【第3回】Ⅲ | マイナビブックス

100冊以上のマイナビ電子書籍が会員登録で試し読みできる

シンパイとハッピー

【第3回】Ⅲ

2016.10.06 | 廣林尚易

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
シンパイは細い道に沿ってしばらく転がったが、草に絡まれて道端で止まった。黄色の枯れ葉の下に一匹のコオロギが震えながら隠れていた。やっと生き物に出会えた。シンパイは急いで声をかけた。
「ねずみがどこに住んでいるのか知りませんか?」
コオロギは声も出ないぐらいぶるぶる震えていた。やっとのことで首を横に小さく振った。
あまりにかわいそうと思い、シンパイはコオロギに言った。
「少し綿をあげられるよ。それでちょっとはあたたかくなるだろう。でもぼくはずっとここいるわけにはいかないんだ」
コオロギが縫い目の間からほんの少し綿を取り出して、首の周りに巻きつけた。こんなわずかでも体があたたかくなり、つやも徐々に戻ってきた。コオロギがお礼を言ってから、
「何でねずみを探すの?」とたずねた。
「ハッピーを取り戻すためさ。ねずみにさらわれちゃったんだ」
「ぼくは歌と音楽のことしか分からないんだ」。コオロギは申しわけなさそうに答えた。そして、すぐ思いついたように続けた。
「そうだ、スズメに聞けばいい。彼女は毎日空を飛んでいるから、何でも知ってるよ」。話しているところに一羽の小さいスズメが飛んできた。忙しそうに羽ばたきながら、地面に散らばっている小枝を拾いはじめた。
シンパイはさっそく聞いた。
「ねずみがどこにいるのか知りませんか?」
小スズメはあわただしくうなずいた。
「フェンスの近くのアリから聞いたことがあるわ。でも今すごく忙しいの。昨日の大風でドアが吹き飛ばされたから、今日のうちに造り替えなきゃ」
シンパイはちょっと悩んだが、すぐ決心した。
「ぼくの体から少し綿をとればいい。そしたらもう寒さにおびえることはないよ。お願いだからぼくをアリのところに連れていってくれない?」
小スズメはシンパイの体のうらから、ついばむように白い綿を少し抜き取った。シンパイはなんとなく薄くなり、ちょっとやせたみたいだ。それでもいいんだとシンパイは思った。これでハッピーにまた一歩近づいたじゃないか。

続きをご覧いただくには、会員登録の上、ログインが必要です。
すでにマイナビブックスにて会員登録がお済みの方は下記の「ログイン」ボタンからログインページへお進みください。

  • 会員登録
  • ログイン