太郎は、自らを天才だと思っていた。
学生時代は、全ての学科で最高の成績を収め、試験という試験に合格し、世界最高の会社に入社することまでは、秀才でも努力と運次第で出来ることだが、そういう優秀者が集まった会社に入社後に、更に、最高の成績と最年少出世を重ねることで自らが天才であると自覚したのである。
そんな太郎が、やはり世の中は広いと感心し、自分と同じように天才だと認める上司がいた。太郎はその上司を尊敬していた。
天才は天才を知ると思っている太郎であったが、一つだけ気に入らない所が上司にもあった。
上司は大のゴルフ好きだった。
太郎はゴルフをしたことがなかったが、ゴルフ嫌いであることは、社内で有名だった。上司は、ゴルフが好きなだけでなく、腕前もかなりのもので、コミュニケーションツールとしてゴルフを上手に利用していた。
太郎は、上司がゴルフを効果的に利用していることは知っていたが、その効率の悪さも同時に知っているつもりだった。丸1日掛けて、ボールを打って歩き回る以外に、もっと有効な方法があると信じていた。
「ゴルフをしてみないか?」
上司は唐突に太郎を誘った。太郎としては、そういうことがないように意図的にゴルフ嫌いの噂を流していたのに、天才らしからぬ愚問だと、上司の顔を疑惑の視線で見返してしまった。
「遠慮させていただきます」
太郎はそれで話は終わるかと思ったが、実際にはその後1時間に渡って上司に説得された。
結局、尊敬している上司に説得に応じて、太郎はゴルフをすることにした。ただし、上司にグロスのスコアが勝つまでという約束になった。太郎には勝算があった。天才たる所以で、嫌いであってもゴルフのことはある程度調べていた。ゴルフを話題にされても困らない程度の知識は十分に持っていた。