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俺と彼女の出会いは、ちょうど十年前、バイトに明け暮れていたハタチの冬の日のことだ。その頃の俺は、ビルの外側の窓を拭く清掃業者の仕事をしていた。
といっても、しょせんド田舎だ。東京や大阪などの都会のように、高層ビルがいくつも立ち並んでいるわけじゃない。たいした高さのビルなんか一つもなかった。
しかし、たった二階の高さにまでゴンドラが動いただけで、俺のひざは、がくがく震えてしまったのだった。
「おい、新人。下を見ると目がくらむぞお」
ともにゴンドラに乗り込んだオッサンが、俺に声をかけてきた。
「あ、ああ……はい。下を見ないように、きっ気をつけます……」
やっとの思いでそれだけ言えたが、まったくのウソだった。怖くてまともに下を見られないのだから、気をつける必要なんてなかったのだ。