溢れるニュースコンテンツ、振り回されずに生きるには|MacFan

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海外Techトレンドを通じて考える日本の未来

溢れるニュースコンテンツ、振り回されずに生きるには

文●市川裕康

海外のTechトレンドの中で「きっと数年後、日本でも大事な事柄になってくるのではないか」と思われるトピックを厳選してお届け。今回のテーマは「コンテンツ・キュレーション」。

皆さんは一日を通じて、日々溢れるニュースコンテンツとどのように接していますか。

フェイスブックが提供する「インスタント・アーティクル」や、米国若年層を中心に影響力があるSNSスナップチャットによる「ディスカバリー」と呼ばれる機能など、各種プラットフォームが自社サービスの中でいかにニュースを消費してもらうか、めまぐるしいスピードでしのぎを削っています。そうなのです、ニュースコンテンツの流通・配信は、旧来の新聞やテレビなどの大手メディア経由から、モバイル、ソーシャルサービス経由へと、大きな変革の時期を迎えています。

国内においても、スマートニュース、ニューズピックス、グノシーなどのキュレーションアプリが人気です。ふとしたスキマ時間にリアルタイムで自分が興味を持ちそうな情報を提供してくれるモバイルサービスによって、より効率的に日々のコンテンツ消費が可能になりました。アプリ以外にも、スマートフォンの通知機能やSNS上の友人・知人などを通じて、これまで以上にニュースコンテンツに囲まれる日常が当たり前になってきています。

もちろん、既存の大手メディアも、よりシェアされやすく注目を集めやすい新しいコンテンツ配信の方法を探っています。ニューヨーク・タイムズはすでに電子版有料購読者が100万人を超え、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(90万人)、日本経済新聞(40万人)と、確実にデジタル化が進んでいます。

こうしたニュースの消費スタイル、ビジネスモデルについての議論は、コンテンツパブリッシャー、プラットフォームサービス、広告主などを巻き込んで、さまざまな場所で行われるようになりました。

 

 

この秋のiOS 9のリリースに併せて登場するアプリ、「ニュース(News)」。iPhone/iPadの標準アプリとして、世界中の人が目にする巨大メディアプラットフォームは、私たちのコンテンツ消費にどのような変化をもたらすのでしょうか?

 

 

求められるメディアリテラシー

そんな中、十分な議論が行われていないのではないかと思えるのが、個人のメディアリテラシーについてです。一人一人がコンテンツを消費する過程で、偏ったり誤ったりした情報に惑わされずにメディアと接することができるかという議論や、そうしたスキルを身につけるための学びの機会の必要性を強く感じます。

それとともに、フェイスブックやツイッターで気になった記事をシェアしたり、コメントを書き込んだりすることで、意識せずとも「コンテンツの創造」に参加しているという認識を持つことも重要です。知らず知らずのうちにデマを拡散してしまった、なんてことに身に覚えがある人もいるかもしれません。一方で、積極的にコンテンツ作成に取り組むことで、ビジネスや自己の実現がもたらされる可能性もとても大きくなっています。

ある特定の分野やテーマについて専門的な知識を持っている、あるいはその分野について誰よりも情熱を持っていることを日々の活動の中で示すことは、他者の信頼を得るうえで非常に有用な手段です。そのような人は、英語で「ソート・リーダー(Thought Leader)」などといわれます。

必ずしもソート・リーダーを志向しなくても、たとえば災害発生時に自分や自分の家族にとって必要な情報をどのように取捨選択するか、あるいは必要な場合には大事な仲間に大切と思える情報をどう発信するかなど、私たち一人一人にとっての情報の取捨選択、広い意味でのキュレーションのスキルの必要性が高まりつつあります。

ブログのように一からコンテンツを作り出す作業は、時間がかかるうえ、タイムリーな情報発信がなかなかできません。それよりも、注目する記事を厳選し、ときに要約したり、自分なりの知見・洞察を加えながら、適切なメディア上で共有すること、「コンテンツ・キュレーション」に取り組んでみてはいかがでしょう。

ツイッターやフェイスブックで気になった記事をシェアするといった行為も、立派なコンテンツ・キュレーションです。ただ、ある特定のテーマに特化したニュース記事を、そのトピックに興味関心を持ちそうな層に対して共有し、その後もインターネット上の検索などでも見つけられるようにアーカイブしておくとなると、それなりに工夫が必要とされます。

ポイントになるのは、良質なコンテンツの①発見、②蓄積、③ファクトチェック、④意味付け、⑤共有、⑥アーカイブです。それぞれのコツや、それに最適なツールを紹介しましょう。

キュレーション必須ツール

発見…「グーグルアラート」、「ツイッターのリスト機能」、「フィードリー(Feedly)」「ナズル(Nuzzel)」などのサービスを利用し、自分にとって信頼できるキュレーターを見つけ、普段からフォローしておきます。

