学びの効果を高める3つの視点|MacFan

特集

21世紀型スキルを育むためのApple[ 英語教育編 ]

学びの効果を高める3つの視点

文●神谷加代

「英語ができるようになりたい、問題集を解いてみたけど難しい」

最近知り合った女子高校生のFacebook友達の投稿だ。彼女は現在、地方の私立に通っている。中学時代勉強が大嫌いで、成績はいつも悪かった。でも、教育実習の先生に褒められてから火がつき、それからは問題集を解く毎日が続いている。「英語を聞いて話せるようになりたい」と思っていて、聞くのは苦にならないが、問題集を解くのは難しいと感じている。私はちょっと気になったので口を挟んでみた。アドバイスはこうだった。

Duolingoで楽しく基礎から学び直しながら、Googleの音声読み上げ機能で例文を飽きるほど聞き、iTunesで洋楽を聴き、Smuleで好きな歌を地球上のどこかの人と歌いまくる。誰かが自分で歌った映像を上げているので、そこに参加して自分も歌い、アップロードするだけ。

結果、彼女の学習は大きく変わったという。iPadによって語学学習のハードルはぐんと下がり、自分のペースで学ぶことができる。加えて、語学学習アプリのDuolingoなどSNS機能のある教材もあり、世界中に学びの仲間を持つことができる。そしてもちろん、すべて無料である。

ここまでですでに、従来の学校での学びとiPadを使った学びの違いがいくつか挙げられるだろう。Appleテクノロジーを活用すれば子どもたちの学びの可能性は一気に広がる。本稿ではその効果を最大化するために重要な3つのポイントを挙げたいと思う。

 

(1)iPadを活用する際の「視点」

iPadを活用する際に今一度考えてみたいのは、「どの視点で物事を見ているのか」だ。ここではそれを3つの段階に分けて話す。iPadを使ううえで、それぞれの視点がどのように人の脳を補完しているのか、考えてみよう。

●「アリの目」See

アリの目とは、情報を細かく収集する機能のことだ。テクノロジーの発展によって膨大な記憶が必要だった時代は終わった。生徒は授業中にちょっと気になれば単語調べができる。画像検索を使えば、似たような単語の違いも一目瞭然だ。あらゆる物事について検索し、そのデータを膨大に保存しておくことのできるiPadやスマートフォンは、私たちの「アリの目」としての機能を補完してくれている。

●「人の目」Think

iPadには人の思考を補助してくれる機能もある。収集した情報を分析したり、比較したり、図解化したり、描画や作図をすることも簡単。Simplemind+などのマインドマップアプリは、こうした際に活用できる。手書きと違い、修正も容易だ。自分のイメージを客観視することのできるiPadの機能は、「人の目」として私たちの思考の一端を担うだけでなく、その内容を大いに広げてくれる。

●「鳥の目」Wonder

忘れてはならないのが、自分の目で見えていないことを視点を変えて想像・創造する、「鳥の目」の機能だ。上に挙げた2つの視点で情報を集め、分析すると、それまでは気がつかなかった自分のアイデアや、思いつかなかった発想に至ることができる。自分の「想像」を実際に「創造」し発信する機能、たとえばiMovieや、Youtubeなどのツールは、自分独自の考え方を追求し、表現していくうえで欠かせない、iPadの利点である。

このように、iPadがいかにして私たちの脳の機能を補完し、拡張してくれるかを3つの視点で捉えてみると、それぞれの教育的な利用価値がより明確に見えてくる。アプリや使い方ではなく、どんな目的でiPadを使うのかという視点で考えると、学びの可能性はぐんと広がるだろう。

 

(2)iPadを、「誰のために使うのか」

2つ目のポイントは「誰のために」iPadを使うのか。生徒の学びは生徒個人で完結するのか、校内での協働学習で使うのか、もしくはMan for Others, つまり社会や世界に貢献するために使うのか。iPadで学習動画を見たり単語を調べたり、マインドマップを書いたり問題を解いたりと1人で完結する学びに使うこともできる。一方で、子どもたちが面白くなってくるのは、自分のGarageBand(オリジナル音源)やiMovie(動画)、Keynote(スライド)でのプレゼンテーションが他に影響したり、協働で作ることで新たな知見を得たときである。

