【第2回】Ⅱ | マイナビブックス

100冊以上のマイナビ電子書籍が会員登録で試し読みできる

シンパイとハッピー

【第2回】Ⅱ

2016.08.31 | 廣林尚易

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
あるとても寒い夜だった。空気までも凍りついたみたいにぴりぴり冷えていた。
突然、一匹のねずみが現れ、箱の外側にいたハッピーをパッとくわえると、どこかへ連れ去ってしまった。
あたりは真っ暗やみで、風が木を揺らすゴーゴーという音しか聞こえなかった。箱に残されたシンパイはどうすればいいかぜんぜん分からない。ぼくが外側にいればよかった。彼女をしっかりにぎっておけばよかったと、そればかり悔やんでいた。
夜が明け、若いお母さんは手ぶくろが一つしかないことに気づき、箱の中をかき回してもう片方を探していた。
シンパイは一生懸命サインを出す。
「……ハッピーはねずみにさらわれたよ。急いで彼女を救わなきゃ……」
しかし若いお母さんにはぜんぜん伝わらない。彼女の目には、それはただかき回された手ぶくろの姿に過ぎなかった。
シンパイは居ても立ってもいられない。自分一人でもハッピーを連れ戻そうと、心を決めた。ちょうどお母さんがドアを開き、出かけようとした。シンパイは彼女の袖口をつかんで、こっそりと玄関の外に転がり落ちた。
地面に転落してから、シンパイは世界がぐんと大きく高くなったような気がした。澄み切った青空も前よりずっと冷たく遠ざかっているように見える。
出かける時は、いつもハッピーと一緒だった。それに、どこへ行くか考えたこともなかったし、考える必要もなかった。今全部一人で決めないといけない。これは本当に難しい。考えるだけで頭が痛くなる。でもシンパイはあきらめなかった。一生懸命考えた。
「ハッピーはねずみの家にいるはずだ。けど、ねずみの家はどこにあるんだろう」
強くて冷たい風がシンパイをぐるぐる吹き転がしていく。どうなるのかな。シンパイはどきどきが止まらないが、嬉しい気持ちも少しあった。何と言ったって今は動きはじめた。ハッピー探しの第一歩が成功したのだ。

続きをご覧いただくには、会員登録の上、ログインが必要です。
すでにマイナビブックスにて会員登録がお済みの方は下記の「ログイン」ボタンからログインページへお進みください。

  • 会員登録
  • ログイン