【第2回】支配人たち

支配人たち

「支配人というのは、いったい何のでしょうか？」という質問をもらうことがある。多くの場合は、なんらかの事件があり、それに伴って、支配人の絡み方に疑問を持った人からのモノだ。

　ゴルフ場における支配人というのを一言で定義するのは難しい。代表権を持った取締役の人もいれば、平社員だというケースもあるし、たくさんの権限を持っている人もいれば、一切の権限がない人もいるからだ。

　１９８０年代後半、バブル期最高潮の中でゴルフ場は一気に数を増やした。それまでは、支配人はコースの番頭的な役割で、調整役として機能してきたようだが、金融機関の天下り先としてコースが機能するにつれて名誉職としての支配人という役割が一気に増えた。

　バブル期のゴルフ場の支配人は、何も知らずにふんぞり返っていれば仕事になった。金融機関が送り込んできた支配人の多くは、ゴルフをよく知らない人だった。日本の人事の不思議なところだが、スペシャリストを送り込むより、門外漢を送り込んで新しい風を入れることが上手くいくと信じ込んでいる部分がある。まあ、頭を下げる必要がないサービス業が成り立つわけはなく、バブル期に企業が理想として目指した形式のゴルフ場は衰退していく。

　ゴルフ場自体はなくならない。歪んだ支配人のポジションだけが残された。幸か不幸か、色々な支配人が存在することになった。

　小心者の方が悪さをしない、ということで、ワンマンで部下を信じ切れないオーナーは、小心で事なかれ主義の支配人を置く場合がある。小心者の特徴で、弱い者には強く、強い者には徹底して弱い。力関係がハッキリしないと表に出てこない場合が多い。

　スペシャリストとしてプロゴルファーを配置する例もある。プロも十人十色で、管理職に向いている人もそうではない人もいる。苦労人であれば、上手く立ち回るだろうと配置されることもあるが、これが一筋縄ではいかない。苦労人は極端に２つに分かれる。腰が低く、客を向いたサービスが出来る優秀で好かれる支配人のパターンは上手くいった例だが、苦労したことで根性が曲がってしまって、疑り深い慎重さを誠意だと勘違いしてしまう嫌われる支配人のパターンもあるのだ。

　支配人なんていなくとも関係ない、という考え方もあって、最近では支配人がないゴルフ場もある。

　支配人の交代で、ゴルフ場の雰囲気がガラリと変わることもある。良い意味でも悪い意味でもである。そういう現実を見ると、影響力がある支配人を無視することは出来ないとも言えるのだ。

　何度か、ゴルフ場の支配人をしてみないか、という話をもらったことがある。自分が支配人になったら、ピンキリのピンと評価されるのか、キリと評価されるのか。興味はあるが、私が支配人になることはないだろう。

　自分がなったらと考えると因果な仕事である。フットワーク良く、気が回る支配人は、軽薄だと陰口を言われるし、重要なときだけ力を発揮しようと表にでなれば、給料泥棒と非難される。

　あるゴルフ場のオーナーの話だと、最も支配人として客受けするのは水商売上がりの支配人だという。そのゴルフ場の支配人は、キャバクラを複数束ねる名マネージャーだったらしいが、確かに評判は良い。

　名刺交換しただけで、約２００人のゴルフ場の支配人と会っている。名支配人だという人もいたし、ただの腰掛けだった人もいる。酒好きでいつも酔っぱらっていた人も、コーヒー中毒だった人もいる。良い支配人だったと思える人は、それぞれに得意分野を持っていた。それを上手に活かし、バランス感覚に優れているという共通点もあった。

　支配人というのは一体何なのか？　という質問への答えは、色々な仕事をする可能性がある人としか言えない。ただ、また行きたいと思えるコースには、例外なく良い支配人がいるということだ（まあ、名刺は支配人ではなくとも、支配人として仕事をしている人も含めてだが）。

　ゴルフが好き。ゴルファーが好き。ゴルフコースが好き。そういう話ができる支配人が少ないのは残念だけど、自動販売機みたいなゴルフ場が増えていく中で、ゴルフ好きな支配人がいるゴルフ場を守るために支配人の仕事に敬意を払いたいと思う。

　まずは、良い支配人の仕事には、それなりのお金を払っても良いと認めることである。サービスは無料だなんていう考えが、自動販売機を増やすのである。

（２０１０年１月20日）