Meetupが作り出すリアルな仲間と空間|MacFan

アラカルト FOREIGN SOCIAL AFFAIRS

海外Techトレンドを通じて考える日本の未来

Meetupが作り出すリアルな仲間と空間

文●市川裕康

海外のTechトレンドの中で「きっと数年後、日本でも大事な事柄になってくるのではないか」と思われるトピックを厳選してお届け。今回のテーマは「Meetup」。

皆さんは、“ミートアップ”をご存知でしょうか。本誌読者であれば、テック系のイベントとしての“ミートアップ”に参加したことがあるという方も多いかもしれないですね。インターネット経由で共通の興味を持つ人同士が知り合い、実際にオフラインで集まる「オフ会」的な意味合いで聞いたことがある人もいると思います。

ただ、こうしたアイデアについて10年以上にわたって取り組み、世界中で成長を続けているWEB&モバイルサービスの「ミートアップ(Meetup)」については、日本ではまだ、あまり馴染みがないかもしれません。

「ミートアップ」は、2002年にニューヨークで生まれたオンラインプラットフォームで、トピックや地域をきっかけとした仲間と、対面で出会う機会を提供するサービスです。登録されているトピックはテック系のテーマだけでなく、外国語学習、国際交流、フィットネス、子育て、ビジネス、写真、闘病、ゲームなど、ありとあらゆるテーマに関するものがあり、世界180カ国で約2300万人のメンバーが利用していて、21万以上のグループが存在しています。

「ミートアップ」のコミュニティには、大規模なセミナーやイベントといった形態を伴うものもありますが、小規模ミーティングや交流会的な要素を持った集まりが多いのが特徴です。自分の住む地域で時間と場所とテーマを決め、少人数から20~30人くらいの人数で、カフェやコワーキングスペースなどで定期的に集うようなものです。

日本国内でも、現在10万人以上がメンバーとして登録しており、首都圏を中心に1800以上のグループが存在します。が、これまでサービス自体が日本語化されていなかったこともあり、そのコミュニティの多くは、日本在住あるいは訪日中の外国人、海外経験者、英語学習者を対象にしたものが中心となっていました。

しかし、2015年10月上旬、ついにこの「ミートアップ」が日本語に対応、正式に国内に「上陸」する運びとなりました。そして本連載でこれまで海外のトレンドをレポートしてきた私も、同サービスの日本におけるコミュニティマネージャーとして、その運営にコミットすることになりました。今後日本でも大いに広がっていく可能性のある「ミートアップ」について、その展望に触れてみたいと思います。

 

 

普段の職場や、フェイスブックでつながっている友だちを越えたところで、共通の興味に関する「まだ見ぬ仲間」を作るための老舗オンラインサービス、「ミートアップ」。サービス開始から13年を経て、ついに日本語版がリリースされることになりました(画像は9月に先行リリースされたiOSアプリ)。【URL】https://itunes.apple.com/jp/app/meetup-groups-near-you-that/id375990038?mt=8

 

 

共に学び、交流する機会を

「ミートアップ」を利用して開催されているミートアップの、実際の様子や雰囲気はどんなものなのか、「東京iOSミートアップ」というグループを2010年9月から運営しているマット・ギリングハムさんに話を聞きました。月に1回土曜日の昼前に開かれるミーティングは、参加者およそ50~70人、短いプレゼンテーションとディスカッションという構成で行われます。東京・渋谷にある企業のイベントスペースを無償で使わせてもらっていて、ミーティングのあとはいつも、希望者と一緒にランチに出かけ、交流も行われているそうです。使用言語は原則英語なのですが、最近では日本人の参加者も2割程度と増えつつあるとのことでした。

このミートアップのきっかけは遡ること2009年、iOSの知名度がそれほど高くなくて、手に入る情報も限られていたときのこと。当時スタンフォード大学が公開していたオンライン講義を見て開発者同士でディスカッションする、というところから生まれました。当初は銀座のスターバックスに集まって数名から10名程度で語る会だったのが、次第に人数が増え、週末に企業の空いている会議室を使わせてもらう今の形態に落ち着いたのです。これまでの開催回数は100回近くになり、登録メンバーも1300人を超えるほどに成長しています。

現在は複数のメンバーと一緒に運営に取り組んでいるものの、過去5年間、ほぼ1人で運営を行ってきたマットさん自身もiOSの開発者です。一口に運営といっても、開催告知、プレゼンターの手配、会場を提供してもらう企業との交渉、イベント前後の設営や片付けなど、さまざまなタスクがあると思います。これほどの大仕事をなぜここまで継続できているのか、との質問に対しては「ただ単に、ほかのiOS開発者と共に学び、交流する機会を提供したかっただけ」とさらりと語ってくれました。会費は一切参加者から徴収しない形態を採り、あくまでも良質なコミュニティが維持されることを心がけているそうです。謙虚で飾ることのないマットさんでしたが、彼自身も運営を通じて、そのコミュニティをとても楽しんでいる姿が印象的でした。

