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ゴルフのおかげで、旅、友、嬉し涙 四の旅 感動 ~ミケルソンからお先にどうぞ~

【第2回】小山の向こうへティショット ~スコットランド~

2017.05.01 | 鈴木康之

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 日本のゴルフは米国を向いている。ほめられる球筋が高弾道でビッグキャリーというのもそのひとつ。ドライバーの新製品はみんな球が上がりやすい。それはそれでいいのだけれど、私のように年に一度のリンクス旅行で、本場の風の中で打ち興じるのが生き甲斐という少数派には面白い風潮ではない。

 あちらのリンクスではとにかく低く打ち、風の下をくぐらせ、着地したらできるだけ転がすというゴロフの技量がほめられる。横風か向かい風のホールでは、高弾道で打ち出した花火みたいなボールは、左や右へぐいぐい流されて天然ラフの中に吸い込まれ、ロストボールが3つや4つではすまなくなる。

 北アイルランドのロイヤル・カウンティダウンを訪ねた時のこと。1番ティに早く着いて、前の組の男たちと挨拶を交わしたところ、「日本から来たのか」と会話になった。1人が私のバッグの中の日本製最新兵器に関心を示した。ドライバーの弾道の高低の話になった。彼は即席で低いボールの打ち方を指南してくれた。「ティアップを低くし、頭は残さないでインパクト直前からフォローへどんどん左足体重にしてねじればいい、素振りしてみろ」と言う。「それはノー・グッド」「こんどはグッド」と言ってチェックしてくれた。

 彼ら、とりわけ彼は、銃弾のような、見事に直線的な低いボールを打った。そして彼は振り向き、9番ホールだけは高弾道のスイングで打つといいよ、というようなことを笑いながら言い、「ハバ・ナイス・ゲーム」と言って出ていった。どういう意味なのかよく分からなかった。

 

 

 8番グリーンを終えてハリエニシダのマウンドを回り込み、9番ティに出て彼の英語の意味が分かった。なんと目の前150ヤードほどが高さ10メートルもある小山なのだ。ロイヤル・カウンティダウンの名物ホールの小山。もともとの自然の地形を壊さないというのがリンクスの伝統だ。設計者トム・モリス・シニアの洒落心でもある。ここが目標という白杭があるわけだけれど、これはプレッシャーだ。

 ワイフのティショットは案の定小山の中腹に突き刺さった。こっちの人たちはクリークかアイアンで打ち上げるのだろう。私は妻の敵討ちとばかりドライバーを握り、いつもの通り頭を残しアッパー気味に振った。ボールは小山の天辺よりはるか上を能天気にすっ飛んでいった。ほっとした。

 ラウンドを終えてハウスの近くへ行くと、スタート前の彼が人と立ち話していた。私を見つけると、旧知のような笑顔で話しかけてきた。「楽しんだかい」というお決まりの言葉のあとで、「君のドライバーショットは高いね、君のショットは9番ティの前がピヤなんとかでも越えるよ」と言った。聞き取れないので、聞き返すとエジプトのピラミッドのことだという。私も大笑いし、思わず彼の背中を叩いた。

 彼は見通しのいい数ホールで振り返って私の日本製てんぷら風ドライバーショットを見たのだという。

 あとで分かったのだが、彼はここのヘッド・プロのホワイトソンだった。球筋もしかりだったが、道理でそのホスピタリティも素晴らしかったわけである。

 

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