教育・医療・Biz iOS導入事例

iOSの新機能「Business Chat」で企業と顧客の関係が変わる

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

3月29日に公開されたiOS 11.3ではBusiness Chatという新機能が盛り込まれている。iMessageを利用して、企業と顧客のチャットを実現する機能だ。テキストという一見地味な機能だが、企業と顧客の関係を一変させるポテンシャルを秘めている。

 

企業と顧客をチャットでつなぐ

iOS 11.3から搭載された新機能「ビジネスチャット(Business Chat)」は、「アイメッセージ(iMessage)」を使って企業と顧客がチャットを行えるものだ。アイメッセージはアップルが提供しているインスタントメッセージサービスで、テキストや絵文字、写真の添付、手書きメモなどをiPhoneやMacといったアップル製品間で無料で送受信できる。このビジネスチャットの活用として考えられるのは、まず企業の顧客サポートだ。現在、電話やコールセンターという形で実現されているサービスである。

顧客サポートは、うまく機能すれば顧客のロイヤリティを高められるだけでなく、新たなセールスへの起点にもなる重要なタッチポイントといえる。しかし、企業のオペレーターが電話を利用するという方式ではコストがかかりすぎ、多くの業種で「アフターサービス」という感覚の“おまけのサービス”にとどまっている。これを一気に効率化して、本来のタッチポイントとして利用できるようにするのがビジネスチャットの狙いである。

 

 

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Business Chatを開始すると、図のように企業のオペレーターとチャットで会話ができるようになる。使い方はiMessageそのもので、自動的にiMessageのメンバーに登録される。

 

 

選択から支払いまでのすべてを

ビジネスチャットでは、「メッセージ」アプリ内でアイメッセージによる会話を行えるだけではなく、面会のスケジュールを入れたり、アップルペイ(Apple Pay)を使って支払いをすることもできる。活用方法として考えられるのは、たとえば顧客が有償修理を依頼してきた場合、修理メニューを選んでもらい、訪問日時を選んでもらい、アップルペイで支払ってもらう。このようにサポートに必要な手順のすべてが「メッセージ」アプリ内で完結できれば顧客にとっても実に利便性は高い。さらに、自社アプリの一部の機能をチャットの中から実行させることも可能とされている。

実際にまだ日本ではスタートしていないため、具体的にどのような方法でビジネスチャットを始められるかは定かではないが、企業はSiriの検索結果や「マップ」アプリなどに専用のビジネスチャットのボタンをつけることができるようだ。また、、URLリンクやQRコードなどから「メッセージ」アプリへ誘導することも可能だ。顧客側から見れば、このようにビジネスチャットを開始すると自動的にチャットメンバーとして登録され、会話の内容は削除しない限り残るので、あとで読み返すこともできる。また、時間が経ってから、続きの会話を送信することも可能だ。

 

 

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iPhoneやiPadのマップやSafari、またはSiriによる検索で特定の企業を探している際、「Message」アイコンをタップすればメッセージを送信できる。

 

 

サポートの効率を劇的に改善

これまで電話で行われていたサポートサービスが、チャットに切り替わるインパクトは大きい。同期型コミュニケーションから非同期型コミュニケーションになるからだ。電話サポートでは、オペレーターと顧客は、1対1で時間を共有せざるを得ない。オペレーターが何かを確認する間、顧客は電話口でただ待っているしかない。他の仕事をすることはできず、悪いユーザ体験になりがちだ。これがビジネスチャットになるだけで大きく変わる。多少待たされたとしても、顧客はほかのことをしていればいい。しばらく放置しておいてから返事をしてもかまわない。ベースがアイメッセージなので、Macでサポートを受け始め、外出する時間になったらiPhoneで続きの会話をするということもできる。つまり、電話サポートは15分なり20分の自分の時間を割く必要があるが、ビジネスチャットのサポートは、小さな隙間時間に潜り込ませることができるのだ。このような非同期サポートであれば、オペレーターも同時に複数人の顧客に対応することができる。

