仙台城南高等学校|MacFan

特集

仙台城南高等学校

文●神谷加代

従来の学びを変えたiPad、生徒の学びに向かう力が伸ばす

 

ねらい・方針

●主体的な学びの実現
●知識を探し出す学びへ
●情報モラルの育成

 

iPad選択理由

●7年前からアプリが多数
●故障や振動に強い
●投影手段がもっとも容易

 

 

ICT化へのステップ(1) 探究学習を実施するためにiPad1人1台を導入

仙台城南高等学校(宮城県仙台市太白区)は、「大学と接続した新しい学びの創造」を教育理念に掲げる男女共学の私立高校。変化の激しい時代にあっても、果敢にチャレンジできる自立型人材の育成をめざして、21世紀型教育を取り入れた特色ある教育課程を持っている。

具体的には「探究科」と呼ばれるゼミ形式の探究学習を行う普通科や、専門性の高い先端分野を学ぶ「科学技術科」、少人数編成でハイレベルな学習に取り組む「特進科」など、個性的な3つの学科を設置し、時代が求める人材育成を実践している。

そんな同校がICT導入を検討し始めたのは2010年頃、前身の工業高校から仙台城南高校へ新しく学校が変わるタイミングだった。当時、同校の立ち上げメンバーだった物理科教諭 千葉俊哉氏はこう振り返る。

「新しい学校では受け身な一斉授業ではなく、自分で調べた内容を発信したり、協働学習を行ったり、大学とも連携して好奇心を深掘りするような探究学習を実施したいと考え、『探究科』と名づけた普通科を設置しました。しかし、このような学びを実現するためには、情報収集や調査、編集、レポートの作成、プレゼンテーションなどの活動が必要ですが、本校にはPC教室が1つしかなかったので、iPadを1人1台で導入しました」

こうした背景から、仙台城南高校は2012年に「探究科」の新高校1年生170名に対してWi-FiモデルのiPad miniを導入し、1人1台体制を本格実施した。その前年には準備段階として、同科の新1年生が使うフロアや教室にWi-Fi環境、電子黒板、Apple TVなども整備した。

iPadを選んだ理由について、千葉氏は「7年前の導入期を振り返ると、そもそも教育向けアプリの数、耐久性、プロジェクタ投影のしやすさなど、選択は自ずとiPadになりました」と話す。iPad miniの選択理由についても、机の上に収まりやすい、フィールドワークで外への持ち出しを考慮した点を挙げた。

iPad導入最初の2年間は、探究科の生徒が探究学習で活用するのがメインであったというが、次第に教科のほうにも活用が広がり始め、他の教員も授業で使い始めたという。そこで、3年目からは「科学技術科」「特進科」にも1人1台環境を広げ、全校でICT教育を本格的に進めていく方針へ舵を切った。

現在、仙台城南高校では全校生徒1200台、教職員100台、合わせて1300台もの端末が稼働している。ちなみに、2018年度からはiPad miniではなくiPadに切り替えたと話す千葉氏。

「iPad miniをずっと使っていましたが、タイピングが課題になってきました。探究活動でレポートを作成したり、国語科の教師からキーボードが欲しいというリクエストもあり、iPadに切り替えました。今年の生徒は7~8割がキーボードを選択しています」(千葉氏)

 

 

ICT化へのステップ(2) WEBへのアクセスは自由。iPadは文具の意識

仙台城南高等学校の「探究科」で実施されている探究学習とは、どのようなものだろうか。

まず、1年生はICTスキルを身につけながらグループ活動で社会問題に向き合う。テーマについて調べたり、仲間とディスカッションしながら探究の基礎を身につけていく。2年生からはフィールドワークをしながら地域社会の課題を発見し、どのように解決できるのかを探る。そして3年生はそれらの内容を論文にまとめる。同科ではこのような活動を大学と連携しながら行い、テーマ設定や研究方法・課題解決について専門家のアドバイスを得ながら進めていく。ほかにも、年2回の発表会やポスターセッションを設け、生徒たちがアプトプットしながら自ら気づきを得る学びの場も築いている。

