【第1回】① | マイナビブックス

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ゲイシーサーカス団の最終演目は、女性踊り子フタバの切断マジックで締めくくられる。道化師ジョン・ウェインの紹介から、フタバは壇上にあらわれ、恒例の踊りを披露する。踊りの終わりにマジックボックスを押して現れるフィッシュ。ジョン・ウェイン、フィッシュに誘われ、フタバはボックスに入っていく。フィッシュとあだ名された青年は、この切断マジックを取り仕切るマジシャンである。フィッシュは鋭い西洋刀をかざすと、ボックスに入れられたフタバの膝下目掛けて突き刺す。サーカス団はこの切断マジックを行うことによって、月の終わりのショータイムを毎回大好評の渦に巻き込んでいた。

 

暗転

 

このサーカス団のピエロ、ジョン・ウェインはメイクのために白い顔をしている訳ではない。ただ、白い顔だからピエロになったという訳で、正直、ピエロな訳でもない。ジョン・ウェインのまわりにはありったけの薬袋と、何か水分の含まれた瓶、スプレーのような缶が散らばっている。そして地に染まった細長い包みが二つ。それら一つ一つが、健康を促進させるためのものには見えようはずもなく、異様、唯々異様を印象付けることのみに留まる。フィッシュが現れる。フィッシュはサーカスの衣装に身を包んでいる。フィッシュは迷いなくジョン・ウェインのそばにより、隣に座る。

 

フィッシュ  魚だよ、ジョン。

ジョン・   ・・・。

 

フィッシュはジョン・の肩に右腕を廻し、何度か左手で殴りつける。ジョン・ウェインはうめき声一つあげない。ジョン・ウェインが衝撃で倒れた瞬間に、フィッシュは血塗られた包みを手に取る。信じられないくらい取り乱す。

 

フィッシュ  水族館!!水族館!!あーーーー、あーーーー!

 

フィッシュが何か激昂して叫び声をあげている間に、ジョン・ウェインは催涙スプレーをフィッシュに向けて噴射する。フィッシュは呻き、目を押さえて暴れまわる。ジョン・ウェインは馬乗りになって何度もフィッシュを殴り、フィッシュのがくりと空いた顎に粉薬、錠剤、不気味な液体を流し込む。じたばたと暴れ動かしていたフィッシュの四肢が緩慢に垂れ下がり、叫び声が笑い声に代わる。ジョン・ウェインはフィッシュの上から離れて彼を解き放つ。フィッシュは薄ら笑いを浮かべたままふらふらと立ち上がり、出口を探す。トンキチ、チンペイ、カンタが現れる。チンペイはフィッシュを掴むと、はけ口へ放る。チンペイ、カンタは血塗られた包みを見つけると、それを持ち上げ、野球を始める。ジョン・ウェインは身につけていたボロボロの衣服を破り捨てると裸になり、隅に置いておいた衣装かけからスーツを取り出し、バリッと着こなしていく。ガイキチが現れる。野球をして遊んでいるチンペイ、カンタに檄を飛ばす。

 

ガイキチ   馬鹿野郎!もっと丁寧に持てねえのか!

カンタ    はあ。

ガイキチ   繋がらなくなったらどうすんだ!

チンペイ   へえ。

ガイキチ   すぐに運べと言っただろう!行け!

トンキチ   ほえ。

 

トンキチとチンペイは包みをそれぞれ一つずつ抱えて袖にはけていく。カンタは手ぶらで去る。なかなかはけていかないのでガイキチは二人を蹴って移動を急かせる。二人がはけていくと同時にガイキチもはけるが、はける直前にナガボウキを中央へ放る。中央へと放られたナガボウキが地につく以前にジョン・ウェインがそれをキャッチし、キャッチした途端に上手へと放る。皮の靴をスマートに履き揃えたジョン・ウェインは端正な出で立ちで中央に佇み、時計を見る。

 

ジョン・   暗転だ。二週間が経過する。

 

暗転

ガイキチが現れる。ガイキチは上手に投げ捨てられたナガボウキを手に取り、下手を見やる。
フィッシュがやってくる。フィッシュはガイキチに愛想笑い。ガイキチはナガボウキで思い切りフィッシュを叩く。痛みで身をくねらすフィッシュの足下にナガボウキを放る。フィッシュは嬉しそうにナガボウキを拾うと、一際嬉しそうにスイングして見せて、お返しにガイキチに撃ち込もうと振り上げる。しかしカウンター気味にガイキチがフィッシュに唾を吐きかける。

 

ガイキチ   グズグズしてんじゃねえよ。

フィッシュ  へへへ。

 