もう1つの利点が、顧客の身元確認が不要になるということだ。企業側は、アップルID、携帯電話の番号などの個人識別情報を取得できるので、これをキーにして顧客データベースを構築しておけばいい。電話サポートの場合は、顧客が携帯電話、自宅の電話、職場の電話など、どの番号からかけてくるかはわからないので、必ず最初に顧客番号や商品番号などを確認して、顧客が誰であるのかを把握するところから始めなければならない。これは顧客にとって煩わしい手順であるばかりでなく、オペレーターにとっても、手順を間違えれば顧客の個人情報を他人に教えかねない神経を使う手順だ。

電話サポートは、音声しかサポートしていないという点も問題だ。製品の電源スイッチの場所を伝えるだけでも、言葉だけでは限界がある。写真や図で示したほうが圧倒的に早い。顧客も状況を伝えるのに、言葉で説明するのではなく、写真を送ったほうが楽だ。マップの位置やURLリンク    なども送れるので、スムースなサポートが可能になる。

 

 

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Business Chatを活用すれば、メッセージアプリから離れることなく、顧客にApple Payでの支払いをさせることができる。

 

 

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企業との面会時間や商品サポートの時間など、Business Chatで予約することが可能。iOSのカレンダーとも連携する。

 

 

他社も参入するホットな市場に

アップルは、すでに世界で数億台が使われているiOSデバイスを起点に、このビジネスチャットを企業向けに展開していくことになる。しかし、ライバルたちも続々と同様のサービスを始めている。すでに「WhatsApp Business」、「グーグル・マイビジネス」などがあり、ツイッターも法人向けの機能を整え始めている。また、フェイスブックがこの分野に参入してくるという憶測もある。

なぜ、各社がこの分野に注目をするのか。それは、顧客サポートの効率を劇的に改善する方法が見えてきているからだ。顧客サポートに寄せられる質問の90%以上は、自分で取扱説明書を読めば解決する内容だと言われる。電話サポートでは、そのような質問であっても、オペレーターが調べて、内容を口頭で説明しなければならない。しかし、ビジネスチャットであれば、該当するWEBのFAQページなどのURLを送信するだけでいい。これだけでもサポート業務は大きく効率化される。

ビジネスチャットは、現在、人間のオペレーターが対応することが前提のサービスになっている。アップルは現時点でビジネスチャットの未来について何も語っていないものの、人工知能によるチャットボットを組み合わせることも当然考えているだろう。チャットはまず人工知能が受け、単純な内容であれば人工知能チャットボットが回答し、人工知能では回答できない内容のものだけを人間のオペレーターが対応をする。ここまでいけば、電話サポートに比べてサポート業務の効率は数千倍も向上することになる。そのため、サポート業務の負担を軽減したい小売企業、IT企業だけでなく、人工知能関連企業、チャットボット開発スタートアップなどが、この分野に熱い視線を注いでいる。

 

 

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Discover、Hilton、Lowe’s、Wells Fargo、T-Mobileといった企業がBusiness Chatのパートナーとしてすでに対応を表明している。

 

 

私たちの生活が近未来化

このビジネスチャットは、企業のサポート業務だけでなく、将来は私たちの生活をも変えてしまうかもしれない。チャットは簡単に音声に連携させることができ、Siriやホームポッド(HomePod)が、人工知能とのインターフェイスになれるからだ。

ビジネスチャットは、アフターサポートだけでなく、購買を考えている顧客へのコンシェルジュサービスとしても使える。そして、これを自宅や自動車の中で、Siriやホームポッドを使って音声で行えるようになる。

たとえば、キッチンで料理を作りながら、音声で家電製品の購入アドバイスを受け、そのままアップルペイで支払いをして購入するということができる。車を運転しながら「お寿司が食べたい」と言えば、レストランガイドサービスがあなたの嗜好や現在地、収入ランクなどを参考に、近くの寿司屋を提示し、テーブル予約やルート案内までしてくれることになるかもしれない。

ビジネスチャットは、一見、アイメッセージを利用した法人向けの地味なサービスに見えるかもしれない。しかし、難題だった「企業と顧客のエンゲージメントの確立」をする強力なツールとなり、さらには私たちの生活を一気に近未来のものに変えてしまう可能性を秘めている。

 

 

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Business Chatは米国およびカナダでベータ版として提供開始されており、その詳細に関してはAppleのデベロッパーサイトならびにWWDC2017で公開されたセッションビデオが詳しい。【URL】https://developer.apple.com/videos/play/wwdc2017/240/



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