蓄積…ブックマークサービスの「ポケット(Pocket)」、フェイスブックの「リンクを保存」機能で、情報を蓄積しましょう。

ファクトチェック…たとえば「トプシー(Topsy)」などを利用してみましょう。気になった記事のURLを入力すると、その記事がツイッター上でいつ、誰によって、どんなコメントが添えられてシェアされているか、過去に遡り時系列で確認できます。

意味付け…もっとも難しい部分ですが、記事の要約や引用に、自分の所感、気づきを添えて意味・価値を加える点にキュレーションの醍醐味があります。「スクープイット(Scoop.it)」はコンテンツの発見から、コメント付加したうえで各種プラットフォーム上に効果的にシェアする一連の作業をサポートするサービスです。

共有…「トゥゲッター」「Naverまとめ」などのほかに「バッファー(Buffer)」などのサービスを活用することで各種プラットフォームに効果的に共有できます。そのほかにも、メールニュースレターやフェイスブックのタイムラインなど、自分の目的に沿った場所で共有するための継続的な工夫をしましょう。

アーカイブ…折に触れてブログに自分が共有したコンテンツをまとめたり、スクープイットのようなトピックごとにビジュアル面でも優れたレイアウトとして保存場所を設けたりするなど、後日読者に検索やアーカイブ経由で見つけてもらえる導線設計があるとさらに効果的です。

 

 

ナズルは、ツイッターでフォローしている人やフェイスブックの友だちの間でもっともシェアされている記事、またその記事に対する友だちのコメントなどを簡単に閲覧することができるアプリ。日本語のニュースも対応可能で、地味ながらとてもパワフルなツールの1つです。

 

 

Nuzzel

【開発】Nuzzel 
【価格】無料 
【カテゴリ】App Store>ニュース

 

 

ツイッター解析サービス、トプシーでは、特定のURLやキーワードに対して、いつ、誰が、どれくらいのボリュームでツイートされているのかを検索したり、情報を拡散しているインフルエンサーが誰なのかを調べたりすることができます。2013年にアップルが約2億ドルで買収したことでも話題になりました。【URL】http://topsy.com

 

 

アイデアから情熱を持った個人のキュレーション活動が始まり、ムーブメントにつながる、という過程を描いた概念図。筆者が2010年に独立した頃から講演・勉強会などで使用しているスライドの1枚です。

 

以上、ぜひ参考にしてみてください。大手企業によるニュースコンテンツのキュレーション、アグリゲーションサービスが話題になっている今だからこそ、一人一人が関心のあるトピックに対してキュレーション活動を行うことが大切です。こうした活動をきっかけに、たった一人の情熱からメディアが生まれ、コミュニティが生まれ、組織が生まれ、そしてムーブメントにつながっていった事例を数多く見てきました。

「効率性」という名のもとにメディアに流されてしまうのではなく、こんな時代だからこそ自分なりのメディア消費のスタイルを見つめ直し、自分のメディアを作ってしまうくらいのアイデアがあってもいいと思います。英語の表現に「You are what you read(あなたはあなたが何を読んでいるかによって形作られる)」という言葉があります。日々のインプット/アウトプットから、自分ならではの価値観、自己実現が生まれることを願っています。

 

コンテンツ・キュレーションについてさらに詳しく知りたい方へ

❶ 『キュレーション 収集し、選別し、編集し、共有する技術』(スティーブン・ローゼンバウム、プレジデント社、2011年)

❷ デジタル・キュレーション
筆者による「現代ビジネス」(講談社)での過去掲載記事(2010年-2015年)
【URL】http://gendai.ismedia.jp/category/socialbiz
【URL】http://gendai.ismedia.jp/category/ichikawa

❸ Scoop.it
筆者が実験的に取り組んでいるキュレーションサービス
【URL】http://www.scoop.it/u/socialcompany

❹ イタリア在住のキュレーションの専門家、ロビン・グッド氏による最新トレンド・ツールの紹介サイト
【URL】http://tools.robingood.com/

 

 

市川裕康 Hiroyasu Ichikawa

株式会社ソーシャルカンパニー代表取締役社長、ソーシャルメディア・コンサルタント。NGO、出版社、人材関連企業等を経て2010年3月に独立。政府機関、国際機関、企業、メディア、NPOなどに対し、海外のデジタルトレンド関連の調査・執筆・講演・コンサルティング活動に取り組んでいる。著書:『Social Good小事典』(講談社、2012年)

【URL】www.socialcompany.org
Twitter @SocialCompany

 

【問い】
「朝起きてから寝るまで、どこで、どんなデバイスで、どんな目的を持ってニュースを消費するか」「その情報をどのように活用しているか」これらは5年前に独立して以来、試行錯誤を続けてきた自分への問いでもあります。ぜひ皆さんの知見を上記ツイッターアカウントに共有してください。

 

【サービス】
最近興味を持っているサービスの1つに、BuzzSumo(バズスモウ)があります。名前こそ「相撲?」という感じですが、興味のあるキーワードやURLを記入すると関連するコンテンツが人気順に表示され、それぞれフェイスブック、ツイッター、リンクトインなどで何回シェアされているかを簡単に見ることができます。