【第1回】第1場「本日も晴天なり」 | マイナビブックス

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無気力宇宙船メロディライナー55号 上演台本

【第1回】第1場「本日も晴天なり」

2016.08.01 | 鈴木智晴

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第1場「本日も晴天なり」

 

舞台下手面に出ハケ口、上手奥には宇宙船のモニターとなるホワイトボードがある。舞台中央奥には「正」の字が書かれた紙が何枚か貼ってあり、舞台上の椅子のようなものに座りながら田中と毒島が舞台袖を見つめている。

「宇宙戦艦ヤマト」の符割りでぐずぐずの歌を歌っている。

 

田中   ♪暇だー暇だなー

毒島   ♪暇だー暇ですー

田中   ♪暇だー

毒島   ♪暇です

田中   ♪ワワワワワ

田中   ひぃーまーだー(高音パート)

毒島   ひぃーまーだー(低音パート)

 

微妙な間

 

田中   2人ともハモリパート歌ったらダメだろう。

毒島   …仕方がないじゃないですか、2人しかいないんだから。

田中   それでもどっちかが普通に歌えば良いじゃない。

毒島   僕が歌うのは嫌です。面倒くさいのはお断りです。

田中   あのね毒島君、聞きなさい。この歌は僕が知っている20世紀の歌で一番好きな歌なんだ。だからさぁ、頼むよ。人間ってさ、人生に一度は困難に立ち向かわなきゃいけない時が来るんだよ。

毒島   それが今というのも嫌ですし、船長が歌えば良いじゃないですか。

田中   ちょーっと毒島くぅーん。冷たいんじゃなーい?船長という生き物は寂しいと死んじゃうんだよ?

毒島   知りませんよ。嫌なものは嫌なんです。

田中   はぁーあ。冷たいクルーを持つと船長は苦労しますよー、っと。こちらはメロディライナー55号、こちらはメロディライナー55号。宇宙人の皆様、聞こえましたでしょうか?これが地球の歌でございまーす。

 

 

田中   はい、本日も返答ナシ、と。代わり映えしない毎日だねぇ。

毒島   良いじゃないですか。楽ですし。

田中   楽か…。あ、ねぇ毒島君、この話知ってる?人類って21世紀にさ、地球から北極星に向けて音楽を発信した事があるんだって。直径70メートルのでっかいパラボラアンテナからデジタルファイルを宇宙に向かって送信。何て曲だったかなぁビートルズの、まぁいいや、で、それがどうなったか知ってる?

毒島   さぁ?

田中   見事にスルーされた。

毒島   でしょうね。

田中   でも、人類は懲りなかった。その後も音楽を宇宙に発信し続けた。

毒島   無駄な事をしますね。

田中   そう、大いなる無駄。無視されて無視されて、無視されすぎて宇宙に飛び出した。じゃあ近くで歌ってやるよってさ。馬鹿だよねぇ。

毒島   えぇ馬鹿ですね…で、それがどうかしたんですか?

田中   その馬鹿と無駄に乗っかって飯を食ってる俺らってどうなのかな…?

毒島   …船長、それは実家に帰ってラーメン屋を継ぎたいという事ですか?

田中   いや、そういう訳じゃ…。

毒島   「らぁめんたなか」を継ぎたくないなら文句を言わずに働いて下さい。どうして今更そんな無駄な話をするんですか。

田中   何かさあ…こういうのって、こう、仕事になっちゃうと何か切ないなぁって。

毒島   はいはい。そんな、いるかどうかもわからない物に本気にならないで下さい。

田中   なぁ、毒島くん。

毒島   なんですか?

田中   実際、俺らが宇宙人捕まえたらどうするよ?

毒島   どうするって…その辺は僕らは考えなくて良いんじゃないですか?

田中   そうかな?

毒島   そうですよ。捕まえたら船内で死なないよう保護、地球に着いた後研究機関へ送って、僕らは英雄。そうマニュアルに書いてありますし。それで良いじゃないですか。

田中   そういうもんかな?

毒島   そういうもんです。

田中   そうか…。

毒島   なんですか船長?何か問題でもあるんですか?

田中   んー。

毒島   もし見つけて帰れば、報酬だって通常の10倍貰えて、その後の地位も保証される。これ以上なにが問題なんですか?

田中   ん?あ…ほら、宇宙人つってもやっぱ家族とかいるんじゃないかなぁ…ってさ。

毒島   え?

田中   だって俺達だって親兄弟がいるだろう?うちだって実家はラーメン屋なわけだし。だったら、宇宙人にも家族がいたって不思議は、ないかな…と…それを勝手に連れていくって…

毒島   アフッ、アフッ、ムフーッ!ムフーッ!ムフーッハフッハッ!

