【第4回】第一章：回天の土方―（4）

「とにかく……だ」

「坂本が望んだとおりに、慶喜公は『大政奉還』をしてくれたというのに、それを薩長の連中は踏みにじって、徳川家を葬り去ろうとしている。おそらく、俺に見るところ、７日後の４月11日に、江戸城明け渡しの際に、大方の大勢が決まるだろうよ。その際には、幕府の武器や軍艦のすべては、一旦、新政府に渡して、それから徳川氏に与えられる石高に応じて、その比率で一部が返納されることになっているんだけどな。しかし、ここで素直に軍艦を手放してしまっては、徳川は本当に御仕舞えだよ。おそらく、海軍副総裁の榎本あたりが、それを認めねえだろうな。だからよ、俺も榎本にそっと、言ってあるんだ。『お前えたちは、11日には軍艦に乗って、安房あたりまで散歩して来な！』ってな」