【第2回】シナリオ2 | マイナビブックス

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【第2回】シナリオ2

2016.03.23 | 久間勝彦

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久美     (上手ドアより登場)恭平、今電話してた?

恭平     う、うん、ていうか、電源切ったつもりが切れてなくてさ、さっきのサラ金だよ。

久美     そっか、

恭平     しつこいよな、まったく。なんだよ。

久美     あのね、廊下の角に電話があったのね。

恭平     そりゃあ電話くらいあるだろ。

久美     じゃなくて、その電話、留守電のランプがピコピコしてたのよ。それで私なんだろって思って聞いてみたの。

恭平     メッセージか、

久美     うん、そしたらさ、駅前の銀行からで、定期預金がもうすぐ満期になるから引き続きお預けください、みたいな話なの。

恭平     銀行の営業か。ちくしょう、そんな電話が掛かってくるなんて、相当預けてんだな。

久美     そう思うでしょ。

恭平     百万、二百万じゃそんな電話掛かってこないさ。

久美     だよね。

恭平     有るところには有るんだよ金なんて。だけどその通帳も先客の奴が持ってっちまったんだよな多分。本当にもう一足早けりゃな。

久美     でも分んないよ。もしかしたら恭平が言ったようにまだここに有るかも。

恭平     まさか、いや、そうだよな。可能性がないわけじゃないよな。一千万、二千万なんて事もな。

久美     でしょう。

恭平     よし、こいつは本腰入れて探さなきゃな。久美、作戦変更だ、二人してまずこの部屋から片付けよう。

久美     一緒にやるの?

恭平     そう、一部屋一部屋順序良くだ。

久美     分った。

恭平     日が昇るまで徹夜でやれば時間はたっぷりある。

久美     隅から隅までしらみつぶしって事ね。

恭平     そういう事だ、(二人でそこら中に転がっている物や家具の中、飾りの置物を調べ始める)久美、あり得ないような所もちゃんと見るんだぞ。

久美     分った、

恭平     何か残ってるとしたら、誰もが見落とすような所だからな。

久美     見落とす様な所ね。例えば(冷蔵庫を開けながら)冷蔵庫の中とかも。

恭平     甘い、冷蔵庫だったら中に入ってる竹輪の穴も残らずチェックだ。

久美     なるほど、(竹輪を見つけ)あ、本当に入ってた。

恭平      (ベッドの上に飛び乗り、壁に掛かった額縁をひっくり返したりしながら)出てこい、出てこいお宝さん、

久美     (竹輪を)あれ、

恭平     絶対見つけてやるからな。(ベッドの毛布を剥がす。壁とベッドの間に落ちている人間の足が現れる。二人は気づかない)くそ、どこなんだ。

久美     (竹輪を)ねえ、これ新しいよ。

恭平     だったら食っちまいな。

久美     そういう事じゃなくて、今日の日付なのよ、ていう事はさ、

恭平     久美、しゃべってないでちゃんと探せよ。

久美     だけどこれさ(足に気づき)恭平、恭平、

恭平     何だよ。

久美     そ、それ。

恭平     (足を見る)ん?

久美     それ、もしかして、

恭平     な、な、な、何だよこれ~、人、人、人、人、人、

久美     人の…足だよね、

恭平     (覗き込み)く、く、く、久美、ひ、ひ、ひ、ひ、人が、死んでる。

久美     恭平、

恭平     うわ~、(パニック)

久美     落ち着いてよ恭平。

恭平     そうだ、落ち着け、落ち着け、落ち着け、(怒鳴る)落ち着けよ久美。

久美     何言ってんの。

恭平     も、も、も、もしかして、もしかして、もしかして、

久美     もしかして何よ、

恭平     さ、さ、さ、先、先、あき、あき、あき、あき、あき、ごう、ごう、ごう、ごう、

久美     (恭平を叩く)だから何よ、

恭平     先に入った奴ら空き巣じゃなくて、強盗殺人犯じゃないのか。

久美     どうすんのよ。

恭平     やばい、やばいやばい、絶対にやばいよ、

久美     分かってるよ。

恭平     こんなんで俺たちが犯人に間違えられたりしたら、冗談じゃない。

久美     逃げよう、逃げよう恭平。

恭平     そうだ、逃げよう(ドアに向かう)

久美     あ~、待って、

恭平     何だよ、

久美     指紋、

恭平     指紋、そうだよな。

久美     もうべたべたに付いてんじゃん、

恭平     どうしよう。

久美     どうしようって、拭き取るしかないじゃないの。

恭平     拭き取る、そうだ拭き取るしかないよな、でも、どこをどう拭き取るんだよ。

久美     あっちもこっちもそこら中、

恭平     そんな事出来ねえよ。

久美     何でこうなるの。

恭平     くっそ~、

重吉     う、う~ん、

恭平     ん?