「探究学習ではiPadを活用して情報の共有や編集、発信を行う場面が多いですが、導入当時はAirDropがなかったですし、クラウドストレージも今ほど充実していませんでした。そのため複数の利用者がファイルを共有できるWebDAVサーバーを校内に設けました。以来、そのやり方が校内で定着したので、今はWebDAVとAirDropでファイルのやりとりを行っています」(千葉氏)

また、探究学習ではネットを使った情報収集も多いが、これについても厳しい規制を設けるのではなく、生徒の自由なアクセスを認めたと千葉氏は打ち明けた。

「高校生なので、できるだけ自由に使わせたいと考えました。MDMを導入して、アプリのインストールに関しては制限を設けていますが、WEBへのアクセスは自由です。iPadは文具であるという意識を持たせているので、今まで大きなトラブルはありませんでした」(千葉氏)

iPadを活用した探究学習を通して、生徒たちはどのように変わったのだろうか。これについて千葉氏は「大学の志望動機が明確になってきました。将来の夢や自分がめざすものについて、相手に伝えることができる生徒が増えてきたなと感じます」と述べる。進路指導においても、iPadがあることで生徒と一緒に調べられるのもよいと話す。また、同校教頭の佐々木啓充氏はICT化を進めてきた成果についてこう話す。

「学びに向かう力が伸びたと感じています。進路意識が高まったことで国公立をめざす生徒や、AO入試で受かる生徒が増えてきました。自分の言葉で訴える力が評価されているのではと考えています。今までになかった新しい力を伸ばせていると思いますね」

 

仙台城南高等学校 教頭 佐々木啓充氏(左)とICT担当の物理科教諭 千葉俊哉氏。同校では「みやぎのICT教育研究専門部会」など、ICTの取り組みを広げるべく、学校外でも研修・発信を行っている。

 

仙台城南高校は、情報共有のために校内でWebDAVサーバを運用している(クライアントのiOSアプリは「Documents」)。プレゼンテーション資料や、演習・解答プリント、解説動画などを共有している。

 

「探求科」が年に2回実施するポスターセッションの様子。テーマ設定や研究の方向性、課題解決手段など大学の専門家にアドバイスをもらいながら進めている。

 

 

授業実践例(1) 授業や家庭で、動画で学べる個別学習を実現

物理は苦手意識を持っている生徒が多く、家庭での自主学習も進まない。そんな課題に対してiPadで授業の振り返りや問題演習のつまずきをフォローし、学習意欲を高めることができないか? そう考えたのが前出の千葉氏だ。中でも千葉氏は「自学で問題演習を行うときに、問題文が何を問うているのかわからず、その後の作業ができなくなること」、また「分数・小数の計算でつまずくため、立式ができても答えを導くことができないこと」に対してICTでフォローができないかを考えた。

最初に、千葉氏は授業で学習した内容を単元ごとに5分程度の動画にまとめ、校内ネットワーク上に保管し、次の授業前までに視聴して復習するように促した。前時で学んだ知識の定着を高めるとともに、本時の授業の理解度が低下しないことがねらいだ。

また、授業や宿題で取り組む問題に対して、1問ずつ5分程度の解説動画を作成し、生徒が授業中や家庭学習でいつでも見られるようにした。動画であれば、生徒たちが苦手な計算についても理解できるまで何度も計算過程を見返すことができる。

「ただし、問題演習用の動画では答えを提示するところまで説明せず、解答に導くヒントや作業方法にとどめておくことがポイントです」(千葉氏)

ほかにも、授業中に問題演習に取り組むときも、教師が一斉に解説するのではなく、わからない問題の動画を視聴するなど、生徒が自分のペースで学習できる環境を提供している。

授業の振り返り動画や問題演習用の動画を使う学習では、生徒はどのような変化があったのだろうか? これについて千葉氏は「動画の活用は定着していて、今では定期テスト対策によく使われています。教師に投げかける質問の質も以前より向上しました」と手応えを語る。

