中古ゴルフ道具屋に行っても、もはやパーシモンヘッドのクラブなんて滅多に見られなくなってしまった。もちろん、元々大量に出回っていたので、それ自体がなくなったのではなく、目に触れなくなっただけなんだろうが、いずれにしてもまともな良品を見る機会はコレクターの所ぐらいなものだろう。
ところが、Pの周囲のゴルファーだけは良質のパーシモンヘッドを見ることができた。それも、最も見たくない形でである。
Pはパーシモンヘッドで300ヤードドライブを放った。
だから、周囲のゴルファーは、快音をたてながら振っている最新素材のドライバーが色褪せて見えて仕方がなかった。
Pが使用しているパーシモンは1960年代製の名器で、かつては、値段がつかないほどのものだった。
使用した人なら分かるが、パーシモンヘッドは生き物で、アタリとハズレが存在する。同じ木でも使用する場所によって違いがあるし、丸太の中で最高の場所を使用するにしても、その木そのものがどこで育ったものか、どのような斜面で育ったか、様々な要素が絡み合いアタリは出るのである。
いわゆる名器というものは、アタリの条件を満たしている。当然、打ってみれば違いは明らかだ。見た目が同じでもキャリーで30ヤード違うという現実がパーシモンの名器の魅力の一つであった。
Pはそれをゴルフを教えてくれた叔父の形見として手にした。生前、叔父もそれを所有していただけで、実際には使用していなかった。叔父の書斎に飾ってあった宝物だ。
時代は既に金属ヘッドを主役に選んでいた。
それが、逆に気軽にそれを打ってみようか、と考えさせる動機になった。
最初の一球で、Pは叔父の形見のパーシモンヘッドの虜になってしまった。
打たれた球は、Pが一度も経験がないほど遠くに落ちた。