久美     恭平、

重吉     あ、たたたた、う~ん、

恭平     …生きてるってか、

重吉     おい、おい、

久美     …恭平、どうしよう。

恭平     逃げよう、逃げよう久美。

久美     放っとくの、

恭平     しょうがないだろ。

重吉     お、おい、

 

(久美、重吉を覗き込む)

 

恭平     久美、

久美     大丈夫ですか、(恭平に)お爺さん。

恭平     関係ねえよ。

久美     このままじゃきっと死んじゃう。

恭平     とにかく逃げよう。

重吉     お、おい、おい、(手が見える)引っ張ってくれ。

久美     ちょっと待ってね、

恭平     やめろよ。

久美     (重吉を引っ張り上げようとする)よいしょっと、(上がらない)重い、もいっかいいきますよ。よいしょっ、(無理)

恭平     どけよ。(久美を押しのけ重吉を起こす)

重吉     いた、いたたた、痛い、たたたた、(重吉、ベッドの上に座る)ふう、ひどい目にあった。(一息ついた後、恭平と久美を見据える)

久美     あの、大丈夫ですか。

恭平     俺たち、その、何て言うか、

久美     怪しい者じゃないんです。

恭平     そう、あの、只の通りすがりで、

久美     (恭平に)家の中で通りすがりなんて無いでしょ。

恭平     そ、そうだな、俺たちあの、

重吉     (恭平に)いつ帰ったんだ。

恭平     え、

重吉     帰るんだったら、なぜ連絡を入れん。

久美     あの、

重吉     お前はいつもそうだ。

久美     (恭平に)知り合い?

恭平     んなわけないだろ。

重吉     政伸、

恭平     へっ?

重吉     政伸、

久美     ねえ、どうなってんの、政伸って誰、

恭平     そうか、呆けてんだよこの爺さん。俺を誰かと勘違いしてる。

久美     え、

恭平     そっか、話を合わせりゃいいんだよ。

重吉     政伸、

恭平     はい、

重吉     その女は誰だ。

恭平     あ、こいつ、俺の友達。

重吉     ガールフレンドか。

恭平     まあ、そんな感じ。

久美     そ、そう、えっと、政伸のガールフレンドです。よろしくお願いします。

重吉     (久美をじろりと睨み、恭平に)商売女か。

久美     えっ、

重吉     お前が連れて来たんだ、どうせろくな者じゃないだろ。

久美     何よ、失礼ね。

恭平     (耳打ち)気にすんなって。それより通帳とハンコ、どこにあるのか聞き出そう。

久美     何言ってんのよ恭平、嫌よ私、お爺さん死んでないじゃん。

恭平     堅い事言うなよ、

久美     信じらんない。

恭平     呆けた爺さんが金持ってても意味無いだろ。俺らで有効活用してやろうぜ。

久美     嘘つき、

重吉     政伸、

恭平     はいはい、何でしょう。

重吉     水をくれ、喉が渇いた。

恭平     水、はいはい、(久美に)水だってよ。(久美、仕方なく冷蔵庫に、後を追う恭平)お年寄りには親切にしようぜ。

久美     (ミネラルウォーターを取り出しながら)死んでなかったんだから、計画は中止よ。

恭平     なあ、久美、

久美     コップ探してくる。(上手に消える)

恭平     (重吉を見る)…孫かな。水すぐ持ってくるから、お爺ちゃん、(重吉、怪訝そうな顔)なんて、お父さん。

重吉     うん。

恭平     息子か。

 

(久美、コップを持って登場。久美に愛想笑いする恭平)

 

久美     知らない。(コップに水を注ぎ残りの水を冷蔵庫に戻す)

恭平     なあ、二人の未来の為にさ、

久美     やっぱり初めからその気だったんだ。

恭平     そうじゃないよ、そうじゃないけどさ、一千万二千万、へたすりゃもっとあんだぞ。

久美     どいて、

恭平     俺がやるよ。(久美からコップを受け取り)息子だってさ。(コップを重吉に)父さん、こぼさないように気をつけてよ。(飲み終わったコップを受け取り)もういいの、(久美を見て笑う)

