【第3回】シナリオ3 | マイナビブックス

100冊以上のマイナビ電子書籍が会員登録で試し読みできる

【第3回】シナリオ3

2016.03.24 | 久間勝彦

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

清次     しかし、

恭平     ところで、おたくは、

久美     何か、ご用ですか。

清次     あ、俺、あ~そうだよね。こんな遅い時間に、非常識だよね、いやこれまた申し訳ない。遅いのは分ってたんだけどね、どうしてもこちらのご隠居にお詫びしたい事があって、

恭平     お詫び、

清次     実はね、

 

(ドアホーンの音)

 

久美     今度は誰、

ノリ(声)  こんばんは~、

タンキチ(声) 夜分すみませ~ん、

清次     あ、あの声はノリとタンキチだな、

久美     え、

ノリ(声)  魚金の清さんおじゃましてませんでしょうか~。

律子(声)  清さん、隠れたってだめよ、ここにあんたの汚いスパイクがあるんだから~。

清次     律子だよ、く~、みんな揃ってやんな。

久美     あの、

清次     (叫ぶ)うるせえな~、お前ら今何時だと思ってんだ~、

敏子(声)  清さ~ん、

公子(声)  清さ~ん、

恭平     何なんだよ。

清次     申し訳ない、みんな俺のダチで(ユニフォームを)これこれ、チームメイト。

恭平     それが何でこんな夜中に、

清次     多分俺を追いかけて来たんだな、心配しなくていいよ、すぐに追い返すから。

久美     お願いします。

清次     夜中に騒がしちまって、本当に申し訳ない、(退場)

恭平     ふ~、

久美     私たち何やってんの、

恭平     逃げるタイミングのがしたな、

久美     顔だってばっちり見られたし、

恭平     とにかく、魚屋をさっさと追い出して、俺らも早いとこずらかろう。

公子(声)  本当にいいのこんな時間に、

清次(声)  そう言わずに挨拶だけしてけって、

恭平     えっ、

久美     まさか、

清次(声)  心配はいらねえって、ざっくばらんないい人たちなんだから。

久美     追い返してないじゃない、

清次     (登場)もたもたしてねえで、入った入った。

久美     あの、

律子     (登場)おじゃまします。

公子     (登場)夜分すみません。

恭平     お、おい、

ノリ     (登場)こんばんは。

久美     こんばんはって、

恭平     ちょっと待ってくれよ、

清次     挨拶は全員揃ってからだよ、

タンキチ   (登場)どうも、どうも、

久美     あの、

敏子     (登場)遅い時間にすみません。

ママ     (登場)清さんがお世話になってます。

清次     全員入ったか、しかしお前ら良くここが分ったな。

律子     何言ってんのよ、あんな話の最中に居なくなっちゃたんだから、すぐに分るわよ。

敏子     清さんの性格だもん、ねえ。

ノリ     だけど清さん、常識的に言ってこの時間は無いよ。

タンキチ   そうだよ、

清次     ばか、世の中には常識に優先する真心ってもんがあんだよ。

ノリ     出たよ清さん得意のフレーズ、

公子     真心は生ものだ、

敏子     新鮮な内にとどけなかったら伝わらねえんだよ。

清次     その通り、

タンキチ   魚金の刺身じゃないんだからさ、

清次     何だと、

敏子     そりゃ清さんの気持ちは分かるけど、

久美     あの、

公子     こんな時間に押しかけられた人の気持ちを考えなきゃ、

タンキチ   そうだよ清さん、へたしたら犯罪だよ。

清次     タンキチこの野郎、お前は大げさなんだよ。

久美     あの、

律子     何言ってるの、ちっとも大げさじゃないわよ、

ノリ     そうだ、清さんが悪い、

清次     てめえら寄ってたかって、

ママ     清さん、私もこれはちょっとやり過ぎだと思うわ。

清次     あれ、ママに言われると俺も返す言葉がねえな。

敏子     何ママにだけ素直になってんのよ、清さん。

ママ     心配になってみんなで後を追いかけてきたんだから。

公子     そうよ清さん、こういう事ってね、

久美     (叫ぶ)すみませ~ん、皆さん(一同静まり、久美に注目)あの、一体何なんですか皆さん、

恭平     がんばれ、久美、

久美     今何時だと思ってるんですか。もう夜中二時を回ってますよね。他人の家を訪問する時間じゃないですよね。

 

(しばしの沈黙)

 

律子     清さん、この人たち?

