いじめられ屋
ほんの数日前まで、僕はいじめとは無関係だった。
誰かをいじめたことも、誰かからいじめられたこともなかった。友達と喧嘩をしても、しばらくすると仲直りできた。我ながら人間関係においては優秀な小学校時代をおくったと言える。
そんな僕だから、中学校に進学してもみんなと当然うまくやっていけると思っていた。
実際、1学期はうまくやっていたのだ。ところが夏休みが終わり、2学期が始まったころ、僕はとんでもない事件に頭から突っ込んでしまう。それも自分から。自業自得? 墓穴を掘る? なんでもいい。とにかく黙っていればいいのについついやってしまったのだ。
同じクラスの中に「谷原」というやつがいた。あだ名は「ダニ原」。ダニのように相手にしつこくからんでは生血を吸う。そんなたちの悪い根っからのアウトロー気質をもつやっかいな人物だ。親は得体のしれない商売でそうとう阿漕なことをやって成り上がった人物のようで敵が多い分、身内には異様に甘い。その恩恵を一身に浴びてすくすくと怪物が育った。それがダニ原だった。