学習の最終的なゴールは「外の世界に向けてアウトプットすること」だ。たとえば、生徒はオンライン上でNewYork Timesの記事を読み、グループディスカッションをする。画面上で資料を共有しながら議論を繰り返し、論理の再構築をする。その結果を最後、ブログサイトのMediumで発信する。それをFacebookで発信すると多くのコメントがついた。あるいは、オンラインで大学の講義が受けられるサービスCourseraで動画を視聴し、その内容を資料にまとめる。それから、その内容について第三者が学べるような動画をiMovieで制作し、YouTubeにアップロードする。個人で進める生徒もいれば、ペアやグループで協働して進める生徒もいた。

このように、「誰かのため」にテクノロジーを利用するという視点を持つことで、iPadの活用はオープンになり、広がっていく。アップロードした動画や発信したブログは、実際に世界に影響を与えていく。このような学び方は、これまでの学校では考えられなかったことである。そこで身につくのは従来のように正解を暗記する力ではない。自ら答えを創り出し、学びをアップデートし、それを外に向かって発信していくことのできる力である。

 

(3)iPadを通じて「よりフラットな関係性を築く」

3つ目のポイントは、SNSを通じて生徒の自律学習や批判的思考、協調的問題解決力の育成を図ることができるということだ。私が主に利用しているのはEdmodoである。

SNSを活用するうえで目的にしたのは、生徒が自律的な学習者になることだった。そのため、自由に意見を述べられるグランドルールを徹底するだけでなく、意見を述べるフォーマットを多様に用意し、生徒が自己表現できる機会を増やすようにした。また、自主性を尊重するため、課題提出も強制しなかった。インターネットを介することで人間の関係はフラットになる。管理・指導する立場で使うのではなく、わたし自身が学びの専門家としてともに学ぶ存在になった。彼らはデジタルネイティブであり、面白いアプリもよく知っている。また、ビデオ通話でつなぎ、遠隔で毎日友達と3時間勉強しているという話も聞いた。SNS上でしっかりとした意見を持ち、厳しい批判のできる生徒の中でリーダーシップを発揮するようになった。学年末のアンケートでは実に82.3%の生徒が「Edmodoなどのネットワークを用いた学習上において、お互いに信頼感を保ったまま、クラスメートに反対の意思を十分に示すことができた」に対してそう思う、強くそう思うと述べている。

 

ここまで、iPadを活用して学びの効果を高める3つのポイントを述べてきた。どの視点で物事を見ているのか、誰のためなのか、 どのような関係性を築きたいのかを意識することで、豊かな学びの可能性は広がっていく。Man for Others,  世界に貢献するAppleテクノロジーの使い方をこれからも考えていきたい。

 

従来の学びとiPadを使った学びの違い

強制でしんどい vs 自由で楽しい
一斉 vs 個別
2技能 vs 4技能
暗記と理解 vs クリエィティブな学び
苦手を克服 vs 得意から伸ばす
どうやって学ぶか vs なぜ学ぶか
1人で学ぶ vs 誰とでも学べる

 

iPadで利用できるオススメツール

●『Duolingo』・・・楽しくてやみつきになる無料語学レッスンアプリ。1日数分のレッスンで語学学習が進められる。
●『Smule』・・・モバイルで楽しむカラオケアプリ。世界中の人たちと一緒にカラオケができるモードもある。
●『Medium』・・・シンプルなUIで、誰でも簡単に記事が書けて発信ができるWEBサービス。アプリからも投稿が行える。
●『Simplemind+』・・・自分だけのマインドマップを構築して頭の中を整理したり、より洗練したアイデアを生み出すことができるアプリ。
●『iMovie』・・・無料のApple純正の動画編集アプリ。
●『GarageBand』・・・無料のApple純正音楽制作アプリで、さまざまな音源を組み合わせてDTMを実現するシーケンスソフトの一種。
●『Keynote』・・・無料のApple純正のプレゼンテーション作成アプリ。
●『Coursera』・・・世界最高峰の大学の講義を無料で誰でもオンライン上で受けられるWEBサービス。英語講義には字幕もあり。
●『Edmodo』・・・先生と生徒をつなぐ世界最大の学校向けSNS。

 

江藤由布

“I am a mother first.” がモットー。二児の母、香里ヌヴェール学院 学院長補佐、一般社団法人オーガニックラーニング代表理事。ICT x 英語教育だけでなく、動機付けや自分らしく生きることをテーマに全国で数多くの講演、ワークショップ、オンラインセミナーを行う。Edupreneur(教育事業家)として独自の道を進む。2015年のADE認定。