久美     最低、

恭平     成り行きだよ成り行き、こういう展開なんだからしょうがないだろ。

 

(ドアホーンの音)

 

久美     こういう展開なんだ、どうすんの、

恭平     まさか、警察、

久美     どうすんのよ、

 

(再びドアホーン)

 

清次(陽気な声) ごめんくださ~い、ご隠居さ~ん、ご在宅でしょうか~。

久美     警察じゃ、ないみたい。

恭平     誰だよ、こんな時間に。

清次(声)  魚屋で~す、宝川商店街の魚金で~す、

久美     魚屋だって、

恭平     何で夜中に魚屋が来んだよ。

重吉     政伸、客だ。

恭平     あの、もう遅いから、放っとこうよ。(再びドアホーン)しつこいな、

久美     恭平、

恭平     こんな夜中に訪ねて来る奴がどうかしてんだ、放っときゃ帰るさ。

清次     あの~、電気点いてますよね。

久美     恭平、

恭平     まさか入っちゃこないって。

清次     おじゃましますよ、もうお休みかな~、

久美     入ってきてんじゃん、

恭平     何でだよ。

清次     (声)ご隠居、俺どうしても今夜中にさ、

恭平     久美、隠れろ、(恭平ベッドの下に隠れるが尻が見えている)

久美     隠れるって、

 

(下手ドアが開き野球のユニフォームを着た清次登場、久美入れ違いに開いたドアの後に隠れる)

 

清次     (酔っている)どうしても今夜中にご隠居に謝んなかったらさ、俺眠れねえからさ、(重吉を見て)あ、ご隠居いたね。改めまして、七代目魚金の清次です、ご隠居、この通りだ、申し訳ない。(土下座)

 

(久美はドアの後から見ている)

 

重吉     政伸、客だぞ。

清次     客、俺、客なんて大げさな者じゃないすよ、とにかく、俺ね、本当に申し訳なくってさ、いや、遅いのも分ってるんですよ、だけどね、だけど俺…(座ったまま前のめりに倒れ、いびきをかく)

久美     (顔を出す久美、恭平に近づき)恭平、恭平、(ベッドの下から出ている恭平の尻を叩く)

恭平     いて、(顔を出す)

久美     寝ちゃった、ただの酔っぱらい。

恭平     酔っぱらい、

久美     でも、ご隠居、ご隠居って、知り合いかもね。

恭平     とにかくまずいな、

久美     目を覚ます前にここ出よう。

恭平     そうするか。

 

(清次、突然顔を上げる)うっぷ、

 

久美     起きちゃった。

清次     (恭平の顔をじっと見た後)はばかり、

恭平     えっ、

清次     便所どこ、うぉっぷ、

久美     トイレ、トイレって、

恭平     どこだよ、

重吉     (上手を指し)廊下の突き当たりだ。

清次     うぉーぷ、(走って廊下の奥へ、暫くして唸り声が聞こえる)

久美     何なのあの人、

恭平     あいつだ、

久美     えっ、

恭平     (久美を部屋の隅へ引っ張り)あいつだよ。

久美     あの酔っぱらいを知ってるの。

恭平     だから、駅前の居酒屋で馬鹿騒ぎしてた連中の話をしたろ。

久美     恭平がこの家の事を聞いたって言う、

恭平     そう、商店街の草野球チームの奴らだったって言ったよな。

久美     あっ、

恭平     そうだよ、俺はその時隣の席で一人で呑んでてさ、そいつらは大人数で盛り上がってて、その時にこの屋敷と爺さんの噂をしてたのがあの男だよ。

久美     じゃあやっぱりお爺さんとは知り合いなんだ。

恭平     そんな事は知らねえよ、とにかくこの家の爺さんがものすごいケチで、金は腐る程あるのに商店街の寄付金なんか一銭も出さねえって話をしてたんだよ。身寄りも無いらしいから死ぬ時は墓場まで金を持っていくつもりだろうって。

久美     ちょっと待って、お爺さんは亡くなったって聞いたんじゃないの。

恭平     その時はまだ生きてたんだよ。死にそうな位年寄りだって話だけでさ。

久美     良く分かんない。恭平私に身寄りのないお年寄りが亡くなったって言ったじゃん。

恭平     だから居酒屋で噂を聞いたのは一週間くらい前。そんで俺もちょっとした好奇心でこの家の前を通ってみたのさ、それが三日前。そしたら玄関先に霊柩車が止ってるじゃないよ、俺はてっきり爺さんが死んだと思った訳さ。