清次     ああ、紹介が遅れちまって、えっと、まず、この人がこちらのご隠居の息子さんで、確か政伸さん、

恭平     あ、そう政伸です。

清次     そんでもってこっちが政伸さんのガールフレンドで、えっと、

恭平     久美です、

久美     何紹介してんのよ、

恭平     あっ、

律子     そう、息子さんなんていらしたんだ…とにかく、今夜は申し訳ありませんでした。おっしゃる通り、非常識な時間にお邪魔してしまって、清さん、だから言ったでしょう。

清次     律子、

律子     やっぱり、どんな理由があったとしても、こんな時間に人様のお宅に押しかけちゃいけないよ。

清次     そう、だよな。

律子     お掛けした迷惑は取り返しがつかないけど、お詫びは又日を改めるとして、今夜はこれで退散しよう。

清次     分ったよ。

久美     良かった、分って頂けて、

恭平     うん、良かった。

律子     清さん、念のために聞くけど、勿論こちらに伺った訳はもうお話したんだよね。

清次     それが、まだちゃんとは、

律子     そうなの、

恭平     でも、それはもう別に、

律子     敏子、あんたどう思う。

敏子     まずいね。

律子     まずいよね。

久美     いや、だから、

律子     公子はどう思う。

公子     このままじゃいけない。

律子     やっぱりそうだよね。

恭平     あの、

律子     チームのエースが不祥事をしでかして、それにうちらも乗っかった、

敏子     高校野球だったら甲子園出場は夢と散るね。

恭平     はっ?

久美     あの、

律子     しかも、フェアプレイが信条の宝川イールスのエースが、わざとボールを当てに行った、ビーンボールを投げたと思われてる、そんな感じだよね。

ノリ     りっちゃん、そいつはまずいよ、

タンキチ   何とかしなきゃ、清さんだけじゃなくて、俺ら野球が続けらんない。

恭平     そういう問題じゃないと思うけど、

タンキチ   りっちゃん、

律子     分った清さん、ここはうちらが盾になってあんたに代わってしっかり謝るから、

久美     は?

清次     律子、

律子     清さんは男の本懐をちゃんと果たしな。

清次     すまねえ。

久美     あの、こちらとしてはすぐに出てって貰えるだけで、

律子     せーの、

一同     ごめんな~さい。

律子     本当にごめんなさい、迷惑は百も承知なんだけど、きっと話せば分って貰えると思うのね。

ノリ     そう、何で清さんが今夜、こんな時間にこちらを訪問させて頂いたのかって、

久美     それはもう結構です。

律子     話せば長い物語、なんだけど、

久美     やめて下さい、

敏子     あ、もちろん、時間はとらせません。

公子     ダイジェスト版でお送りしちゃうから。

律子     話させてよ、じゃなきゃうちらも眠れないもん、

久美     お帰りください。

恭平     帰ってくれよ。

律子     何よ、話を聞く位いいでしょ。

恭平     何言ってんだよ、だいたいあんたらな、

重吉     政伸、

恭平     ん?

