【第１回】序章

　１　占い師が予言した父の死

『手相』や『占星術』、『易』、『トランプ占い』など「占い」には数々あるが、それらは当たることもあるし、当たらないこともある。また、それを信じる人がいるかと思えば、頭から否定する人もいる。

　私は子供の頃から「占い」には興味があり、占い師や、易者に見てもらうときは胸がワクワクした。

　ところが、私の母は育ったのは大正末期から昭和にかけての平和な時代で、健康にも恵まれていたせいか、占いや、迷信には興味がなく、代わりに病弱だった祖母が「占い」や、「八卦」に異状なほど関心を示した。

　私がまだ小学生だった頃、父が船舶を造る技師として役所に勤めていたが、関西への転勤の話が持ち上がり、戻ってくれば出世も早まるというので父の気持ちが動いたが、祖母のすすめで「易占い師」に相談すると、「西の方角へ行くと、生命か、財産、名誉のいずれかを失う……」と言われ、父は転勤を断念したことがあった。

　その後、数年たち今度は関西に住む叔父から事業の共同経営の話を持ちかけられたときも、祖母にすすめられ「八卦見」に見てもらうと、やはり関西行きは断念したほうがいいと言われ、その言葉に従うと、以後、何事もなく平和な日々を送ることができた。

　ところが戦争がたけなわになり、兄と私は学徒労員で疎開を逃れることはできたが、妹は学童疎開、祖母も地方への疎開を義務づけられ、一家離散の危機に見舞われ、一家は父の郷里である鹿児島への疎開を余儀なくされた。

　ところが、あまりに急だったため、かつて見てもらったことがある「八卦見」に相談する余裕もなく、一家は慌ただしく鹿児島へ移動した。

　すると、疎開して一年後、疎開先の町が空襲に遇って全焼、町から四キロも離れた農家への借り住まいを強いられた。そんな折、父が焼け跡の作業中に負った傷が原因で破傷風に罹って急死、その数ヵ月後、残された家族が東京に引揚げる直前、今度は祖母が体調を害し二、三日寝ただけで死亡、「八卦見」の予言がことごとく当たる悲運に見舞われた。

　２ 「算盤占い」が的中した姪の一生

　身内の話になるが、私が勤めていた会社を辞め他の会社に転職する件で『算盤占い』の老師を訪ねたときのことだった。

　当時、家には結婚した兄夫婦が同居しており、片言を喋り始めた姪は一家の話題を一人占めにしていた。

　しかし、大人ばかりに囲まれチヤホヤされ、この先、成長してうまくやって行けるかどうか気になっていたので、ついでに私は今後の彼女の将来について尋ねてみた。

「大丈夫ですね。その房子さんていうお子さんはとっても性格がよく、家族の誰ともいさかいを起こすようなことはなく、成長してからもうまくやって行けます」

　すると、開口一番、老師はそう答えたので私はホッとした。

　だが、そのあと老師は算盤から目を離さず、気になる発言をした。

「ただ、そのお子さんの厄年から先が読めないのが、ちょっと気になります。まだ先のことなので、それほど気にすることはないかもしれませんが……」

　老師は、そう言って顔を曇らせた。

「先が読めないというのは、そこで寿命が尽きるということでしょうか？」

「いや、いや、それなら〝終わり〟という卦が出ますが、そこがよくわかりません」

　厄年というのは女性は十九歳と三十三歳、男性は二十五歳と四十二歳、六十一歳で、なかでも女性の三十三歳と、男性の四十二歳は大厄といわれ恐れられる。

　ただ、姪の場合、その歳になるのはまだずいぶん先のことなので、私もそれ以上のことは尋ねなかった。

　姪は順調に成長して大人になり、兄夫婦も住宅の抽選が当たり家を出て行った。

　ところが、姪が三十歳になった頃のある日の夕方、滅多なことでないと電話をかけてこない兄から、只ならぬ慌てようで電話がかかってきた。

「房子が、房子が脳腫瘍だというんだ……」

　ちょうど、女の厄年にさしかかっていた。

(やっぱり……)

　私は、その時、二十年以上も前『算盤占い』の老師が言ったことに思い当たった。

　話を聞くと、少し前から姪は頭痛を訴えるようになっていたそうで、少し前、私が兄の家を訪ねたときも、いつもなら玄関まで見送りに出てくるのに階段の途中で手を振っていた。

　老師に相談した頃は脳腫瘍などという難病は研究もまだ進んでおらず、治療も困難な時代で、「先が見えません」と老師が言ったのも、そんなことが原因だったのかもしれない。

　姪は近くの自分が生れた病院に入院、手術は無事、成功し一命を取りとめた。

　しかし、しばらくすると今度は別なところにまた悪い病気が見つかり、二度目のときは手術の甲斐なく老師の予言が現実のものとなってしまった。厄年の三十三歳になる前年だった。

　３ 『星占い』が当たったヨーロッパ旅行

　ずいぶん以前の話になるが、何かの帰途、友人と歩いていると『星占い』の看板が目にとまり、どちらからともなく「見てもらおうか」ということになった。

　当時は海外に出かけるのは、渡航の手続きや、外貨の持ち出しなどに制限があり夢のまた夢の時代だったが、友人はどうしても海外へ行きたかったらしく、そのことを尋ねた。

　すると占い師は、「海外へ行けるチャンスは、そのうちやってきます」とこともなげに答えた。

　それで私も見てもらうと、私の星座は金星（ビーナス）で芸術面の仕事に向いてるとのことだったが、海外旅行について尋ねると、「あなたも、その気になればヨーロッパ行きは必ず実現します」と言われた。

　それで二人は半信半疑ながらも、気分をよくしてそこを後にした。

　すると、それからしばらくしてヨーロッパで「国際見本市」が開かれ、友人は以前からフランス語の勉強もしていたので、その甲斐あって予言どおりフランスに行くチャンスが訪れた。

　また、私も友人が渡欧して数年後、研修旅行という名目だったが、やはりヨーロッパ行きが実現した。

　私の場合、美術関係の研修旅行で、本来なら翌年の予定だったのが同行者には外国語に弱い中高年の人たちが多く、語学に強い人が同行すると何かと好都合だということになり、予定より一年早く私のヨーロッパ行きが実現したのだった。

　それに私は「占い」とは異なるが、自分自身がみる夢についても関心をそそられた。

　しばらく会っていない人の夢をみると、その人とバッタリ道で出食わしたり、会ってまだ間がないのに、その人が夢に現われたりすると、その家族からふいに訃報が届いたり、また会ったこともない人でも、その人の夢をみると、それらしい人が現実に目の前に現われたりした。

「占い」や、「八卦」のことを考えると、以上のようなことが脳裡に浮かぶが、何事も割り切ることが好きでなく、子供の頃から神秘的なものを好む傾向が強かった私には、しかし、そんな現象は人が不思議がるほど異様なことには思えなかった。

　最近「占い」や、「予言」がテレビや、雑誌でよく取り上げられたりするのも、統計上、やはり肯ける面があり、関心をもつ人が増えているからではないだろうか。