その2-1
お姉ちゃんがお父さんに婚約者を紹介してから1週間後
松坂家の居間、休日のお昼前な感じ
お姉ちゃん、妹、婚約者……そして婚約者と同じ格好した2人
お姉ちゃん というわけで、アタシの結婚相手候補の皆さんです。
婚約者・ニセモノ1・ニセモノ2 (声を揃えて)よろしくお願いします!
妹 あ、よろしくお願いします。……で、なに?お姉ちゃんは今なんと、この3人から同時にプロポーズをされている……ってそういう話でいいの、かな?
お姉ちゃん そう、そういう設定。
ニセモノ2 ニセモノです。
婚約者 本物です。
ニセモノ1 ニセモノです。(的なチョット面白い事を求む)
妹 あ、どうも。妹です。
お姉ちゃん 3人から同時にプロポーズされたら普通、困るでしょ?困るよね?
妹 うん、まあ困る。
お姉ちゃん そこで困った私はお父さんに助けを求めるわけ。「あぁ、お父さん、アタシはもうどうしたらいいかわかりません。あ、こうなったら、お父さんが、あ、お父さんが決めて下さい」
妹 ふんふん。
お姉ちゃん 「あ、お父さんの選んだ人なら間違いありません。あ、私はお父さんの選んだ人と、あ、一緒になります」……どうかな?
妹 ま、いいんじゃない。現代日本では全くと言っていいほどリアリティのない展開だとは思うけど。でもさでもさ、この2人は結局ニセモノなわけだよね?お父さんが万が一ニセモノさん選んじゃったらどうするわけ?確率的には2/3だよ。結構危険な数字なんじゃない?
お姉ちゃん だ・か・らん、そこ絶対あり得ないくらいにダメな男をニセモノには演じてもらうんだって。イメージとしては、ダニかゴキブリ。
妹 ダニかゴキブリ!?
お姉ちゃん いかにお父さんがこの人(婚約者)の事をダメ~な男だと思っていたとしてもさ、それよりもっとも~っとダメ~な男達と比べた時、きっとお父さんは気づくと思うの。「世の中、下には下がいる。あ、もしかしたらコイツもそんなに悪くはないか」って。ね!?
妹 とりあえずさっきから所々はいる「あ」がウザい。はー、でも面倒くさいねえ、親に婚約者認めさせるってのも。
婚約者 ごめんなさい、僕がどうしようもないゴミクズ野郎なバッカリに。
妹 あ、いや別にそういう意味じゃ全然。
お姉ちゃん というわけで、改めましてアタシの結婚相手候補ダミーのお2人です。
ニセモノ1・ニセモノ2 よろしくお願いいたします。
妹 あ、よろしくお願いします。見た目まで揃えた意味がよくわからないけど、そこはまあいいか。……え、ちなみにどっから連れてきたの?このダミー2人は。
お姉ちゃん アタシのね、大学時代の演劇サークルの先輩。
ニセモノ1・ニセモノ2 僕達は大学時代の演劇サークルの先輩です。
ニセモノ2 小林21万種類です。(※役者に合わせてよい)
ニセモノ1 角砂糖B作です。(※やっぱり役者に合わせてよい)
お姉ちゃん うわ懐かしいその芸名!
妹 あー、なるほどね!演じるのはお手のもんってわけだ。
ニセモノ1 やっぱりね、演技をする時はこの名前でないとね(突然大声で)「赤きゃりーぱみゅぱみゅぱみゅ青きゃりーぱみゅぱみゅぱみゅ黄きゃりーぱみゅぱみゅぱみゅ」!……あーあー、ううん(咳払い)。イマイチだな。まあ現役の時までとはいかないかもだけど、やれるだけの事はやらせてもらうよ。(21万種類に)な。
ニセモノ2 (不敵に)……B作さん、一緒にしないでもらえますか。
ニセモノ1 なに。
ニセモノ2 (突然大声で)「赤きゃりーぱみゅぱみゅぱみゅ青きゃりーぱみゅぱみゅぱみゅ黄きゃりーぱみゅぱみゅぱみゅ」!
全員 おおお!
ニセモノ2 「緑きゃりーぱみゅぱみゅオレンジきゃりーぱみゅぱみゅ黄金のきゃりーぱみゅぱみゅ」!……ありがとうございました。
妹 スゴーイ!
お姉ちゃん なんかダニやゴキブリみたいな役なんて演じてもらうには勿体ない程のキレ味とコクね。
ニセモノ2 どんな役でもベストを尽くす事にはかわりありませんから。……(婚約者に)ハイ、どうぞ。
婚約者 え!僕もやるんですか!「赤きゃりーぱみゅぱみゅぱみゅ青きゃりーぱみゅぱみゅぱみゅ黄きゃりーぱみゅぱみゅぱみゅ」(※リアルに上手く言えないと良い)……すみません!僕がどうしようもないゴミクズ野郎なバッカリに!
ニセモノ2 いや、今のはふった僕が悪かった!
お姉ちゃん そうよ、難しい、これはホントに難しいから。
婚約者 生まれてこの方この国で暮らしてきておきながら、ゴミクズな僕には日本語すら言いこなせない!