田中   え、なに?

毒島   いやいや、船長、ちゃんちゃらおかしいです。

田中   あ、笑ってたの?

毒島   船長、宇宙じ…アフッ…アフッ…宇宙人船長…、

田中   俺は地球人だよ。ああもうわかったよ。

毒島   あー、アフッ面白い。だって船長考えて下さい。僕らが妄想で宇宙人と呼んでいるリトルグレイってのがいるでしょう?

田中   うん。

毒島   例えばアレの親子がいたとしましょう。

田中   …うん。

毒島   アレが大人だとしたら…大人だとしたら子供はどれだけ小さいんですかーッハッハッハッ!

田中   待って待って待って、その面白さが全然分からないよ?

毒島   いいですか!(立ち上がる)

田中   え、何?

毒島   リトルグレイは、このくらい!(腰辺りを指す)

田中   …うん。

毒島   そ、その更にリトルなグレイは…グレイはーッッハッハハッハ!!

田中   だからわかんないって!

毒島   たくさんのグレイが…、

田中   怖いよ、なんだよその妄想。とりあえず、歌でもうたって一旦落ち着こうよ。次は毒島くんメインで。さんはい、

毒島   何をしれっと誘導してるんですか。だから嫌ですって。

田中   歌って

毒島   嫌です

田中   歌って

毒島   嫌です

田中   歌って

毒島   嫌です

田中   歌って

毒島   嫌です

田中   歌ってくんなきゃ、

毒島   死ぬんでしょ。

田中   んもぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

毒島   …なんですか。

田中   プイッ。(体育座り)

毒島   なにをスネてるんですか。…もう…いい大人でしょう。ちょっと、船長。

田中   …。

毒島   船長。

田中   …。

毒島   …めんどくさい人だ…。

 

上手よりお菓子(ポテチ)を食べながら盛登場。

 

盛    ちょっとアンタら、夕食出来たって!食って良いの?!先食って良いの?!

毒島   あぁ、盛さんちょうど良い所に。

盛    全然ちょうど良くなぁーい。アタシは腹が減ってんの。アタシをポークチョップが待ってるのぉー。お口の恋人が今そこに、食堂室で待ってるのぉー。

毒島   船長、どうやら夕食の時間らしいですよ(田中を見て)めんどくさ!あー、申し訳ありません。実は、アレ…。

 

毒島、田中に視線を送る。

盛、察する。

 

盛    何が原因?

毒島   僕が歌を歌わなかったから。

盛    何ソレ?

毒島   途中までは仲良く歌ってたんですけど。

盛    アンタら仕事する気あるの?まぁいいわ、アンタのポークチョップ半分貰うわよ。

毒島   半分は多すぎますよ。

盛    じゃあ、あのふて腐れた塊を放っておく?

毒島   確実に後で余計面倒な事になりますね…。

盛    そうよ、後でネチネチ言われるのはアンタよ。

毒島   わかりました。半分あげます。

盛    よーし!

 

田中の傍に歩いていく盛。

 

盛    船長ぉ~。

毒島   !

田中   …。

盛    お腹空かない?

田中   …。

盛    アタシぃ、船長と一緒にご飯食べたいな☆

田中   …。

盛    いつまでもスネてる男は、モテないぞ☆

田中   …お前だってモテない癖に。

毒島   !!(盛に抑えるようジェスチャー)

盛    (頷く)…ポークチョップの為…ポークチョップの為…ポークチョップの為…(落ち着く為に手に持っていたポテチ(堅あげが理想)をボリボリ食べる)誰が、モテないのかな?そんな事言ったらヒロコ泣いちゃうぞ☆

田中   どうせ目から脂が出るんだろ。

盛    ポークチョォォォォップ!(全力でチョップをかます)

田中   ぎゃぶッ!

毒島   あぁぁぁぁぁぁあ!

盛    んっだとメガネ!オラァ!人が下手に出てりゃ調子に乗りやがって!

田中   黙れ!略してポテ子!

盛    ポテロングと呼べ!

毒島   盛さん、大差ないです。

田中   ポテ子にモテるとかモテないとか語られたくないわ!自分だってお口の恋人しかいないくせに!

盛    お口だけでも恋人がいりゃ上等じゃい!

毒島   盛さん止めて下さい、それは盛さんの片想いです。

盛    何さりげなく人をバカにしてんだ剛毛!テメェ!

毒島   ご、ごうも…!

盛    そもそもメガネ!お前、今23世紀だぞ!なんでメガネなんだよ!

田中   レトロだよ!20世紀だよ!

盛    何がレトロだ!からくり人形みたいな顔しやがって!江戸か!

田中   江戸…!

