【第3回】2 | マイナビブックス

100冊以上のマイナビ電子書籍が会員登録で試し読みできる

レンタラバーの奇跡

【第3回】2

2016.11.02 | じゃいがも

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

「ただいま」

 

 今日も暗闇と静寂が、雄二を迎えた。明かりをつけ、テレビのスイッチをいれる。

 ブラウン管の中で、最近売れ出した二人組みの女芸人がネタを披露していた。相方の容姿をネタに笑いを誘う芸風が、世間ではウケているらしい。興味があるわけではなかったが、チャンネルはそのままにした。

 出しっぱなしのコタツの上に弁当を広げ、発泡酒をあける。カシュッという小気味良い音が、部屋に小さく響いた。今日は、いつもの焼き鮭弁当が売り切れていた為、仕方なく唐揚げ弁当を買った。あのコンビニの唐揚げ弁当は初めてだが、やけに油っこく感じる。やはり、何かを変えると、そこには大なり小なりのリスクが付きまとう。

 テレビでは、別の芸人がコミカルに踊りながらネタを披露している。この芸人は、先日モデルとの交際が発覚し、世間を賑わせていた。決して端整とはいえない顔立ちに、お世辞にも面白いとはいえない芸風。交際相手のモデルは彼のどこに惹かれたのか。理解に苦しむ。

 

 (恋人か……)

 

 雄二は深い溜息をついた。

 先日、偶然、街で姪に会った。十歳違いの兄の娘で、もう十七歳になる。彼女は、彼氏らしき男性と腕を組み、幸せそうに繁華街を歩いていた。姪の交際相手は、確実に自分と同年代。三十前後といったところか。すれ違いざまに姪は雄二に気付き、バツが悪そうに会釈する。

 言葉は交わさなかったが、彼女の目は「父には報告しないでくれ」と訴えていた。

 ニッと笑みを浮かべ、頷く。また、雄二の心の隅で、チクリと音がした。

 かつて雄二にも、深く愛した恋人がいた。

 学生時代に友人の紹介で知り合い、自然に付き合いだすという在り来たりの始まりだったが、雄二には新鮮だった。彼女の笑顔は、いつだって雄二を癒し、元気付けた。たくさんの思い出も重ねた。

 女友達と映画を観に行った事がばれた時は、二日も口をきいてもらえなかった。誕生日に家に帰ると、部屋中に飾りつけがしてあり、彼女がクラッカーで迎えてくれた。離れ離れになった夢を見たと、夜中に泣きながら電話をかけてきた。

 幸せだった。彼女さえいれば、他には何も要らなかった。

 そんな日々が二年程続いたある日、彼女の友人から、衝撃的な事実を告げられた。

 彼女は、雄二の親友とも関係を持っていた。それまで親友と信じていた男は「俺は悪くない、あいつから誘ったんだ」と自らを弁護し、以来、関係は途絶えたままとなっている。

 そして生まれて初めて愛した女性は、最後にある言葉を残して去った。

 

「騙される方が悪いの。人は信用しちゃダメ」

 

 それ以来、恋人はおろか、親友さえも持とうとはしなかった。

 発泡酒の空き缶を潰し、再び溜息をつく。

 苛立つ気持ちを、無理やり腹の奥に押し込む。

 軽くシャワーを浴び、トランクス姿のままベッドに潜る。時計の針は、十一時を指している。

 

「はは、今日も定時だ……」

続きをご覧いただくには、会員登録の上、ログインが必要です。
すでにマイナビブックスにて会員登録がお済みの方は下記の「ログイン」ボタンからログインページへお進みください。

  • 会員登録
  • ログイン