「だけど、問題はここからなの」理奈が擦れた言葉を続けた。俺はソファの下で身を寄せ合う三人に近づき、ゆっくりと腰を下ろして目線を同じ高さにした。
立っていると、足の震えが兄弟たちにばれてしまいそうだった。
「このお店、私たちの家すらも、盗られてしまいそうなの」
近づいて初めて気づいたが、理奈も小さく震えていた。思わず手を差し伸べようとした瞬間、海斗の分厚い手ががっしりと理奈の肩をつかんだ。お袋と理奈を同時に抱えながら、海斗は黙って俺にうなずいた。弟にならい思わずうなずく。
「……お母さん、この家を、その宗教の支部にする約束をしたらしいの」
「家を支部に?」
理奈は一旦黙り、何かと一人で格闘するかのようにしばらく固まったが、やがて再びぼたぼたと涙を絨毯の上に落した。夕方に受けた理奈のメールから、何度も頭が揺れる衝撃を味わってきた。一撃で体全体が止まらぬ回転を始めたように定まらない感覚に陥る。
「うちのお店の、不動産の名義を、その宗教の幹部たちが奪おうとしていて……。お母さん、この家を『集会場』にする約束をしちゃったって」
俺は理奈の言葉を遮るように、お袋の方を無意識に見た。睨んでいたのかもしれない。
お袋はもう謝らなかった。生気が抜け切ったように、視線はどこも定めず、ただがっくりと下を向いたまま動かなかった。
「一体、お袋に何があったっていうんだよ」
俺は無意識に自分の口から出た言葉に、数秒してから驚いた。
リビングにいる全員が、一番恐ろしい沈黙に対して、何も対抗できないまま少しの時間が経った。