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【第3回】1,Fujimino - (3)

2016.11.02 | 彩田眞里

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 二十分で総合庁舎に到着し、友作と英仁は総合庁舎の広々としたホールに入った。ここで任命及び就任式が行われると英仁は友作に伝えた。早くもテレビ局の者や新聞記者が詰めかけていた。友作は指定されたパイプ椅子に腰掛けた。周りにいるものは皆三十代から七十代の人々であった。友作のほかに十代は一人もいない。友作はだんだん緊張して来た。

「この会場の後ろにいるから、友作君、頑張れよ」

 英仁は友作の肩に右手を乗せてそう言うと、会場の後方へと去っていった。英仁がいなくなり、ますます友作の緊張が高まった。左隣に五十代のぽっちゃりとした、髪の薄い男性が腰掛ける。男性はふと友作の方に目を向けた。そして、口を半開きにしながら友作をまじまじと眺めた後、彼の左肩をつついた。

「君、子供だね。なぜいるの?」

 怪訝な口調で尋ねる。

「今回の就任式に坂戸首相から招待されているからです」

「へえー。君みたいな若造が招待されるとは……。いやおかしいぞ。君、本当にここに呼ばれたのかね?」

「はい。ここに座っておる方々は皆、国の幹部となる人達ですし……」

「よく知っておる。――って君も国の幹部となるのか?」

「はい。そうです。役職はまだおっしゃる事ができませんが」

 友作は敢然と答える。改めてその男性は友作をまじまじと眺めると、難しい表情で顔を前へと戻した。そして、「変な時代となったよなあ」と誰に問う事なく呟いたのであった。

 まもなく出席者が全員集まり、任命及び就任式が始まった。

 その頃には友作の緊張も少しはほぐれて、落ち着いていた。司会は今体制の閣僚から任命し始めた。

 任命は同時に就任を意味する。当然、任命以前に彼らがどの大臣となるのかは知っている。その様な理由によって、任命式と就任式は同時に行われる事となっていた。友作はこの閣僚の任命時に秘書から「外務大臣と防衛軍最高司令官の名前はしっかり覚えて」と忠告されていた。もちろん他の閣僚の名前も覚える様に努力した。

「外務大臣、出口(でぐち)(まこと)

 司会が低い声で任命する。出口慎も他の閣僚と同じく、壇場に上がり面白味のない普通の就任演説をすると、壇場を降りていった。彼の特徴と言ったら、円形脱毛症であることであった。

 そして、閣僚任命最後を飾るのが、防衛軍最高司令官であった。

「防衛軍最高司令官、武石走(たけいしはしる)

「はっ」

 低くとも良く透き通った美声の返事が会場を包み込んだ。他の閣僚は任命された時、何の返事もなく壇場を上がっていったから、友作は武石に好感がもてた。

 壇場に繋がる階段を武石は堂々と登る。さすがは軍の最高司令官だと友作は彼に見惚れた。武石は五十代でがっしりとした体格の大男だ。髪も豊富で半々に綺麗に分けられ整えられている。

 壇場横のパネルに武石の経歴が映った。〈入間市生まれ、入間市在住、国防大学校人文学部卒業、日本国時代の陸上国防軍幕僚長を務める〉と映されている。武石は壇場に上がり壇場中央のスタンドに立てられているマイクをスタンドから離して手に取ると、「こんなものは要らないですね」と言って再びマイクをスタンドに戻した。

 そして、生声の威勢よい就任演説が始まった。彼の演説が終わると、拍手が巻き起こる。

(武石さんかっこいい。かっこよすぎる)

 友作はすっかり武石を気に入った。そして次、司会から任命されるのがサイタマ国首相の友作であると彼が認識した時、彼は一瞬、自身の心臓が大きく高鳴るのを感じた。彼はうつむいて、目を静かに瞑り、息を大きく吸い込むと、静かにこれ以上吐けないという所まで息を吐き出した。友作は心を落ち着けて冷静になった。こう言う事には慣れていると友作は自分に言い聞かせた。彼は再び壇場を見上げて壇場左側の司会に目を向けた。司会と目があう。司会は少し頷いて、友作も頷き返した。

 間。

「さて、サイタマ国内閣総理大臣の任命を行います」

 司会は、ここで言葉を一回区切った。そして少し微笑った。会場の後ろの方でどよめきが起こる。

(やめてくれよ、緊張するじゃないか。早く任命してくれよ)