盛    お前みたいなヤツが未だにネコ型ロボットの完成を待ちわびてるんだよなぁ。バカも休み休み言えつーの!あれ22世紀だろ?やっとこ宇宙圏に通じる電話とネットを開発したってのに、自我を持つロボットなんか出来るワケないじゃん。

田中   き、君ねぇ、言って良い事と悪い事があるよ!そもそもね、宇宙人を捕まえるなんて荒唐無稽な事を国をあげて仕事にしてるんだから。4次元操るロボくらい完成しても良いと、思い、たい。な。

盛    最終的に希望かよ。…はぁーあ、やってらんない。あ、毒島。ご覧の通り船長は元気を取り戻してロマンを語ってらっしゃるので約束通りポークチョップ一皿貰うから。

毒島   え?

盛    それと、これだけ不愉快な目に遭わせた罰として今日の航海日誌アンタかそこのメガネのどっちかが書いてよ。それじゃ。アタシはお先に夕食いただきます。

 

盛退場。

 

毒島   …一皿…?

田中   ねぇ、盛君のさっきの言い方酷いよねぇ?

毒島   ああ、ネコ型2足歩行機械の事ですか。あー、まぁ確かに。

田中   とにかくね、俺の前でSFバカにするやつは許さないよ!だってさ、まぁ、ロボットっつっても色々あるじゃない?その中でも取り分け2足歩行…、

毒島   その話、もう聞き飽きましたよ。この船乗ってから何回話すつもりですか。

田中   もう一回だけ聞いてよぉう。

毒島   一回500円ですよ。

 

毒島、正の字に一本書き加える。

 

毒島   はい、どうぞ。

田中   でさでさ、だって俺たちの仕事はまず宇宙人の捕獲…、

 

SE.警告音

突如舞台上の明かりが赤く点滅、けたたましい警告音が鳴り響く。

 

2人   ?

田中   なんだ?緊急事態か?

毒島   船長、もしかしてこれは…噂をすればなんとやらの…リトルグレイなんでは?

田中   え、宇宙人?!ま、まじか…!(あたふた)

毒島   船長!とにかく他のクルー達を招集しましょう!

田中   あ、ああ!(あたふた)

 

警告音、止まる。

 

2人   ?

マザ山  夕食ガ出来上ガリマシタ。タダチニ食堂ヘ向カッテ下サイ。

毒島   今?!

田中   メシかよぉぉぉぉぉ!!

毒島   マザ山さん。

マザ山  ナンデショウ。

毒島   艦内放送をする度に警告音を鳴らすのを止めて欲しい。

マザ山  ゴハンガ冷メマスヨ。

田中   冷めても構わないから。

毒島   …で、今日の献立は?

マザ山  今日ノマカナイ?

田中   ランク下がっちゃったよ。

マザ山  冷ヤシ中華ダヨ。

毒島   最初から冷えてるじゃないか。

マザ山  ソンナコト言ッテモ、アンタラガイツモ来ルノ遅イカラ、マザーノゴハンカッピカピニナルノヨ。スコシハ、アイジョウコメテゴハンヲ作ルマザーコンピューターノキモチニナッテホシイモノダワ、マッタク。ホント。

毒島   完全に自分の過失棚に上げてますよ。…機械に愛情なんてあるんですか?

田中   あるわけないだろ、愛情なんて。

マザ山  アイジョウビーム。

 

SE.ビーム発射音

 

2人   うおっ!!

 

2人、派手なリアクション。

 

田中   ちょっ、マザー!コレは愛情じゃない! 熱量の塊だ!

マザ山  アナタタチニ、オ熱ナノ。

 

何発もビームが発射される。

 

田中   上手くない!

マザ山  食堂マデゴアンナイイタシマス。

田中   熱ッ!尻ッ熱ッ!

毒島   殺されます。殺されますよ、このままじゃ。

マザ山  キリキリ歩ケ!

 

SE.ビーム発射音

 

2人   ヒィッ!!

 

暗転。

 

ナレ   時は23世紀。地球は核の炎に包まれる事も無く今も昔と変わらぬ時を過ごしていた。人口増加、水位上昇、新種の病気、あらゆる困難をなんとかかんとか乗り越えた人間の欲望の目は、現実を見失い宇宙に向くようになった。「宇宙人の発見」それがいつしか人類のテーマとなっていた。我先に宇宙へ飛び出し見つけてやろうと我を忘れた。誰かが描いた絵空事、そんな事すら仕事になった未来。果てないロマンを追い求め宇宙を駆け巡る、純国産、日本発日本製宇宙探査船メロディライナー、これはその55番目の物語!

 

「無気力宇宙船メロディライナー55号」のタイトルが舞台上に浮かび上がる。

田中、古めかしいテープレコーダーに声を吹き込んでいる。

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