【第2回】さがしもの | マイナビブックス

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【第2回】さがしもの

2016.08.16 | じゃいがも

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 わたしは見知らぬ街で、ひとり雨にうたれていた。

 昨日の夜から降り出した雨は、朝を迎えても降り続けた。

 わたしはビルの影に身を寄せたが、横殴りの雨は、わたしを容赦なくずぶ濡れにした。

 わたしは寒さに震えながら、あの人の事を考えていた。

 甘えん坊なわたしの頭を、いつも優しく撫でてくれる、大好きな彼。

 二日前に彼とはぐれ、わたしは独りぼっちになった。

 わたしの目の前を、たくさんの人達が通り過ぎてゆく。

 だけど、誰もわたしに手をさしのべてはくれない。

 助けを求めようにも、わたしの話す言葉は、彼らには通じない。

 泊まる場所も食べるものもなく、わたしは途方に暮れていた。

 その時、ひとりの男が、わたしに近付いてきた。

 

(彼じゃない!)

 

 わたしは、とっさに身構えた。男はにこやかにわたしに手を差し伸べてきたが、わたしにはわかる。この男は、これが生業なんだ、この男に捕まったら、もう二度と彼に会う事はできないと。

 男は、わたしの腕を掴み、わたしを連れ去ろうとした。

 わたしはそれを振り払うと、男の脇をすり抜け、全力で走った。

 道なんてわからない。

 それでも絶対に捕まるまいと、必死で逃げた。

 走って走って、走りまくった。

 どこをどう逃げたかわからないが、わたしはやがて、見覚えのある場所に辿り着いた。

 そこは、二日前に彼と訪れた公園だった。

 この公園を出てすぐ、わたしたちは離れ離れになってしまったのだ。

 

(ここで待っていれば、彼に会えるかもしれない!)

 

 わたしは、その公園のベンチで彼を待つ事にした。

 相変わらず雨は冷たかったが、それでも、ここを離れる気にはならなかった。

 わたしは、目の前を通り過ぎる人達の顔を眺め続けた。

 きっと彼は、わたしを捜しに来てくれる。

 わたしを見つけてくれる。

 わたしはそう信じた。

 しかし、そんな思いをよそに、雨は強さを増し、目の前を通る人も少なくなってきた。

 さらに陽も落ち始め、少しずつ辺りは薄暗くなってきた。

 その時、どこかでわたしを呼ぶ声がした。

 それは、聞き間違えようのない、彼の声だった。

 彼がわたしを呼んでいる。

 わたしは、声のする方へ走り出した。

 広場を横切り、ブランコの脇を走り抜け、噴水をくるりと半周すると、そこに彼がいた。

 彼はわたしを見つけると、傘を投げ捨て、両手を広げた。

 わたしは、そのまま彼の胸に飛び込んだ。

 

「ミーコ、ミーコ」

 

 彼はびしょ濡れのわたしを抱きしめ、名前を何度も呼んでくれた。

 わたしは喉をごろごろと鳴らしながら、彼に頬ずりをした。

 わたしの白くピンと伸びたひげが、彼は少しくすぐったい様だった。

 冷え切ったわたしの身体に、彼の温もりが伝わってくる。

 わたしは思わず「にゃあ」と声をもらした。

 あぁ、大好きな彼は、やっぱり何よりも暖かい。

 わたしはきっと、世界一しあわせな猫だ。

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