また、授業に参加できなかった生徒が遅れを取り戻すために活用する様子も見られ、主体性が芽生えてきたというのだ。右下の図にもあるように、学習動画の活用には7割の生徒が「わかりやすいので続けてほしい」と答えており、好意的だといえる。また、動画を視聴してから授業に挑む生徒も7割を超えるようになったそうだ。

今後は、自分の力でできる生徒に対して、さらに授業では扱わない応用問題を揃えていくことだと千葉氏は話す。一方で、成績下位層の生徒に対しては、動画の視聴を習慣化させることが課題であり、復習課題などを始めていきたいという。

 

授業振り返り動画。生徒が板書したノートなどを活用しながら、動画作成アプリ「Explain Everything」で作成。問題演習解説動画も同アプリで作成。

[B-1]個に応じた習熟度学習・繰り返し学習
[B-6]一人ひとりの能力や個性に応じた特別支援

 

一斉授業の中で問題演習を行うときは、生徒がそれぞれ解説動画を見て理解を深める。授業中も私語が減り、集中して学習に取り組む生徒が増えたという。

[B-1]個に応じた習熟度学習・繰り返し学習

 

学習動画の活用による生徒の変化。学習動画を活用した場合は、わからない部分を何度も見るなど、生徒が自分のペースで学ぶ個別学習の環境を提供できるのがメリットだ。生徒の満足度も高い。

 

 

授業実践例(2) 協働学習のメリット“友達同士なら聞きやすい”

仙台城南高校では協働学習の場面でもiPadが大いに活用されている。たとえば地理の授業では、グループで興味のある国を選び、生活や文化について調べて発表したり、英語では修学旅行で訪れる関西方面について、行きたい場所や移動方法を調べてプランニングし、それを英語でプレゼンテーションした。このような協働学習は、生徒たちの興味あるところから出発しており、仲間と協力しながら進められるためモチベーションも高いという。また人前で話をするのが苦手な生徒も、グループであればリラックスした状態で取り組めるのがメリットだ。

科学技術科では1年生を対象に、iPadを活用したプログラミングの協働学習が行われた。同授業を担当した教諭 鈴木聡氏は、高校に入って始めて取り組むプログラミングは、得意不得意が出やすいことから、協働学習であれば仲間と課題解決をしながら主体的に学ぶ環境ができるのではないかと考えたようだ。

とはいえ、最初からいきなり協働学習に入るのではなく、まずは一斉授業のスタイルで、「Keynote」のスライドを使いながら基礎知識を説明するところから始めた。プログラムの説明は細かい文字が続くが、ICTを活用することで重要事項を拡大表示し、スクリーンに書き込みながらわかりやすく進められる。

その後はペア学習に取り組んだ。プログラミングは生徒間の積極性や習熟度に大きな差が出るため、理解不十分で終わらないよう、生徒同士で教え合ったり、2人1組で演習問題に取り組む場面をつくるという。ペア学習では、宿題で作成したプログラムに関して、不明点やわからないことを教え合った。生徒たちは自宅の家庭学習や休み時間を利用して、オンラインで学べる無料のプログラミング講座を視聴し宿題を行うというのだ。

ペア学習が終わると、今度は個の関わりを充実させるために知識構成型ジグソー学習で協働学習を実施した。具体的には、授業のテーマについて複数の異なる視点で書かれた資料をグループごとに読み込み、自分が理解できたら、他のグループで説明するというもの。異なる視点をもつ生徒と、知識を交換しながら話し合うことでテーマに対する理解が深められる。

生徒たちは協働学習についてどのように感じているのだろうか? アンケート結果でもっとも多かった意見は「友達同士の方がわからない点を聞きやすい」で全体の80%を占めた。続いては「話し合ううちに内容に対する興味を深められる」という意見が多く、48%だった。リラックスした雰囲気で学べる環境は、生徒の知的好奇心を刺激し、学習意欲を高めるといることがわかる。

 