重吉     政伸、

恭平     な、何だい、父さん、

重吉     今夜は客が大勢だな、

恭平     ごめんね、うるさくして、すぐに帰ってもらうから、

重吉     いや、賑やかで、こういうのも悪くない。

恭平     え、

重吉     ゆっくりしてって貰いなさい。

ノリ     やっぱりご隠居年の功、

タンキチ   話が分る、

恭平     ちょっと待ってくれよ。

律子     良かったね清さん、

清次     ああ、

敏子     おじいちゃん、ありがとう。

公子     ありがとう。

ママ     清さん、言いたい事あるんでしょ。

清次     そうだな。じゃあ、

敏子     清さん、頑張って、

 

(一同拍手、久美、恭平なすすべ無し)

 

清次     ご隠居、まずはこの度の宝川商店街主催交通事故遺児育英基金への多大な寄付、本当にありがとうございました。(深々と礼)そりゃ金額でびびって急に手の平ひっくり返したようで情けない話だけどさ、三千万なんて寄付、商店街始まって以来だからさ、ご隠居がそんな事してたなんて知らなくて、俺さっきまで飲んでたママんとこの向日葵で、例によってさんざっぱらご隠居の悪口を言ってたのよ、そしたらさ、横で飲んでた民生委員の国江田さんが、急に怒り出しちゃって、俺、国江田さんに殴られちゃつたよ。そんで今度の寄付の話を知ったのよ。本当に申し訳ねえ。思い返せばさ、ご隠居が六年前俺っちの練習グラウンドだった空き地にこのお屋敷をおっ建ててからの因縁だもんな、あ、空き地は元々俺っちが勝手に使わせて貰ってただけなんだけどね。ご隠居もほら、あんまり人付き合いの良い方じゃないからさ、それに俺っちとは何か人間の種類が違うようでさ、こちとらガサツだから、そりが合わねえで結構トラブルもあったよな(急に涙ぐみ声にならない)

敏子     清さん、

タンキチ   清さん、

清次     だけど、だけどさ、俺っちは表面だけでご隠居の事を判断して、ちゃんとご隠居の事を知ろうとしてなかったんだよな。本当に、本当に申し訳ねえ。国江田さんの話だと、近頃じゃご隠居もすっかり身体を悪くしてるって言うしさ、俺っちも同じ町内に住む人間として、ここらでいがみ合いは手打ちにして、何か出来る事があったら、是非手助けしてえと思ってさ、いや、そうさせて下さいって、お願いに上がったんだよ…ご隠居、この通りだ。(頭を下げる)

ノリ     ご隠居、

タンキチ   ご隠居、

敏子     お爺ちゃん、

 

(重吉、にっこりと笑う)

 

ママ     清さん、

律子     あんたの真心が届いたよ。

一同(口々に) おめでとう、良かったね。

敏子     はいはいはい、(重吉を中心に、左右に久美と恭平を引き寄せみんなを並ばせる)みんな並んで、仲直りの記念ね。(携帯のカメラで)はいチーズ、カシャ、

恭平     久美~、

久美     あ~、

清次     いや嬉しい、嬉しいよ俺は、

ママ     本当良かったわね、清さん。

清次     ご隠居、あ、それからお二人さんも、これからはさ、俺っちの事は家族だと思ってよ。

恭平     あ、はい、

久美     ありがとうございます。

清次     いやめでたいよ、なあノリ。

ノリ     うん、今となっては笑い話だけどさ、ご隠居とは本当戦争だったもんね。

タンキチ   本当、本当。

清次     律子、こういう機会だからさ、ちょいとだけ、な、

律子     そう来ると思ったよ。そうね、こういう時だし、いいよね政伸さん。

恭平     え?

敏子     カンパイ、

清次     ノリ、タンキチ、角のコンビニで、ビールな。

ノリ     あいよ、

タンキチ   行ってきます。 (ノリ、タンキチ退場)

ママ     結局こうなるんじゃないかと思ったわ。

清次     今夜は飲み明かそう、なあ政伸さん。

敏子     清さん、乾杯だけよ。

恭平     もうどうにでもしてください。

ママ     じゃあ、私達はちょっと場所を空けましょうか。

公子     そうね、これじゃあね。

敏子     ねえ、この部屋、

清次     今頃気づいたのか、このすっとこどっこい、聞いて驚くなよ、

恭平     あの、清さん、

清次     うん?

