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ゴルフプラネット 第40巻

【第2回】鬼と金棒

2016.10.19 | 篠原嗣典

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鬼と金棒

 

 ゴルフの鬼になると、年頭ブログに書いた。

 

 ブログを見た人から「今でも鬼ゴルファーであり、十分にゴルフの鬼ですよ」というメールをもらった。

 

 ゴルフの鬼と言えば、一心不乱にゴルフをするイメージである。少し言葉を換えると鬼ゴルファー。こうなってくると、厳格なスパルタゴルファーをイメージする。

 

「あの人、鬼だね」と言われた場合、ゴルフの鬼という意味と鬼ゴルファーという意味ではかなり違う。まあ、人から言われる時点で、可能性が高いのは後者の方だから、ゴルフの鬼を目指している私としては、今年1年、十分に注意をしなければならない。

 

 ゴルフの鬼とは、自分の内側に向かってゴルフを極めようとする姿勢のことだと私は考えている。

 

 自分でもそう思うが、ベターで妥協している部分がたくさんあることも事実である。妥協はときとして、ベストな選択よりも目的に対して高い成果を生むが、ベストを尽くしてこそ見えてくるものがあるのもゴルフの面白さである。

 

 妥協していた部分を今一度見直して、改めて、挑戦しようと思うとワクワクする。

 

 色々と課題はあるが、一つ一つ解決していくことが結局は近道になる。まずは、昨年の秋から始まっていた用具の改革を進めることだ。

 

 私はある意味で鎖国状態にあった。それは、ゴルファーにとってロマンでもあり、決して一つの方針として間違ってはいない。用具に関して伝統を維持することは、ゴルフ規則の骨子の一つでもあることからも証明されている。

 

 しかし、鎖国してまで文明を受け入れないことで障害が出たり、著しく劣ったりするのは、ロマンで片付けることはできない。文明開化を意識して、用具の強化をしたい。

 

 用具が変わり、強化されれば、戦略も変わる。また、どんなに優れている用具も使いこなせなければ意味がない。用具を使いこなすためにしなければならない時間や努力は無駄にはならない。そういう中で、変わっていく戦略は机上の理論にはならないので頼りにもなる。

 

 昨年末に、古くからの知り合いが私のバッグの中を見て「鬼に金棒かぁ」と呟いた。本気でスコアを出そうという意志と、どのようにして出すのだという方針が明確になってきているという意味らしい。

 

 その瞬間に、謙虚に、鬼に金棒ではなく、鬼と金棒だと思った。ゴルフの鬼になって、鬼に金棒にしたい、と考えた。

 

 鬼は強い。強いのに加えて、金棒という武器があるのは、更なるパワーアップだというのが鬼に金棒の意味である。ゴルフでは、金棒を入手するのは容易い。だから、豚に金棒だったりするような無駄も少なくない。

 

 問題は、鬼になることであり、金棒を使いこなすことなのだ。

 

 現在のゴルフクラブは、考え方によっては、全て金属を使用している金棒である。金棒なのだと思ったら、ゴルフクラブも相当に強そうである。

 

 金棒も高性能になってきている。今までより早く振り回せるように出来ているもの、打撃で相手に与えるダメージが大きくなったもの、長いのに軽く扱いやすいもの、太さが倍になってミート率が上がったもの……

 

 鬼と金棒だと謙虚に思うのは、私の場合は、用具を変えたことによる威圧感が一人歩きしているだけだという自覚があるからだ。武器には、見せるだけで使わずとも相手の戦意を消失させるというものもあるだろうが、ゴルフクラブとしての金棒にも、そういう効果があると考えるのは独り善がりで見栄っ張りな発想である。

 

 どんなに高性能な金棒でも、空を切ったり、かすったりしているだけでは機能を発揮しているとは言えない。失敗を繰り返せば、高機能なものほど逆にマイナスになることもある。猫に小判、豚に真珠、鬼じゃないくせに金棒、と馬鹿にされる。

 

 まずは、確実に当てることである。芯に当てれば、あとはどうにかなるという信頼関係は、鬼と金棒が発揮されるベストの状態である。

 

 ゴルフの神髄も芯に当てること。

 

 鬼は強い。その強さの秘訣は、百発百中の技にある。ゴルフの鬼になるという決意は、芯に当てて、あとは金棒に任せるという信頼関係の再構築からスタートするのである。

 

「あの人、鬼だね」

 

 芯に当てることでそう言われるのであれば、大歓迎である。準備は整っているとニヤニヤしながら、初打ちを指折り待っているこの時間が、幸せなんだなぁ、と思う。

 

 そんな私を見て、鬼が笑っているとしても、それもまた道である。

(2009年1月16日)