久美     なるほどね、そのちょっとした好奇心っていうのが怪しいけど、やっぱり恭平のいつもの思いこみじゃん。

恭平     そんな噂を聞いた後だぞ、普通誰だってそう思うだろ。

久美     そうかな、

恭平     そうだよ、思うだけじゃない確信するよ。(久美、恭平を見てため息)あれ、何だよそれ。

久美     ごめんね、でも恭平の確信はいつも自分に都合のいい思いこみなのよ。

恭平     何だ、

久美     言いたくないけど、多分霊柩車も、ただ黒い車が停まってたのが恭平にはそう見えたのよ、だから恭平は、(固まっている恭平に気づき)あれ…恭平、

恭平     か~、頭来た。

久美     あのね、

恭平     言ったな、言ったな久美、

久美     恭平ゴメン、私言い過ぎた。

恭平     そうか、俺は幻を見たんだ、あれは霊柩車じゃなくてタクシーかトラックだったんだ。

久美     だから、可能性として、

清次     (トイレから戻る)いや、さっぱりしたな。

恭平     (清次に)おい、あんた近所なんだろ、見てないかな霊柩車、三日前、この家の表に霊柩車停まってただろ。

久美     恭平、

恭平     な、停まってたよな、見てないかな。

清次     ああ、確かに停まってたよ、霊柩車。

恭平     そうか、あんたもあの霊柩車見た、(久美に)聞いたか、聞いたか久美、これでも俺の思いこみか。この人もちゃんと霊柩車を見てるんだよ。

久美     …恭平、

清次     見たも何も、あの葬式を仕切ってたのは俺達だよ。

恭平     は?

清次     この先の路地を曲がった木下さんちの婆さんが亡くなったんだよ。そういう時は同じ町内のよしみ、みんな手伝うもんさ。

恭平     木下、さん、

久美     お婆さん、

清次     あそこんちの前は道が狭くて車なんか入らないからさ、出棺前の一時間くらいかな、こちらの玄関先に霊柩車待機させて貰ったんだ、何か問題だったかな。

恭平     あ、いや、

清次     そうかい。ところで、お宅ら誰、こちらご隠居の一人暮らしの筈だけど、

恭平     えっ、

久美     あの、私たち、

清次     それに、(見回す)この部屋何かあったの。

久美     あ~、それは、

重吉     強盗だ、

恭平     へっ、

重吉     強盗なんだ。

清次     強盗、

恭平     あ~、あの、

清次     ご隠居、本当ですか。(身構え恭平達を睨む)

重吉     通帳はどこだ、金を出せと脅された。

恭平     そ、そんな事、

清次     この野郎、(恭平の襟首を掴む)

恭平     ちょ、ちょっと待ってれよ、

久美     違うんです、私たち、あの、

清次     年寄りの一人暮らしを狙いやがったな。

恭平     う、だからそれは、その、

久美     強盗じゃなくて、でも、

清次     警察に突きだしてやる。

恭平     いてててて、

久美     やめてください、

重吉     政伸、

恭平     いてててて、

重吉     政伸、

久美     (叫ぶ)政伸、

恭平     は、はい、

清次     ん?

重吉     政伸、あの強盗はどうした。

恭平     えっ、あ、あの、

清次     政伸?

久美     二人で、撃退したのよね、政伸。

恭平     そ、そうそうそうそう、この必殺右ストレートでノックアウトよ。

清次     ノックアウト、

久美     でも、しぶとい強盗で、すぐに立ち上がって逃げちゃったのよね。

恭平     そうなんだよ、親父の事が心配で追いかけられなかったのが本当に残念だ。父さん、強盗は逃げちまったよ。

重吉     役に立たんな。

恭平     ごめん、ごめん、

清次     親父って、じゃあご隠居、この二人は、

恭平     息子、息子息子、

久美     そして、息子のガールフレンド。

清次     あ、何だ、そういう事、あそうか、俺もうてっきり、いや参ったな、早く言ってよ、いや申し訳ない。

恭平     いいって事、気にしないで、誤解を招く様な状況だったから。

久美     そ、そうよね。

清次     悪い悪い、でも、強盗に入られたなんて物騒な話だね。警察に連絡は、

恭平     そ、それなんだけどね、とりあえず親父も無事だったし、

久美     そう、それが何よりだもんね。

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