恭平     あんまりその、大げさな話にしたくないんで、

久美     そうそう、

清次     あ、そうか、そうだよな、分った。

敏子     何なのよ、清さん、

清次     言わぬが花よ人生はってな、

公子     何よそれ、

清次     いいからとにかく、手伝いの手始めだ、ちゃっちゃとこの部屋片付けようぜ。

律子     そうね、やっちゃおう。

 

(全員で片付け始める)

 

久美     (恭平に)どうするの、

 

恭平「逃げよう」という仕草。上手ドアに向かおうとする二人)

 

律子     ねえ、政伸さん、

恭平     は、はい、

律子     どこに何を片付けたらいいのか指示してくんない。

恭平     ああ、それはですね、

久美     衣類は全部タンスの中、あと、その他床に落ちてる物は、適当に、そこの開き戸の中に押し込んで貰えたら、ね、

恭平     うん、

敏子     了解、

 

(一同、指示されたように片付ける。再び逃げ出そうとする二人)

 

公子     本は、本棚でいいんでしょ、

久美     お願いします。

敏子     帽子って衣類かな、

恭平     とにかく適当に、

清次     ほらほら、(ドアの辺りから久美と恭平を引き戻し)二人はご隠居と一緒に座って見ててよ。

恭平     ありがとう。

清次     しかし、ご隠居にこんな息子さんがいたなんて、驚いたよな。

敏子     そうよね。

律子     全然見なかったもんね。

恭平     あの、いろいろ事情がありまして、ずっと離れて暮らしてたんで、

律子     いいのいいの詳しい事は、どこの家にも色々あるし。

敏子     そうよ、ただ、こちらにそういう感じの人の出入りが無かったから、

ママ     勝手に身寄りの無いお年寄りって事にしちゃってたのよね。

清次     それもこれも、俺っちが初めからちゃんと近所付合いしてれば良かったって話よ。

敏子     本当、そうよね。

清次     あ、そう言やぁこっちの事は何もはなしてなかったよね。俺っちは宝川商店街の草野球チームでイールスってのよ。

久美     はあ、

清次     監督が鰻屋で、イールってのは鰻って意味なんだよ。

公子     監督曰く、つかみ所のないチームを目指してるのよね。

敏子     そんで、私達はイールスの私設応援団、ピンクイールス。

律子     まあ、本気で応援してる訳じゃなくて、いつも一緒に飲んで騒いでるだけ、清さん達とは腐れ縁でさ、

敏子     あと、ママは私達のたまり場、スナック向日葵のオーナーで、イールスの知恵袋。

律子     昔は銀座でお店やってたのに、何故かこんな下町に居着いちゃった変わり種なのよね。

ママ     こっちの方が性に合うだけ。

公子     ねえねえ、政伸さんて仕事は何やってる人なの。

恭平     え、俺はその、

ママ     弁護士さん、

恭平     えっ、

ママ     …違うか、

恭平     あの、

ママ     何となく、そんな感じかなって、

恭平     俺、今は求職中で、

ママ     そう、いい仕事見つかるといいわね。

公子     (エレベーターのボタンを押す)あ、開いちゃった。(ドアが開き中には車イス)何これ、かわいい、ちっちゃな車庫みたい。ねえ、政伸さん、この車イスはどうしたらいい。

恭平     え、そうだな、どこか適当に、廊下の奥にでもかたしといてよ。

ママ     車イスはベッド脇でしょ。

恭平     え、あ、そうか、親父さんが、

清次     政伸さん、もしかして知らなかったのかい。ご隠居、一月位前から車イスなんだよ。

律子     買い物とか不便だろうからって、民生委員の国江田さんも色々手助けしようとしたんだけど、みんな断ったみたい。

恭平     そうなんだ、

清次     そうなんだって、あんた息子だろ、

恭平     うん、まあ、そうだけど、

清次     だったら、あんたがしっかりしてくれよ。

恭平     そうだよな、いや、だから遠くに住んでたから、ずっと連絡も取れなくて…帰ってみたら車イスか、いや参ったな。(笑う)

 

(一同、恭平に冷ややかな視線)