フィッシュは汚れている床をナガボウキで掃いてまわる。そして唾を吐きかけられた自分の顔もついでにホウキで拭う。袖で話し声が聞こえる。話し声はだんだん舞台に近づいてくる。

 

カンタ    ミューだろ。

チンペイ   ああ、絶対ピカちゅーより強い。

トンキチ   ゼニガメ。

カンタ    でもミューよりはピカチューだな。

チンペイ   なんでだよ、殺すぞ。

トンキチ   ゼニガメ

 

チンペイ、カンタ、トンキチが下手袖から舞台上へ現れる。

 

カンタ    ピカチュー最強だっつってんだよ。死ぬかコラ。

チンペイ   へっ、!(カンタに唾を吐きかける)

カンタ    ああっ汚い!汚い!

トンキチ   ペッ(さらにカンタに唾を)

フィッシュ  あ!

 

フィッシュが気を利かせてホウキでカンタの顔を拭う。

 

カンタ    やめて、より汚くなる!

トンキチ&チンペイ 汚くなれ!汚くなれ!

フィッシュ  へへ、俺親切だろ!さっき俺もガイキチさんに唾をもらってばっちかったからこれで拭いたんだ。きれいになった。きれいになったろ!

 

カンタはフィッシュの頬を4回ひっぱたく。ピシャリと激しい音が続けざまに鳴り響く。耐えかねてフィッシュはぶっ倒れる。

 

フィッシュ  へへへ、照れ屋だね。(すぐ立ち上がる)

 

チンペイがフィッシュの尻を蹴り上げる。

 

フィッシュ  わあ!

チンペイ   白痴。

 

チンペイはさらにフィッシュの尻を蹴り上げる。

 

フィッシュ  ああ!なんだ!?

チンペイ   うんこしろ!

 

チンペイはさらに尻を蹴る。カンタもフィッシュの尻蹴りに参加し、蹴りを応酬する。フィッシュはカンタに蹴られては跳ね上がり、チンペイのいるところへ逃げ込めば、またもチンペイに蹴り上げられてカンタの方へ戻される。この応酬は何度も続く。トンキチは彼らのパスワークが始まると上手で待機し、うんこをするポー人具で、シュートを待ち構える。つまり、ゴールキーパーなのだが、決して彼のところへボールが飛んでくることはない

 

フィッシュ  ああ!わかったサッカーだね、差し詰め僕はボールだ!

カンタ    うんこしろ!

チンペイ   うんこしろよ!

フィッシュ  チャンピオンズリーグ決勝も後半残り15分に差し掛かりました。両チームとも得点のないまま、迎えた最終チャンス!エースチンペイ、キャプテンカンタの名コンビは、この均衡を崩せるか!

 

すかさずサッカー監督のスタイルに身を包んだジョン・が現れ、チンペイとカンタと肩を組む。フィッシュは身体をボールのように丸め込み、作戦会議を待つ。

 

フィッシュ  監督の指示が入ります。僕はボールなので黙って待つだけです。

 

作戦会議は基本的にスペイン語である。

 

ジョン・   Usted ve, ustedes son unos genios.
(いいかおまえらは天才だ。)

チンペイ   ¡Sí!

(カンタ)  (はい!)

トンキチ   ¡Sí! Sobre todo de mí!

(カンタ)  (はい!特に俺が!)

ジョン・   Correr con el balón. Patear la pelota. Marcar un gol. Eso es todo!
(ボールを持って走る。ボールを蹴る。ゴールを決める。いいな!)

チンペイ   ¡Sí!

(カンタ)  (はい!)

トンキチ   ¡Sí!

(カンタ)  (はい!)

ジョン・   Más le vale que el que pierda, por lo que el juego está hecho!
(あきらめたらそこで試合は終了です!)

チンペイ   No, dejé de anillos de silbato.
(いや、ホイッスルが鳴ったらです。)

(カンタ)  (う、あう!う!)

トンキチ   Más de que termine el tiempo!
(時間が経ったらです!)

(カンタ)  (お、えあ、あう!)

ジョン・   ¡Lo sé! Vaya usted sabe! Besar a mi aas!
(そうだ!わかったら行け!死ね!)

チンペイ   ¡Sí!

(カンタ)  (はい!)

トンキチ   ¡Sí!

(カンタ)  (はい!)

 

監督の指示を受けて、名選手三人はフィールドに戻り、サッカーを再開する。トンキチはキーパーのため上手。

 

フィッシュ  チンペイ選手、カンタ選手、監督の指示で迷いが吹っ切れたのか、ここにきて一番の動き!相手ゴールを脅かします!カンタ選手針の穴を通すようなスルーパスそしてカンタ選手のシュート!

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