この話を聞いて思い出されるのが、アップルの創業のきっかけになった、あるミートアップの存在です。それは「ホームブリュー・コンピュータ・クラブ(Homebrew Computer Club)」という、シリコンバレーで結成された、コンピュータを趣味とする人々が集う初期の団体(ユーザグループ)でした。このクラブに参加していたスティーブ・ウォズニアック氏は、のちにこう語ってます。「もしホームブリュー・コンピュータ・クラブがなかったら、アップル・コンピュータはなかったかもしれない」。当時まだヒューレット・パッカード社で働きながら、ガレージでアップルⅠやアップルⅡの試作品を作っていた彼が、それらをこのクラブに持ち寄って数多くのフィードバックをもらい、そこで最初の顧客に出会ったのです。

自分の世界を広げるチャンス

多様なバックグラウンドや立場を持った人たちが、あるテーマをきっかけに定期的に集い、そこで自由な意見やアイデアを交換することの意義については、今さら言及する必要はないかもしれません。しかし、スマートフォンやメッセンジャアプリ、フェイスブックなど、顔を合わせなくてもコミュニケーションがとれるようになり、人と人のつながりが希薄になりがちな今だからこそ、実際に対面で会うことの価値に再び大きな注目が集まっているように思います。

現在ニューヨーク市では、100万人以上の人が「ミートアップ」に登録していて、それはニューヨーク市民約850万人のおよそ8人に1人の割合です。毎日数えきれないほどのトピックに関するミートアップが開催されています。同じように数多くの人が集まる東京(約1350万人)でも、「ミートアップ」によって多くのコミュニティが育まれる可能性があるのではないでしょうか。もしかしたら、「人と人のつながりを作る」という意味においては、東京以上に地方においてこそその真価が発揮されるかもしれません。

「ミートアップ」のWEBサイトが間もなく日本語対応されることで、今まで以上にミートアップに参加することが容易になり、またなにより、自分ならではのコミュニティを作ることも簡単にできるようになります。テック系のみならず、語学学習、スポーツ、フィットネス、読書など、さまざまなトピックスのもと、地域活性化の手段として、仕事以外の仲間との新しい出会いの機会として、自分の世界を広げるチャンスが増えることを願っています。スポーツの秋、読書の秋など、なにかと新しいことを始めるのに最適なこの季節。「ミートアップ」で、ぜひ新しい一歩を踏み出してみませんか?

 

 

「東京iOSミートアップ」のページより。とてもシンプルな作りながら、左側のグループに関するデータを見ると1300人が登録していて、過去に95回のミートアップが開催されていることがわかります。掲載されている顔写真はオーガナイザーのマット・ギリングハムさんです。
【URL】http://www.meetup.com/TokyoiOSMeetup/

 

 

「ミートアップ」のユニークな使い方の1つとして、旅行や出張で海外に出かける際に、その場所・地域での気になるミートアップを見つけて参加してみるというのがあります。自分と興味・趣味を同じくする現地の人と出会う機会は、通常の旅行ではなかなか体験できないものです。WEBサイトを閲覧した場所の位置情報から、周辺で開催されるミートアップが表示されるので、現地に赴いてから探すのもよいでしょう。

 

 

「ミートアップ」で展開されている日本のグループの一例

日本国内のグループには、たとえば次のようなものがあります。ほかに、英会話学習や地域の集まりを目的にしたものも。現在は英語に抵抗感のない層が利用している印象ですが、日本語への対応が始まればさらにバラエティに富んだプラットフォームになるのではないでしょうか。

(1)Women Who Code Tokyo(女性を対象にしたテック系の集い)
【URL】http://www.meetup.com/ja/Women-Who-Code-Tokyo/

(2)Night Photography in Tokyo(東京在住の写真愛好家の集い)
【URL】http://www.meetup.com/ja/NightPhotography_Tokyo/

(3)東京コミュニティマネージャーMeetup(コミュニティマネージャーたちの集い)
【URL】http://www.meetup.com/ja/TokyoCMMeetup

 

「ミートアップについてさらに詳しく知りたい方へ

(1)「ミートアップ」のWEBサイト(サービスの利用、グループへの参加は無料。グループ作成は有料です)
【URL】http://www.meetup.com

(2)「ミートアップ」公式ツイッターアカウント@MeetupJP
【URL】https://twitter.com/meetupjp

(3)本文中で紹介したスティーブ・ウォズニアック氏によるエッセイ“HOMEBREW AND HOW THE APPLE CAME TO BE”
【URL】http://www.atariarchives.org/deli/homebrew_and_how_the_apple.php

 

 

市川裕康 Hiroyasu Ichikawa

株式会社ソーシャルカンパニー代表取締役社長、ソーシャルメディア・コンサルタント。NGO、出版社、人材関連企業等を経て2010年3月に独立。政府機関、国際機関、企業、メディア、NPOなどに対し、海外のデジタルトレンド関連の調査・執筆・講演・コンサルティング活動に取り組んでいる。著書:『Social Good小事典』(講談社、2012年)

【URL】www.socialcompany.org
Twitter @SocialCompany

 

【ご縁】
私が「ミートアップ」に最初に出会ったのは2003年5月。米国同時多発テロをきっかけに生まれた、人と人のリアルなつながりを作り出す新しいサービス、と聞いてすぐ登録しました。あれから10年以上が経ち、今回の日本語化に関わることができたことにありがたいご縁を感じます。

 

【感謝】
この春からスタートした本連載ですが、いったんお休みを頂戴します。大変残念なのですが、また機会を改めてグローバルなデジタル、メディア、コミュニティのトレンドをレポートしたいと思います。短い期間でしたが本当にありがとうございました! 市川裕康 @SocialCompany