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ゴルフプラネット 第41巻

【第2回】推薦出場

2016.10.20 | 篠原嗣典

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推薦出場

 

 また、チャンスを逃したなぁ、と残念に思った。

 

 石川遼プロが単に強い記録的なゴルファーで終わるか、記録だけでなく記憶に残る伝説になるか、という選択肢で失敗を続けていることは、見識がある関係者の間では有名な事実である。

 

 例えば、ルール問題でも無知であった自分に厳しくして対応すれば伝説的なエピソードに出来た話をなあなあに済ませたために、擁護する論調の無知なマスメディアも出てきて話がこじれた。グレーであれば、潔く罰を受ける。石川プロには、そうするだけの十分な時間的なゆとりもあるのだ。

 

 結局、その後、強かったけど伝説にはなれそうにない代表であるジャンボ尾崎との距離を縮めることで、得た技術的なプラスポイントも大きかったが、同時にルールのグレーゾーンを自らの都合で解釈するというとんでもないテクニックも目立つようになってしまった。

 

 優等生でも演出は必要だということだ。本人の意図しないところで、周囲の大人の拝金主義的な判断で石川プロが汚れていく…… 本当に残念である。

 

 今週になって開幕を控えた女子ツアーに、石川プロの妹が推薦枠で出場することがニュースになった。広報サイドから見れば、それだけでも推薦枠の宣伝効果は抜群だったはずである。

 

 明るいニュースだという感じで流れている。石川プロは、妹の予選落ちは間違いないが試合に向けて経験することが大事だというコメントしたという。

 

 ジュニアゴルフの業界を少しでも知っている人ならわかるが、石川プロの妹は選手としてジュニアゴルファーとしても、まだまだの選手である。わかりやすく例えると、ハンディ5以下でなければ参加できない試合に、ハンディ18の人が参加するようなモノだ。

 

 2つの意味で問題がある。1つは彼女が出ることで、確実に参加資格がある誰かが参加できなくなるということだ。推薦枠を使うと追加のようなイメージがあるが、全体数は決まっていて固定なのである。1つは、真剣に戦っている他の選手の迷惑になる可能性があることだ。下手だからと言うだけではなく、マスコミ対応などでも不手際が起きる可能性は多々ある。

 

 こう言う話は有名人の周囲にはたくさんある。○○の兄弟、○○の従兄弟、○○の親戚、○○の知り合い…… 石川プロの妹だからという理由で推薦枠を使わせる発想も品がないが、それに乗っかる方もバカ丸出しである。

 

 何よりも本人にとって大きなマイナスである。素人で、これが最初で最後の露出というようなものであれば、客寄せとして成り立つかもしれないけれど、石川プロの妹は、今後、石川葉子として1人のジュニアゴルファーとしてガンバルつもりはないのだろうか? あるのだとしたら、○○の兄弟という資格は最後の切り札に取っておくべきである。未来がある選手で、そういうパターンがプラスに働いた例は皆無である。

 

 そういう話があったけれど、本人のためにも、周囲の状況を考えても、時期尚早だと諦めさせました、というコメントが欲しかったなぁ。長い目で見れば、その方が何倍も価値が上がるのに、彼の陣営の焦りに似た行き当たりばったりの決断には色々なシーンで疑問が残る。

 

 あの一瞬が人生を変えた、というドラマは私が知る限りプロゴルフの世界が最もわかりやすく、数も多い。多くのドラマは知られずに、ひっそりと幕を閉じる無名の主人公のものだろうけれど…… 石川プロの妹が出場したことで、参加できない選手のドラマは既に始まっている。そして、当日に向けて、他のドラマも動き出しているのである。

 

 私の経験から書かせてもらえば、本当のヒーローは、こういう見えないドラマでもヒーローである。見えないところで、後ろ指を指されるような短絡的な発想を避けることもヒーローの資質なのである。

(2010年1月19日)