開始
ここは閉鎖された島国のとある学び舎。小、中、高の12年間の寄宿学校であるため、外界の情報を知る術はほとんどない。そのため、この学び舎では、教師による生徒たちへの専制的な教育がまかり通っている。生徒たちは勉学、運動以外の全ての娯楽を禁じられ、劣等生には厳しい処罰が課せられており、極端な処罰においては、生徒が死に至ることも少なくはない。このような厳しい学則は教義(dogma)の教えとしてまず、生徒たちを啓蒙する。生まれながらに教義以外を知らない生徒たちはこのような死と隣り合わせの学業を日常として認識し、決して死や挫折を恐れることのない修羅のような生き方をリストラクチャーされている。
397人の生徒が処刑された。卒業を迎えるための最終テストで満点を取ることができなかった397人の生徒が処刑された。12年間を寄宿学校で過ごし、その最後の12年目を終えた生徒405名のうち、合格者は8名のみだった。一組、クスノキ。二組、ユウキ、ナワ、チグサ、イガ、アシカガ。4組、アカマツ、ニッタ。三組に合格者は無く、合格者を輩出出来なかった担任のホウジョウは、当校教義第三章罰則規定により、処断を迫られた。ホウジョウは卒業式前日まで監房に拘束され、処刑の日を待った。また、別件で問題を起こした二組担任のゴダイもホウジョウと同じく監房で時を過ごしていた。最終テスト結果で処刑を宣告された生徒の恩赦を求め、学年主任モリクニに抗議を申し出たためである。罰則規定に逆らい、教師がストライキを起こすことなど前代未聞の事件であったため、モリクニはゴダイの処分に戸惑っていた。闇の中からミナモトの号令。
ミナモト 3月17日卒業試験終了!合格者は8名。除外397名の処刑を敢行す!そしてこの期に、除外397名の挫折者に対する恩赦を嘆願した2組担任ゴダイミワを、教義反駁の恐れがあるとし、拘束!また、3組における卒業試験合格者皆無の責任を問い、3組担任ホウジョウサユリに自決を申し渡す!両名は監房にてその身を清め、主任、モリクニタカシの下知を待たれよ!
①監房
ホウジョウ処罰の日の朝、監房にて相席していたホウジョウに、ゴダイは話しかける。傍らでは監視を任されたミナモトが腕組して立っている。
ゴダイ 清清しいお顔をしていらっしゃいますね。ホウジョウ先生。先生はこの処罰に不服ではないのですか?
ホウジョウ 異なことをお聞きになりますね。ゴダイ先生。私は、自分のクラスから誰一人、満点の者を出すことが出来ませんでした。死して校長に詫びなければなりません。処罰に不服などと、思う資格はないのです。
ゴダイ なれば、何故、微笑んでいられるのですか?
ホウジョウ そう見えますか?
ゴダイ ええ。
ホウジョウ ゴダイ先生は、ご満足な様子ではなさそうで。
ゴダイ 無論です。教え子たちの安否が気になって仕方がありません。私がこうしている間に、幾人が苦渋を舐めさせられているか・・。居ても立ってもいられません。
ホウジョウ ゴダイ先生。あなたは教義に対して批判を?
(ミナモトがゴダイを凝視する。)
ゴダイ (ホウジョウに)申し訳ありません。
ホウジョウ いえ、わかります。私にも懐疑的な時期がありましたから。
ゴダイ そうなのですか?では―
ミナモト ―お二人とも、それ以上を続けてはなりません。
ゴダイ ・・・・
ホウジョウ ・・・失言でした。しかしゴダイ先生、これだけはお忘れなきよう。
ゴダイ 何か。
ホウジョウ 歴然とまかり通った風潮に新しい風を入れるということは、より多くの悲しみを生み出すということでもあります。問うべきは生徒の幸福のみとお考えなさい。教師のあなたの、納得ではないのですよ。
ゴダイ ・・・・はい。
②卒業演習指示
(モリクニ、トクガワが現れる。ミナモトはモリクニに一礼して、監房へ入る。)
ホウジョウ それではゴダイ先生。来世で。
ゴダイ ホウジョウ先生・・・・。
(ミナモトはホウジョウを連れ、監房から去っていく。ホウジョウ、ミナモトはけ)
ゴダイ ・・・・おはようございます。モリクニ主任。
モリクニ お顔が優れないですねー、ゴダイ先生。睡眠時間をきちんとギブアンドテイクしてらっしゃらないんじゃないですか?