 友作はそう思った。

 間。

 友作の緊張が再び高まる。友作は自分が司会にいじられている様な気がした。友作の心臓がどくんどくんと波打つ。

「サイタマ国内閣総理大臣! 稲城友作!」

 閣僚の任命時の低い声と変わって高らかな声で任命した。

「はひっ!」

 反射的に友作は返事をした。緊張のあまり声が裏返ってしまった。会場は笑いに包まれたが直ぐ静かになった。そして会場にいる者皆、唖然、呆然した。友作は動揺しそうになったが、背筋を伸ばして堂々と壇場に上がった。

(ここで弱い所を見せたら負けだ)

 友作はそう自分に言い聞かせた。後ろでブーイングらしい騒ぎが聞こえたが、友作は気にしない。そして壇場の中心で仁王立ちになった。友作は自身の肝を座らせるため、会場の出席者と目を合わせた。騒ぎをたてる会場の一人一人にだまれと無言のメッセージを目で友作は送った。辺りは静かになってきた。友作と目を合わせたものは、驚いた表情を見せるものや、口を波の形にするもの、睨み返すが友作の目力に負けて目をそらす者などと様々である。坂戸が心配そうに慌てて壇場を駆け登ってきた。友作はスタンドに立てられているマイクを取って、マイクを口に近づけた。

「僕が、今壇場に上がって来た坂戸前首相に推薦されサイタマの首相となる事になった、稲城友作と申します」

 そして一度、友作はマイクを口から離した。

「下がっていて大丈夫ですよ」

 友作は坂戸に顔だけを向けて、自身が大丈夫である事を告げた。

「いや、私の方からも友作君について説明しなければいけません」

 坂戸はそう丁寧に切り返した。友作はマイクを坂戸に渡した。坂戸は壇場の中央に立ち、友作はその右側で堂々と立った。

「こちらが今紹介にもありました様に、私が推薦した、稲城友作です」

 パネルには、友作の経歴が映っている。〈上尾市生まれ、ふじみ野市立上福岡第一中学校在学、サイタマ県主催中学弁論大会最優秀賞受賞、英検準一級、作文コンクールで多賞受賞、日本教室ディベート連盟主催全国ディベート甲子園優勝。中学校では生徒会長を務めた〉出せる経歴は全部出してある。坂戸が続ける。

「友作君は、本当に若い。だからと言って馬鹿にするのであれば、あなた達は恥をかきますよ。パネルにもある様に彼は英才でありかつ、サイタマ想いだ。また、あなた達と違って若くて行動力がある。汚れてもいない、清らかな心の持ち主だ」

 さすがに言い過ぎだ、と友作は思った。坂戸は友作にマイクをにっこり微笑って手渡した。

「私には、叶えたい未来が三つあります。一つ目は、サイタマのみんなが幸せに暮らせる様に所得をあげること。二つ目は、震災で壊滅的被害を被ったトーキョーを緑豊かな都市として再生させること。三つ目は、足立首相が終わりにさせた日本を再興させることです!

 そしてなぜ坂戸さんが私を首相に推薦したのか。さっきの事もありましたが実際のところを申し上げますと、あなた達、閣僚さんに仕事を頑張って欲しいからです! 私はまだ子供で頼りないところがあります。なので、閣僚さん一人一人が頑張らねばいけない事も沢山あります。何もかも首相任せには出来ないから、かえって本来発揮されるべきあなたの能力が発揮され、それがサイタマの発展に繋がるのです。共に最高のサイタマを作ってゆきましょう!」

 友作がはつらつとした口調で演説をした。友作は会場のみんなに両手で手を振る。拍手喝采が沸き起こった。しかし一部の者は乗る気がないのかうなだれていた。それでも友作は十分と言えるほどの反応があって満足な気持ちであった。前首相の坂戸から壇場で首相任命書を礼儀正しくもらうと、友作は満足気に壇場を降りた。

 最後に司会は、「抑止力長、坂戸博直」と抑止力長である坂戸を任命した。

 会場は少しざわついたが、友作が呼ばれた時ほどではなく、あまり会場にいる者も「抑止力長」を意識する事はなかった。サッと就任演説及び任命書の授与が行われて、坂戸は微笑みながら壇場を降りた。

