの実践した内容は、集合研修や公開授業によって共有されるため、県全体での効果的な“ICT研修”が実現可能だ。スマートデザイナーは2年間の任期で、現在は3期生・4期生を中心に活動中。任期終了後は、それぞれの学校や市町村におけるICT教育を牽引していく役割を担うという。
このように、国内では類を見ない先進的な教育情報化を推進している大分県。大分県教育情報化推進プランは来年度までとなるが、現在も次期学習指導要領を見据えた情報活用能力の育成、向上を目指して、タブレット端末の活用等を進めている。
小・中学校、特別支援学校では、教師が提示する課題や資料などのわかりやすさの向上に始まり、児童生徒が自在に使いこなすことを目標に推進。県立学校では順次ICT整備を行っており、最終的にはすべての学校にiPadが整備される予定で、教科や学年を問わず、さまざまな場面でツールとして活用し、授業改善を進めていくという。タブレット端末としてiPadが積極的に採用されている理由は、「子どもたちも教師も、活用のためのリテラシーに高いレベルを要求しないことや、純正アプリの汎用性の高さ、安定性」にあると土井氏。
学びのアウトプットとして動画を作成したり、スライドでプレゼンしたり、といった実践は、校種を問わず県内で数多く行われているという。
授業実践例(1)iPadの基本機能で創作意欲も喜びも増す
大分県中津市立豊田小学校の教諭 西元陽佑氏(ICTスマートデザイナー1期生)は、小学5年生の図工の授業における「デジタルキューブ」単元にiPad、Apple TV、プロジェクタ、大型テレビ(モニタ)、パソコン、カラープリンタを活用。子どもたちは「PhotoBooth」アプリを使って万華鏡カメラでデザインキューブ用の写真を撮影し、「デイジーピクチャーキッズ2」アプリの「さいころ印刷」で撮ったスクリーンショットを先生のiPadにAirDropで送信する。先生は全員の画像をカラー印刷して配布し、子どもたちは自分で撮影した写真で構成されたキューブを組み立てる。
ICTを活用することで、「つくり方を学ぶ→完成する→飾る&遊ぶ」といった授業の流れをスピーディに進行させることができ、短い時間で楽しいデザインの立方体をつくり上げる喜びが得られたという。iPadが1人1台用意できれば、よりスムーズに授業を進められると西元氏。さらに、授業前に子どもたちに写真を撮影できる期間を設けられると、子どもたちの喜びも増すはずと語った。
[A-1]教員による教材の提示
[B-5]表現・制作活動
授業実践例(2) 実験内容の撮影→班で分析・考察→プレゼン発表
大分県臼杵市立東中学校の教諭 夘野祐美子氏(ICTスマートデザイナー2期生)は、中学校1年生の理科の授業「物質の姿『液体の正体はなんだ?』」単元においてiPad、プロジェクタ、大型テレビ(モニタ)を活用した。生徒を複数の班に分けて液体を使った実験を行い、班単位で結果を分析・考察。実験の内容をiPadのカメラで撮影して「ロイロノート・スクール」アプリでプレゼン資料を作成し、全員の前でプレゼン発表を行った。これにより、班活動の意欲向上やプレゼン能力の育成、実験結果の共有といった効果が得られたという。実験の結果を撮影する必要があるため、班全員で実験に取り組み結果を共有することができたと夘野氏。プレゼンづくりや発表の仕方を覚えるまでにかなりの時間がかかったものの、生徒のプレゼン能力は大幅に向上したという。また、実験や理科が苦手な生徒でも、授業にiPadを取り入れるだけで興味を持つようになったことも大きなメリットといえる。
ICT授業を実践したうえで明らかになったのは「生徒によってiPadの操作能力に差が出る」という課題だが、教育情報化を進めることで解消することができるはずだ。
[C-1]発表や話し合い
[C-2]協働での意見整理・まとめ
授業実践例(3)ICTをあくまで“授業を効率化するためのツール”
大分県立大分豊府高等学校の教諭 横大路武治氏(ICTスマートデザイナー1期生)は、1年生の数学「図形と計量」単元においてiPad、プロジェクタ、大型テレビ(モニタ)、Apple TV、パソコンを活用した授業を行っている。県立高校ではICT環境の整備が進められており、一斉授業における画像や動画、音声等の教材・資料の拡大表示をはじめ、生徒による情報検索、学びのまとめ、共同のツールとして個別・協働学習においても多様な活用方法を模索して授業に活用しているという。横大路氏は「Keynote」を利用した効率的な授業を実践。電子黒板を使ってわかりやすい解説を展開するほか、「iTunes U」を効果的に活用して生徒に資料を提示、さらに、高機能な数学アプリ「GeoGebra」や立体図形アプリ「Shapes」を授業に組み込むなど、ICT機器や学習アプリを有効に活用している。
また、4人1組のグループをつくり、グループに1台iPadを配布。すでに学習した内容の確認や、立体のイメージ把握などにiPadを活用させて、生徒の理解を早めることに成功しているという。さらに、iPadを中心にしてグループ内でクロストーク活動を行うことで、自分以外の多様な考えを理解。論拠に基づき自分で判断し、考えを数学的に表現できる能力を育めると横大路氏はねらいを語る。もちろん、授業のすべてをICTで行うわけではなく、基本となるのは、事前に配布された授業プリント。これを各生徒が予習してきたうえで、4人のグループで答え合わせと疑問の共有を行うという構成となる。iPadは生徒がスムーズに理解するためのサポートとして使われ、それにより時間が確保できた場合はプリントのチャレンジ問題を解くといった相乗効果が期待できるという。生徒がiPadでアプリを使うことで「自分で考える」ようになり、授業に対して意欲的になったと横大路先生。今後は数学科として「情報活用能力の育成」に寄与するような授業づくりを目指していくという。
ICTをあくまで“授業を効率化するためのツール”として活用し、ICTに偏った授業デザインにしていない点は、多くの先生にとって参考となるはずだ。
[A-1]教員による教材の提示
[B-4]思考を深めるための学習
[C-2]協働での意見整理・まとめ
大分県 ICTスマートデザイナー育成事業におけるICT環境整備状況
【備考】ICTスマートデザイナー育成事業については、人材育成、研究のための機器貸与としており、各市町村や県立学校のICT環境整備についてはそれぞれに行っている。