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【第3回】第3章 本当は「モンスターペアレント」なんていません

2017.02.02 | 星幸広

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 さて、この章では、現在の教育現場ではどうしても避けて通れない「モンスターペアレント」について触れます。一部の過激な傾向にある保護者が、どうしてこのような「モンスター」いわゆる「バケモノ」と呼ばれるようになったのかについて、私なりの解説をします。

 

■本当は「モンスターペアレント」なんていない


 この言葉は、法律用語でも何でもありません。おそらくマスコミが勝手につくった言葉なのでしょう。それが最近では、テレビ番組のタイトルにもなるくらい、広く一般的に使われるようになってしまいました。

 一般の人がこの言葉を使うのはまだ良いとしましょう。しかし、学校関係者の口から出ると、かなり抵抗を感じます。子どもの教育にとって、もっとも大切なものは、保護者の深い理解と強力な支援です。

 その大切な存在である人たちを、多少過激だからといって十把一からげに「バケモノ」と呼ぶのは、正しいことではありません。また、先生方がこのように呼んでいると、直接相手に向かって言わなくても、以心伝心、必ず先方に伝わるのです。

 大切なことは、先生方から保護者に歩み寄る時の「姿勢」です。先生方の対応の仕方によって、穏やかなお父さんやお母さんをモンスターペアレントにしてしまっている例も、実は数多く見受けられます。

 

■安易な「すみません」は使わない


 教育現場では、保護者からの要望、苦情、抗議、謝罪要求などがあると、事実関係をきちんと調べもせずに、「すみません」「申し訳ありません」「何とかします」などと、簡単に結論を出してしまうことが多くあります。

 これは、「親を怒らせないように」「何事も穏便に」という文字が頭にちらついてのことでしょう。もちろんその気持ちも分からなくはありません。しかし、決して安易に使ってはいけない言葉なのです。

 確かにすぐに要求を飲めば、抗議に来た保護者は矛先を納めて喜んで帰りますから、この局面だけに限定すれば問題は片付いたように見えます。でも本当は、さっきの言葉は「学校には何でも言ってみるものだ。言えば何とかしてくれる」と、「親」に思わせてしまうのです。

 結果として学校は、学校とどうつき合えばいいかわからず困っているお父さんやお母さんに、「どんどん要求した者勝ちですよ」と教えてしまっているのも同然です。別な言葉に置き換えてみると、保護者を学校に呼び込んでいるのです。そして、安易に相手の要望を飲んでしまうと、そこから連動して、次々と問題が起きる場合があります。

 ここで、そのような事例の一つを具体的に紹介しましょう。

 

■こんなことがありました―その①


 ある小学校で運動会が近くなり、クラスでリレーの選手を決定しました。すると、ひとりの保護者から担任の先生に苦情の電話がかかってきました。

「うちの子はこれまでいつも選手だったのに、どうして今回は選ばれなかったのか、納得がいかない! 絶対に選手にして欲しい!」

 1時間にも及ぶ長い訴えです。先生が「すみません」と謝ると、保護者が学校に怒鳴り込んできました。何としてでも子どもをリレーの選手にしろ、と言うのです。先生は驚きました。すると同僚の先生方から「あの親はいつもそうだ。姉の時もそうだった」「別にお金がかかるわけでもないし、言う通りにしてあげたら……」などのアドバイスが出てきました。先生は根負けして、怒鳴り込んできた保護者に対して「リレーの選手にします」と答えました。当然、保護者は喜んで何度も頭を下げて帰りました。これで一安心です。

 しかし、今度はこれに関連した別の問題が起きました。

「うちの子ははじめて選手に選ばれた。親子で喜び、新しい靴を買い、枕元に靴を置いて寝るくらい喜んでいる。いったいどうしてくれるのだ」

 一度は選手に選ばれたのに、それを召し上げられた子どもの保護者からの抗議の電話です。

 結果として、先生は双方に「すみません」と頭を下げ、怒鳴り込んできた保護者の子どもを選手にして何とかその場をおさめました。でも、この件がきっかけで、親同士が犬猿の仲になってしまいました。しばらくして学年末になると、再度ひとり目の保護者から電話がかかってきました。

「あの親の子と同じクラスにしないでほしい。リレーの選手を決定する時も、こちらの気持ちをわかってくれたのだから、今回もぜひ聞き入れてほしい」

 ここでようやく、先生は気がつきました。

「お金がかかるわけでもないし」と安易に譲歩したことが、あのような保護者を呼び込んでしまったのです。そして「次はどんな要求をされるのか」と先生はおびえるようになりました。

 

■筋の通らない要求は飲まない


 何十年にもわたって、このような対応を繰り返した学校側が、ごく普通のお父さんやお母さんを「学校にものを言ってくる親」=「モンスターペアレント」に育ててしまったように思えてなりません。しかし、学校に「モンスター」と思われている保護者は、自分が「バケモノ」だとは思っていません。子どものために、親として当たり前の主張をしているだけ、ごく普通の一般的な親だと思っています。

 こちらが一歩引けば相手は一歩出てきます。二歩引けば二歩出てきてしまうのです。何の信念もなく、追従笑いを浮かべて謝罪をして要求を飲めば、さらに相手に突っ込まれ、「要求の連鎖」になるのが常です。相手が、たとえそれが保護者であっても、筋の通らない要求に対しては、自信を持って毅然とした態度で対応することが重要です。「謝罪の連鎖」は高くつきます。