Period.1 一人
(音楽が止む。舞台中央奥にサス。サトゥルヌスが立っている。「サトゥルヌス」とはいっても、彼が常日頃から、自分自身が「サトゥルヌス」という名前であると実感していたわけではない。ただ、自分の名前は「サトゥルヌス」であると、陰で誰かに語りかけられているような、そんな気分だった。)
サトゥルヌス 楽園・・・・?
(たとえば、ここがなぜ楽園であるのかだとか、一体自分はどうなってしまったのかとか、取り乱して困惑してしまうなどの通常(・・)の(・)こと(・・)は、ここに来る者達がまず感じることではない。それよりも最も重要な事柄が脳裏に思い浮かぶ。
敵を殺し、楽園を去れ。
(サトゥルヌスは、右手に握られた一丁の拳銃、そして左手の中に埋もれている二発の弾丸を確かめる。)
サトゥルヌス 敵を殺し、楽園を去れ・・・・。敵・・・・?
(サトゥルヌスは拳銃に弾丸を込める。目を見開き周囲を見張り、敵の出現に備える。自分がどこから来て、どこに行くのか、記憶には霞がかかり、想い出を封鎖してしまっている。感じるのはただ、『敵を殺せ』という殺意のみ。恐怖も不安も全ての感覚までもが、殺意に塗り替えられていた。どこで鍛錬を積んだのか、拳銃を握るその腕には、確かに誰かを殺めた記録が憑り付いていた。)
サトゥルヌス 敵を殺し、楽園を去れ・・・。ただし、楽園を失うこと・・・。それをもっとも恐れよ・・・。世界の記憶・・。世界・・?・・思い出せ・・。
(サトゥルヌスの頭上のモニターに光が灯り、数字の「1」が浮かび上がる。)
サトゥルヌス 1・・・?
(舞台全体に緑がかった光が灯る。)
Period.2 二人
(上手脇からの物音(引き金を引く音)に咄嗟に反応して、サトゥルヌスは傍の窪みに身を潜める。拳銃を構えたパワーが現れる。目は血走り、獲物を探す。パワーが後ろを向いた隙にサトゥルヌスが窪みから躍り出て、一発弾丸を撃ち込む。)