初めての首相の仕事を終えて友作が家に帰ってきたのは、十九時半であった。車が家の前に止まった事に気づくと友作の母は心配そうに玄関から出てきた。が、友作が元気に「ただいま」と言うと、友作の母はホッと一息を吐いて「おかえり」と出迎えた。友作は後ろを見た。車は既にいなかった。
「あ、そう言えば今、蘭ちゃん来てるわ。友作に会いたいって」
「蘭々が?」
「うん。ちょうど十分前に来たよ」
そう言うと、友作の母は玄関のドアを開け先に彼を入れた。友作はダイニングをちらと見た。蘭々が少し頭を下げて口元を上げて手を肩の辺りで小さく振る。が、目は微笑っていなかった。