 任命及び就任式が終わると、その会場で昼食会が行われた。友作は新しい閣僚と一通り面会を果たしたが、昼食をとり終えると、帰り支度を始めた。

「では、初めての首相のお仕事をして来ますので、失礼致します」

 友作は会場にいる人々にそう告げると、秘書の英仁を連れて会場を出て行った。途中、記者団に囲まれた。

「サイタマの最年少のリーダーに選ばれた感想は?」

 彼らは四方八方から友作に色々と訊いてくる。

「記者団より今は被災者の方々と向き合わなければなりません」

 それに対し友作はそう大声で怒鳴りつけるように言って、そこを強行突破した。実際は記者団があまりに多すぎて誰が何を言っているのか友作にはさっぱり分からなかったので、時間があっても答えるつもりはなかった。二人は車に飛び込む様に乗り込んだ。物分りの悪い記者はそれでもついて来る。

「なんでこんなにしつこいのでしょうか?」

 友作は記者の態度に怖気づいて英仁に訊いた。

「あれが彼らの仕事ですから。情報を集められるのならば彼等はどんな手でも使う。まあ、友作君、これからは彼等とも多く関わる様になるので慣れてください」

「は、はい」

 友作は完全に呆気に取られた状態であった。

 初仕事は、震災で壊滅的被害を被ったトーキョーに行って世田谷区にある住宅地のがれきの片付けをNPOのボランティアと共に行った後、杉並区の避難所に行き被災者を励ましに行く事であった。この予定はもちろん友作本人が考えたもので、被災された方を一人でも多く元気付けたいという理由からであった。荒川を越えトーキョーに入ると徐々に重い空気が漂い始めた。友作は震災以来、トーキョーに行っていないので、これが震災以来初のトーキョーとなった。

「一応、車内でもマスクを着用して下さい。この辺りはまだ捜索の手が回っていない所もありますから」

 英仁は友作に使い捨てマスクをサッと渡した。

「あ、ありがとうございます。え、その話本当ですか?」

「その話って?」

「捜索まだしていないという事ですよ」

 友作は少し憤りながら言った。

「仕方がないじゃないですか、トーキョーは狭くて密集しているから捜索しにくい」

「他国から支援して貰っていないのですか」

「ああ、あんまり……混乱していたからね」

「ダメじゃないですか、早速他国の捜索及びがれき撤去の支援を行ってもらえる様に外務大臣を通して世界に発信して下さい」

 友作は鋭く目を細めながら、口を尖らせた。

(なんだよこいつら、閣僚たちは怠けているのか?)

 友作の命令に英仁は少し戸惑いながらも、少し間をおいた後、「分かりました。後で外務大臣に報告しておきます」と丁寧に返答した。

 友作は車窓から変わり果てたトーキョーの姿を見るたび驚き、悲しむ表情を見せた。

「ここの辺は特に地震による火災で多くの方が亡くなられた地域です」

 英仁が声のトーンを落として説明する。

 友作はその黒い風景を眺めて現実に起きている事だとあまり理解できなかった。友作もこの辺りは火災旋風であまたのものが焼き飛ばされ、多くの者が亡くなったと言う事実は新聞やニュースで知っていた。しかしこれがサイタマのお隣のトーキョーで起きたと言われるとあまりピンとこなかった。

 車窓から見える風景は、全て炭素と化した炭の造形であった。友作は中学校の理科の授業でアルミホイルに花とか鉛筆をくるんで、思い切りガスバーナで熱して、炭にした授業を思い出した。色鮮やかな花も、最初は針だけ黒かった鉛筆も、数分のうちに黒い物体と化した。

 この風景は、理科の実験で起きた事の延長とも言える。この街は蒸し焼きにされたのだなと友作は理解した。四十分掛かってようやく現場に到着した。

 既にボランティアはがれきを片付ける作業をしていた。友作と英仁は作業着に着替えると早速ボランティアとがれきの片付けを始めた。

「若いからなんでも出来る万能リーダーですねぇ」

 作業中、地元紙の新聞記者が友作を面白がりながらそう褒めていた。

 次に友作達は杉並の避難所に行き被災者との交流をした。友作はここで被災者の方々に、より良いトーキョーの復興を約束した。避難者からの、友作がリーダーになった事に対する反応は、驚きと不安もあったが、友作を見て一安心したと言う事であった。

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