ゴダイ いえ、そのようなことはありません。
モリクニ 優秀な先生が、このように苔むした監獄に居座るいわれはない。先日の謀反は何かの気の迷いでいらっしゃったのでしょう?
ゴダイ そう申したほうがご都合がよろしいでしょうか?
モリクニ ・・・。昨日のテスツの採点結果はオールレディ、すでに?
ゴダイ いえ。
トクガワ 8人だ。
ゴダイ え?
トクガワ 合格者は8人。
ゴダイ それだけですか?他は―
トクガワ ―397人の生徒をこの手で殺した。
ゴダイ 397人・・・・。
モリクニ 2組は優秀でしたよ。さすがはあなたのクラスだ。5人も合格者が出ている。
ゴダイ 皆、死んでしまったのですか・・・・?
トクガワ 当然だ。無能は皆、挫折の道を通る。しっかりと勉学に励んでいればよかったものを。すべからく、残虐な死を遂げさせました。彼らには当然の報いです。
ゴダイ ・・・・そうですね。
モリクニ 破顔麗しくありませんな。処刑は校長にも拝見して頂いた。ウルトラに満足していらっしゃった。
ゴダイ 大変良い報せでございますね・・・。
モリクニ ええ!それはそうと。実は、あなたのクラスですが、少々不可解なことがございましてね、ゴダイ先生。あなたにお聞きしたい。
ゴダイ なんでしょう。
モリクニ 生徒たちにはきちんと教義を教えてティーチしていらっしゃいましたか?
ゴダイ ・・・もちろんです。
トクガワ 可笑しいですな。いや、2組の愚者を処刑する際にですな、思わぬ反撃を受けまして、ほら、見てください。(左腕の傷を見せる)彼ら、死を恐れていたんですよ。他のクラスは皆従順に処刑を受け入れたんですがね。これは前代未聞の事件です。教師に手を掛ける生徒など・・・。
ゴダイ 何かの間違いだと思います。
モリクニ ま、そうでしょう・・。そろそろいいですか?ゴダイ先生。
ゴダイ なにがでしょうか?
モリクニ いえ、頭はお冷えになったでしょうかと。
ゴダイ ・・・・。
モリクニ 教義に照らしますれども、挫折者擁護の前例などなかったもので、あなたの処断には困っていたのですが、確認させていただきたい。
ゴダイ はい。
モリクニ 実は本日の卒業式。特例ですが、卒業演習を行いたいのです。
ゴダイ !!
モリクニ 生徒たちに本当に卒業の資格があるのか、教義についての再テスツを行うといったものですが、久方ぶりに実施しようと思いまして、その担当をゴダイ先生、あなたに行ってもらおうかと。
ゴダイ 私にその大役を担う資質があるとは思えませんが。
モリクニ いえ、だからこそ、あなたに取り仕切っていただかないといけない。
ゴダイ 何故?
トクガワ あなたに対して疑問を抱いているからに他ならない!
モリクニ トクガワ先生。
トクガワ 失礼しました。
モリクニ 校長も出席なさる。このことはお分かり頂けますね。ゴダイ先生。
ゴダイ ・・・はい。
モリクニ トクガワ先生。
トクガワ はい。
(トクガワが監房に入り、ゴダイを連れ出す。ゴダイはモリクニの前に歩み出る。トクガワはモリクニの側へ戻る。)
モリクニ もちろん私やこのトクガワ先生も拝見させていただきます。この学校のあるべき姿を、是非先生の執る教鞭から学ばせていただきたい。これはその教典、テスタメンツです。お持ちでしょうあなたも・・。(黒い教典を手渡す。)
ゴダイ ・・・・光栄です・・・。
モリクニ ホウジョウ先生の最期を見届けましょう。