協働学習で調べ学習に取り組む場面。WebDAVサーバに資料やデータを置くことで、自宅でも取り組む生徒が多い。また欠席した生徒もグループの進捗状況がわかるのがICTのメリット。

[C-1]発表や話し合い [C-5]クラス・学校・地域を越えた学習

 

プログラミング学習は、生徒が既習事項の振り返りができるようにWEB上に問題を用意している。問題はランダムに表示されるように設定し、飽きずに自学自習を促す工夫を行っている。

[B-1]個に応じた習熟度学習・繰り返し学習

 

ジグソー法で知識を深めたあとは、授業のテーマに対するまとめをグループで発表し合う。協働学習は生徒の主体性や多様性を伸ばすことができるが、その一方で時数の確保や授業準備の課題もある。

[C-2]協働での意見整理・まとめ
[C-3]協働による表現・制作

 

 

授業実践例(3)体を動かして理解を深める映像制作

同校の科学技術科では、国語の授業で『羅生門』を題材にした映像制作に取り組んだ。羅生門は時代背景や難しい言葉を理解するのが難しく、つまずきやすい要素が多い。また、文章量も多く、教える内容も膨大であることから教師が一方的に教える講義型の授業になりがちだ。そこで、同授業を担当した国語科の教諭 齋藤久人氏は、各グループで物語の場面を読み取って動画で表現する映像制作に挑戦した。科学技術科の生徒は実習などの授業が多く、体を動かしながら学ぶことは意欲的だというのだ。

まず、事前指導で映像の撮影ポイントを共有した。「文中に描かれた下人の行動をきちんと描くこと」「文中に書かれた下人の心理を体の一部で表現すること」「ナレーションやサブタイトルをいれてメッセージが伝わるように工夫する」などがそうで、生徒たちは、どのような映像に仕上げなければいけないのかを理解した。また動画編集アプリ「iMovie」の使い方について説明したり、グループで役割分担を行った。

続いて、各グループに分かれて撮影に取り組んだ。はじめは手探りだった生徒たちだが、次第に演技や撮影にこだわりが生まれ、意欲的な姿に変わっていく。特に、普段はおとなしい生徒が映像に詳しかったり他の班の撮影をリードしたりする場面もあったという。その後、出来上がった作品を上映し、互いに評価をし合った。また映像作品は生徒がいつでも見られるよう「Evernote」で共有した。

そして、この授業の本番はここから。生徒が作成した映像を上映し全員で見たあと、もう一度教科書の本文を読み、グループで段落の解釈について考えた。全グループが異なる場面を撮影しているため、各段落の解釈を考えるときは、その場面の撮影を担当したグループがリードして討論を進めた。最後は各グループで解釈をまとめて発表し、この活動が終わった。

授業の事後アンケートによると、多くの生徒が興味を持って取り組み、羅生門の読解が深まったと答えた。また、映像制作によって場面理解や主人公の心情理解が深められたと感じている生徒が多いこともわかった。自由記述には「演じて初めて気づいたことがあった」「小説の背景をもっと知りたい」など、読解の深まりを感じさせるコメントあったという。

協働学習はさまざまな形があるが、映像制作はデジタルデバイスに慣れた今の生徒たちが得意とするところであり、モチベーションも高まるだろう。また仲間と取り組むことで“学校でしかできない学び”として価値があり、生徒たちの記憶にも残る授業であっただろう。

 

各グループに分かれて撮影する様子。映像制作では羅生門を7つのパートに分け、グループに割り振って撮影した。監督・撮影・編集・キャスト・音響など役割分担して取り組んだ。

[C-1] 発表や話し合い
[C-3]協働による表現・制作

 

映像制作の事後アンケート。「羅生門の理解は深まったか」「映像制作はどう思うか」の質問に対して、ほとんどの生徒が好意的な意見をよせた。

 

羅生門の理解が深まったと答えた生徒に対して、どのような点が深まったのかを質問したもの。生徒は文章理解や主人公の心情理解について深まったと実感を得ているのがわかる。

 

 

仙台城南高等学校のICT環境整備状況