二
松は常盤木と申しますから、真冬になっても緑のままです。
あれはまだ枝に雪がちっとばか残っとりましたから、二月の初め頃ですか。おまさ坊が女学校にあがるって年でした。
夜明け前の、まだ東のほうさえ白みもしないときでした。すぐそばで人の気配がするんで、気がついたんです。見てみると、圭太が幹に手を当てて立っとりました。こう、きつく眉を寄してね。風呂敷包みを背にしとりましたから、すぐにただごとじゃないとわかりましたよ。
私はびっくりして、思わずおまさ坊を呼びました。すると不思議なこともあるもんですね、部屋の障子がスラッとあいて、本当におまさ坊が顔を出したんですよ。おまさ坊は旅支度の圭太を見るや、顔色を変えて、裸足のまんま外へ出てきました。