妹 日本語なのかな、きゃりーぱみゅぱみゅ。
ニセモノ1 ……いいかな?お義父様がお戻りになる前に幾つか確認できるとありがたいんだが。一口に「ダメな男」と言っても様々だ。見え方によっては逆に気に入られてしまう、なんて事もありえるかもしれないからね。
お姉ちゃん ……(妹に)お父さん、どこいったんだっけ?まだ大丈夫かな?
妹 どうだろ、駅前の酒屋さんから新たな事業計画について相談うけたって言って朝から出てったんだけど……まあもう、そろそろはそろそろだと思う。今日は巨人戦デーゲームだし。
お姉ちゃん そうね、じゃあそろそろはそろそろだ。よし、じゃあ、帰ってくるまで確認しましょう。アンタ(妹)玄関の方、見張ってて。
妹、玄関の方を見張る体勢(舞台の端の方へ?)
体勢を整える婚約者軍団
お姉ちゃん えー、まず基本的な所から確認すると、皆様に演じて頂きたいのはダニやゴキブリみたいなヤツです。
ニセモノ2 「ヤツ」に入るのは人間ね。
お姉ちゃん そうです。
ニセモノ1 それは(ゴキブリっぽい動き)日常からこういう事をしている奴という意味ではなくね。
お姉ちゃん なくです。それでお父さんに「こんな奴に娘をやれるか」って思いっきり嫌われて下さい。
婚約者 すみません、演技とはいえ、人に嫌われる役なんてやらせてしまって。
お姉ちゃん でもお2人が嫌われれば嫌われるだけ、そのぶん私達が幸せに近づきますので!
ニセモノ2 改めて大役だなあ、これは。
ニセモノ1 お義父さんの性格とか、どんな男が嫌いかとか、そういう具体的な部分も教えてもらって構わないかな。
お姉ちゃん あ、ハイハイ。性格ね、性格は……んー、なんか思ったより難しいな、家族がどんな性格かって伝えるのって。とりあえず巨人ファン。
婚約者 それ性格ではない気しますけどね。
ニセモノ1 なるほど。
お姉ちゃん (妹に)ねえ、お父さんの性格ってなんて答えればいいかな?
この辺りでお母さん、現れる
妹 え?そうだなぁ、たしかに良い面も悪い面も見え過ぎてるから難しいよね、身内って。
お母さん、妹に近づき何かゴニョゴニョと耳打ち(妹には見えていない)
妹 まあそうだなぁ……(耳打ちに従い)おだてにのりやすい。
お姉ちゃん ああ!うんうん!
妹 それでいて結構うたぐり深いから、あんまり適当におだて過ぎると後が面倒くさい。
お母さんの姿は婚約者にだけは見えているような様子
婚約者 ……?
妹 偉そうな奴が好きじゃない、そのくせ自分は人前で威張りたがる、意外にツンデレ、2人になると甘えてくる……あれ?なんかバンバン出てくるお父さんの事!2人になって甘えられた事とか別にないのにそんな情報までなんか浮かんでくる!
お姉ちゃん ……アンタ、2人の時お父さんに甘えられてたの?
妹 いやだから違うって!今まさに全力で否定したでしょそれ!
ニセモノ1 あんまり全力で言われると逆にまたね。
この辺でお母さん、キュートに帰る
ニセモノ2 今更気がついたんですけど、これ……全部アドリブでノーミスで乗り切れって相当厳しくないですか?
お姉ちゃん ちょっと!今更そんな!お願いしますよ~!
ニセモノ2 いや最初はさ「オラ!娘さんよこせバカヤロー!」とかやればいいのかななんて思ってたんだけどさ、あんまり具体的な性格の情報とか聞いちゃうと……大丈夫かなって。
お姉ちゃん だから今更そんな!お願いしますよ~!
ニセモノ2 だからだからだから、もしなんか詰まっちゃったりした時かなんかに「タイム!」とかかけられれば……まだなんとかなるかもって気がするんだけど。
お姉ちゃん タイム……。
婚約者 タイムですか……。
ニセモノ1 たしかに。「ショー・マスト・ゴー・オン」がB作達俳優の根底に流れている考え方なのに間違いはない。しかしこの場合はさすがにタイムが必要かもしれない。
お姉ちゃん ……わかりました。タイム制度導入しましょう!「ちょっと一瞬みんなで確認したいな」ってなったらタイム、掛けて下さい。そしたら緊急対策会議突入です。
婚約者 え?お義父さんは?その間、放置?
お姉ちゃん 大丈夫。ウチの妹にその間、父の目、鼻、耳を塞いでおいてもらいます。
妹 え!何!?ちょっと待ってアタシ!?
お姉ちゃん 極々自然な感じでよろしく。
ニセモノ1 鼻は別に大丈夫じゃないかな。目と耳だけで。
婚約者 たしかに。鼻まではさすがに大変だよ。(妹に)ねえ?
妹 いやいや鼻のあるなし気にしてくれんのありがたいですけど、より先にさ!そもそも自然な感じで目やら耳ふさぐなんて一体どうやって……!
お父さん(声) ただいまー。